まさかの開幕4連敗「試合に勝てない痛さをすごく感じています」
サンロッカーズ渋谷は10月15日、ホームで琉球ゴールデンキングスを迎え撃ったが82-84で競り負け開幕4連敗を喫してしまった。
この試合、SR渋谷は第2クォーターにセカンドユニットの奮闘でリードを2桁に広げるが、直後に猛攻を食らい、逆転を許してハーフタイムを迎える。後半に入っても追いかける展開が続くSR渋谷は、試合時間残り36秒で5点のリードを許す。ここから2ポゼッション連続でスティールを奪い残り9秒で82-81と逆転するが、琉球のラストオフェンスを止めることができず、あと一歩で勝利を逃した。
今オフ、SR渋谷は新ヘッドコーチにアルバルク東京でリーグ連覇を達成した名将ルカ・パヴィチェヴィッチを招聘すると、FIBAワールドカップ2023での大活躍が記憶に新しい日本代表のジョシュ・ホーキンソン(前信州ブレイブウォリアーズ)、オールラウンダーの田中大貴(A東京)などリーグ屈指の大型補強に成功した。しかし、約半分のメンバーを入れ替えるなどチーム刷新を行ったこともあり、まだまだチームとしての完成度は低い。さらにゴール下の番人であるジェームズ・マイケル・マカドゥが開幕から戦線離脱し、外国籍選手が一人少ない状態で戦っている。また、琉球戦ではディフェンスに定評のあるアキ・チェンバースもインフルエンザ感染により欠場していた。
SR渋谷は開幕から2節連続で、継続路線でチーム力を高めてきた名古屋ダイヤモンドドルフィンズ、琉球と強豪との対戦が続いたが、結果的に組織としての完成度の違いを痛感させられた。
新生SR渋谷を牽引する一人の田中は、「開幕からまだ1回も勝てていないのはタフです。マック(マカドゥ)がいない、今週に関してはアキもいない痛みに加え、こうやって試合に勝てない痛さをすごく感じています。自分たちには決められたルールがあって、それを試合で遂行していく戦い方ですが、まだ40分間を通して徹底し切れてないです」と厳しい表情で語る。
A東京でパヴィチェヴィッチの下で5シーズンに渡ってプレーした田中は、指揮官の求める細部にまでこだわった規律の取れたチームバスケットボールを作り上げることは「どうしても時間がかかるモノです」と、その大変さを知っている。しかし、これ以上黒星が先行すると、ポストシーズン進出は厳しくなることも十二分に理解している。
「時間がかかるとはいえ、目の前の勝ちを逃していくと、自分たちが目標としているCSに繋がっていかないです。タフな状況が続いていますけど、なんとか勝ちを拾っていかないと後々になって取り返しのつかないことになってしまう。試合だけではなく、練習から自分たちでもっとやるべきことの徹底を意識していきたいです」
「フィジカルだったり、試合の中でのスタミナは少し足りないのかなと思います」
大型補強に成功したSR渋谷のタレント力を持ってすれば、チームとして未成熟でも個の力を前面に押し出すことで勝ち切れるのでは、といった見方もあるだろう。だが、田中は「傍から見たらメンバーが揃って今年のSR渋谷は強いと思われるかもしれないですが、(タレントだけで勝てる)そういう甘いリーグじゃないと思います」と冷静に語る。
「先週の名古屋は中心メンバーを変えずにチームを作り上げてきて、今週の琉球も同じスタイルで昨シーズンのチャンピオンチームになっています。両チームともしっかりとしたベースができているチームです。Bリーグ全体を見ても、そういうチームを倒すには、自分たちも早く組織力でそのレベルに達しないといけないと思います」
田中個人で言うと、1月に行った腰椎椎間板ヘルニアの手術によって昨シーズンはわずか14試合出場のみと、キャリア初の長期離脱を余儀なくされた。そこからの復帰でゲーム勘への不安がある中、琉球との2試合では共に高確率でシュートを決め初戦は16得点、2日目は18得点と活躍した。
また、田中にとって今シーズンはキャリア初の移籍となるが、「ヘッドコーチが変わっていれば多分、難しかったと思います。ずっとルカの下でやっていたので新しいチームに来た感じは正直あまりないと思います」と、スムーズに溶け込めている。ただ、自身の状態については、まだ万全ではないと明かす。
「フィジカルだったり、試合の中でのスタミナは、やっぱり少し足りないのかなと思います。オフェンスでシュートが入れば、良く見えるかもしれないです。ディフェンスのところで試合を通してスクリーンを当てられると、ボディブローのようにどんどん効いてきて、終盤になってくると足に結構くるところが今はあります」
田中のコンデイションのみを考えると、シーズン序盤は長くても20分を少し超えるくらいにプレータイムを抑え徐々に増やしていくのが理想的だ。しかし、今の苦しいチーム状況を受け、中心選手としての強い責任感からこう語る。
「当初はもうちょっと長い目で見て時間を抑えながらやっていけたらいいなと思っていましたが、今はそうも言っていられない状況です。一方で目先の勝利だけを考える訳にもいかないので、バランスは難しいです。そこは神経を使いながらプレーしていきたいです。その中でも一番は、自分が抜けることなく毎試合コートに立つことだと思います」
「甘さを本当になくすところは、自分がこのチームでできる仕事の1つ」
次節、SR渋谷はB1昇格1年目ながら開幕4連勝中の長崎ヴェルカをホームに迎える。開幕直前に電撃加入した馬場雄大が先週の富山グラウジーズ戦から出場し、さらに勢いに乗っている相手だが、ここで連敗を喫してしまうと、それこそCS出場へ取り返しのつかない事態になりかねない。とはいえ、チーム状態を急激に改善させる都合の良い特効薬はない。自分たちのやっていることを信じ、少しでもプレーの精度を高めていくことに集中する。足下をしっかり見つめて一歩ずつ前進していくことの大切さを田中は分かっている。
「どうしても結果に目がいきがちですが、試合の中で良い時間帯ももちろんあります。コーチからも話がありましたが、勝てないからといって、何か特別なことが必要かと言ったらそうではないです。今やっていることをどれだけ徹底できるかが大事で、そこを突き詰めていくだけかなと思います」
結果は出ていないが、「みんな必死になって毎日ハードワークをしていて、可能性を秘めています」と、田中はチームの伸び代を信じている。そして、SR渋谷が真の強豪の仲間入りを果たすにはより強い勝利へのこだわりが必要で、ウィナーズメンタリティを浸透させることも自分の役割だと田中は語る。
「やはり強いチームは今日みたいな負けは絶対に許されません。『あと少しで勝てたね』で終わったら、絶対に優勝できるチームにはならないです。本当に勝たなければいけない世界だと思います。そのために 甘さを本当になくすところは、自分がこのチームでできる仕事の1つです」
好調の長崎を撃破し、ホームのファンに今シーズン初勝利を届けるには、攻守において田中のハイパフォーマンスが必要だ。そして田中は「自分だけでなく、味方もプッシュしていきたい」とリーダーとして周囲を鼓舞し、勝利への強い決意を持って今週末に臨む。