「良いタイミングで」「良いポジションに」いる選手
渡邊雄太はシーズン始動の会見で、サンズと契約した理由を「KD(ケビン・デュラント)の存在にある」と話した。
渡邊はグリズリーズとラプターズでの過去4シーズン、安定したプレータイムの確保に苦労してきた。これは彼のチーム内での立ち位置が定まらず、その時その時のチームの状況に彼の起用法やプレータイムが左右されたことが大きい。
5年目の昨シーズンは飛躍の年になったが、これまでとの違いは絶対的なエースと良い関係性を築けたことにある。相手チームはデュラントにダブルチームで対応する。デュラントには、それによって空いたチームメートへのパスが自分でフィニッシュに行くよりも得点期待値が高ければ、それを正確に判断できるバスケIQがある。そして渡邊は「良いタイミングで」、「良いポジションに」いることができた。
昨シーズンの渡邊は5.6得点、3ポイントシュート成功率44.4%ともにキャリアハイを記録。それでもプレータイムが伸びた一方でリバウンドやブロックの数字は変わらず、ポゼッション当たりのスタッツでは落ちている。これは「何でもいいからアピールしなければいけない」ラプターズ時代とは対照的に役割が整理されたことを意味し、外回りを中心にしたディフェンスと3ポイントシュートに特化したことがNBAでの地位を確立する結果に繋がった。
デュラントに限らず、優れた個人能力を持つエースは自分の周囲を優れたシューターで固めるのを好む。そしてシューターにとっても、オープンショットのチャンスを個人で作れるタレントはありがたい存在だ。レブロン・ジェームズと組むことでキャリアを築いたシューターの代表例がJR・スミスであり、スペンサー・ディンウィディーはルカ・ドンチッチと組んだ時に3ポイントシュート成功率を飛躍的に向上させている。
デュラントも同様で、渡邊について彼はこう語っている。「ディフェンス面でもハードにプレーするし、ジャンプシュートは年々向上している。今シーズンも彼の活躍に期待したい。ここまでのトレーニングキャンプで彼のプレーをみんなが気に入っているのは、僕個人としてもうれしいんだ。ブルックリンで彼の成長を毎日見るのは楽しかった。だからここフェニックスでも続けたいと思ったんだ」
昨シーズンは渡邊にとって飛躍の年になったが、2月にデュラントがサンズにトレードされた後、それまで平均20分を超えていた出場時間が半減している。デュラントとカイリー・アービングを放出した代わりにトレードで加わった新しい選手の起用が優先され、渡邊にとっては『チームの状況に彼の起用法やプレータイムが左右される状況』に逆戻りしたのだ。これは彼を信頼して必要としていたのが、ヘッドコーチのジャック・ボーンではなく、2月にいなくなったデュラントだったことを意味する。
その結び付きが本当に強かったからこそ、渡邊はサンズに移籍することになった。さらに楽しみなのは、サンズには1人では止められないアタッカーが複数いることだ。デュラントと渡邊の相性の良さに触れたヘッドコーチのフランク・ボーゲルは「KDだけじゃない」と言った。「雄太はブック(デビン・ブッカー)とも相性が良いと思うよ。ブックはボールを持つたびに雄太がどこにいるかアンテナを張っている。ダブルチームが来ればいつでも彼を探すんだ」
渡邊がプレータイムを争う相手はジョシュ・オコーギーにケイタ・ベイツ・ジョップ、ナシール・リトルと質も人数も充実している。それでも、起用される順番やプレータイムの長さがどうであれ、周囲の信頼に応えるパフォーマンスを見せていれば、優勝候補のサンズで渡邊は確かな実績を築いていくことになる。
— Phoenix Suns (@Suns) October 3, 2023