デイミアン・リラード

移籍決定までは「洞窟に一人きりでいるようだった」

バックス始動の会場となった本拠地ファイサーブ・フォーラム前の広場には、選手が歩く通路が設けられ、そのすぐそばでファンと交流できるようになってきた。詰め掛けたファンの数は5000人以上。そのお目当てはエースのヤニス・アデトクンボ以上に、トレイルブレイザーズから加入したばかりのデイミアン・リラードだった。

息子たちを連れて、ファンの間を歩くリラードの表情は、新しい挑戦への期待感に満ちていた。ポートランドへの愛情は心の奥底にしまい込み、バックスの一員としての旅を始めようとしている。リラードは温和な表情で今の心境を語る。「多くの人たちが僕と僕の家族を歓迎してくれた。素晴らしい経験だったし、そのおかげで仕事に取り掛かるのがさらに楽しみになった」

NBAで11シーズンのキャリアで初のトレード。ブレイザーズは彼の期待を裏切るようなチーム作りを進め、最終的に決別となっただけに、彼にとって楽しい経験ではなかった。「洞窟に一人きりでいるようだった。この先に何が起きるか全く分からなかった」とリラードは言う。

「エージェントから電話で『バックスだ』と伝えられた時、冗談かと思って『それ、面白いか?』と聞いたんだ。でも、その真剣な声で本当だと分かった。エージェントは『気持ちが落ち着いたらまた話そう』と電話を切った。僕はその場に座り込んで『本当に移籍するんだ』と思い、家族にどう伝えるか、引っ越しはどうするか、ちょっとパニックになった。ちょうど家族は外出していて、電話にも出なかったから、しばらく一人で抱え込むしかなかった。僕はまた自分の洞窟に戻り、バックスに加わる自分を想像し、そこで初めてチャンスだと認識し、興奮を感じたんだ」

「トレードは初めてで戸惑うことが多かったけど、ミルウォーキーでのこの2日間は最高だった。ここに来る時はいつも雪が降っていてホテルの中にこもっていた。だから、太陽が出ている水辺を歩くのは初めてで、この場所の良さを初めて知ったように思う。家族も快適に過ごしているし、これからどんな経験ができるのか楽しみだ。バスケの面でも、チームが作り上げてきた環境に僕が何かをもたらすことで、壁を乗り越えて優勝のチャンスを得られると思う。ここまでは素晴らしい経験をさせてもらっているよ」

新しい環境は彼にとって上々の手応えがあるようだ。そしてバックスでは、彼にとっては馴染みの顔との再会もあった。ブレイザーズを長年率いてきたテリー・ストッツがアシスタントコーチを務めており、リラードがバックスのバスケに馴染むのに大きな助けとなるだろう。

成功のカギを握るのはおそらくディフェンスだ。優勝したシーズンからバックスのポイントガードはドリュー・ホリデーで、彼が最前線でディフェンスを引っ張り、タフに守るチームの中心となってきた。リラードは爆発的なオフェンス力を誇る一方で、必ずしもディフェンスを得意とはしていない。それでも「若い頃は誰でもディフェンスが苦手なものだけど、僕はここ数シーズンを見ても年々ディフェンスが上手くなっている」と言う。

「若手との違いは、次に何が起きるかを予期して先手を打てるからだ。ディフェンスを重視するチームに来たことで、僕の役割も整理される。僕はフロアのどこにいるべきか、ローテーション、チームディフェンスのやり方を理解している。ペリメーターで最高のディフェンダーであるドリューに勝とうとは思わない。僕はキャリアを通じてオフェンス面で多くの責任を負ってきた選手だけど、ここではディフェンスでも良いプレーを見せるつもりだ」

キャリア12年目で迎えた第2章。リラードは勝つことだけに集中している。