「アルバルクに対して敵意をむき出しに」
宇都宮ブレックスの佐々宜央ヘッドコーチは、第2節のアルバルク東京戦にひとかたならぬ思いを持っていた。ヘッドコーチに就任した昨シーズンは、4戦全敗。アシスタントコーチをつとめた2021-22シーズンも1勝3敗と負け越している。第1戦を60-75の逆転負けで落とした翌朝に実施されたミーティングを、佐々ヘッドコーチは「めちゃくちゃ濃いミーティングだった」と振り返る。
「細かい戦術を確認しつつ、アルバルクさんが逆転していくところでの球際とかリバウンドの映像を見せながら、色んな話をしました。その中で僕は、何年もアルバルクさんに勝てていないので、『このレギュラーシーズン中はそこに対して敵意をむき出しにしたほういい』と言いました。ブレックスの選手たちって本当に良い奴らすぎるので」
「良い奴ら」という表現は、こと勝負の世界においては純度100パーセントでポジティブな言葉ではないだろう。ベンチでエモーショナルに振る舞い、「叱咤激励を含めていろいろなアプローチで自信をつけさせようとしているけれど、今回のような『(1万人が詰めかけた)どアウェー』に来るとちょっと構えてしまうところがある」とコメントする指揮官のもどかしさが透けて見える言葉だ。
「僕はアルバルクに負けるっていうのが本当に絶対嫌なので。もちろんどこのチームにだって負けたくないですけど、アルバルクみたいに勝てていないチームにこそ『絶対に負けない』という気持ちだけは出していこうっていう話をしました」
指揮官の熱は選手たちにも伝わった。序盤からエナジーの高いプレーでA東京を圧倒し、リードを広げられかけた第4クォーター中盤もD.J.ニュービルの攻めを中心に再逆転に成功。すわオーバータイム突入かと思われた残り3秒、鵤誠司がフリースローを沈め、71-70というスコアで激戦に終止符を打った。
「昨日は逆転されてから一気に10点離されてしまったけど、今日はチームでステップアップして、ベンチを含めて最後まであがけた。特に、4点リードを奪われて、昨日と同じような展開になりかけたところで、選手たちが昨日やっていなかったハドルを組んでいたのは本当に素晴らしかった。内容についてはいろんな反省はありますけれども、チームとして最後までこのドアウェーを戦って、ブレックスファンの人たちと一緒に勝利を味わえてよかったです」
3ポイント成功率は7.7%も「完全に勝ちに行きました」
佐々ヘッドコーチ率いる宇都宮は、コート上の5人が適切なスペースを取り、ドライブからのキックアウトパスで3ポイントシュートを打つというオフェンスコンセプトを掲げている。しかし、A東京は第1戦からこのスタイルを打ち消すディフェンスを仕掛け、それにより宇都宮の3ポイントシュート成功率は31本試投・7本成功の22.6パーセントと低迷した。
佐々ヘッドコーチは「それでも31本打ったのはすごいなと思いました」と振り返りつつ、「今日は完全に勝ちに行きました」とコメント。第2戦はスタイルを追求することよりも、何が何でも勝利することを優先したと明かした。
第2戦の宇都宮の3ポイントシュート成功率は13本試投・1本成功の7.7パーセントに留まったが、第1戦よりも得点を伸ばすことに成功している。また、この試合は鵤と比江島慎がA東京のガード陣に執拗にポストアップを仕掛ける場面も目立った。佐々ヘッドコーチはこのプレーの意図について以下のように説明した。
「これは『ガードが中に切っていく』というプレーの選択肢の1つなので、スタイルから逸脱したものではないんです。鵤ほどパワーがあるガードはBリーグにいないと思うので、その強みはこれからも生かしていきたいですが、今日はちょっとやりすぎちゃったかなという(笑)。ただ、海(テーブス海)はウチにいた頃からインサイドのディフェンスに苦戦していたところがあるし、竜馬(橋本竜馬)もウチのガード陣に比べると小さいので、ここは狙っていきたいと思っていました」
佐々ヘッドコーチは、今の宇都宮には確固たる自信が必要だと強調する。「やっぱり勝たないとチームって自信がついていかない。いい内容のバスケをやっていても、どれだけ練習をやっても、まずは勝って自信をつけないと。ウチには良い時間は良いけれど、長いトンネルに入ってしまう時間帯もあるという課題があって、去年も、優勝したその前のシーズンも、同じようなことで苦しんだ時期がありました」
開幕直後の時期に、自らのスタイルを発揮できない状況でもファイトし続け、昨年一度も勝てなかったA東京に勝利した。この事実はチームに大きな自信を与え、今後の宇都宮に『1勝』以上の大きな価値をもたらすことだろう。