昨シーズン、琉球ゴールデンキングスはBリーグ初となる悲願のリーグ優勝を成し遂げた。リーグ屈指の観客動員を誇る稼ぐ力と合わせ、競技面、ビジネス面の両方でリーグを牽引する琉球の屋台骨となっているのが、チーム創設時から在籍する安永淳一ゼネラルマネージャー(GM)だ。NBAネッツの球団職員として10年以上に渡りスポーツビジネスの最前線にいた知見、行動力で琉球を日本バスケ界の顔となるチームへと成長させた。日本バスケ界随一の敏腕フロントに昨シーズンの振り返り、今シーズンへの意気込みを聞いた。

貫く全員バスケ「みんなで勝つ喜びによって、選手たちの帰属意識も高くなる」

――まずは昨シーズンの優勝に対する思いをあらためて教えてください。人気、実力の両方でトップを取り、名実ともにBリーグを代表するビッグクラブとなった感覚はありますか。

キングスを作ってbjリーグで4回優勝できましたが、当時の日本にはもう1つNBLというリーグがありました。NBLの優勝チームとどちらが強いかと言えば、こちらが格下という劣等感はずっと抱いていました。そしてBリーグの開幕戦で、NBLを代表する強豪のアルバルク東京に2連敗して、実業団チームが積み重ねてきたモノの偉大さを感じました。そこからBリーグでの戦いが始まり、7シーズンをかけて優勝できました。

ただ、この優勝でキングスが日本のプロバスケットボール界でビッグクラブになったかというと、そうではないと思います。そもそもキングスは真の意味でビッグクラブにはなり切れないと思っています。何故なら僕たちは東京、神奈川、千葉、大阪、愛知、福岡のような大都会をホームとするチームではないからです。優勝後のインタビューで、ジャック・クーリー選手が「沖縄という本当に小さな島のチームが日本一になったんだ」と言いました。もちろん、沖縄の球団であることにキングスは誇りを持っています。ただ、大都市のチームなら人口の数%の人がファンになってくれれば十分に成り立ちます。それがキングスは沖縄県民の皆さんの大半に応援してもらえないと成り立たない。これはビッグクラブか、そうではないかを分ける大きな要素の1つです。キングスは沖縄の人たちの心の支え、魂という存在に少しでも近づけるように常に努力を続けることが欠かせません。僕たちは常に危機感を感じています。僕たちがビッグクラブになれると思ったらそれは驕りです。

――キングスはリーグ2年目からずっとチャンピオンシップの4強以上と、常に上位の成績を残してきました。また、一昨年には初のファイナル出場と順調にステップアップしました。昨シーズンは大きな自信があっての優勝でしたか。

西地区を6連覇してきて毎年、あわよくば優勝できるかなと淡い期待は持っていました。ただ、淡い期待でチャンピオンシップを迎えるようでは勝てないと痛感してきました。一発勝負であればラッキーで勝てるかもしれないですが、2試合先勝となると実力の差が必ず出ます。優勝するために何が必要なのか。それは一部のタレントに依存しないで、チーム全員の力で戦っていくことしかないです。例えば現行のルールだと帰化選手の存在が非常に大きいですが、僕たちでは最上級の帰化選手を獲得するのは難しいです。だからこそ、チームで勝つスタイルを高めていくため、2年前に桶谷(大)さんにヘッドコーチとして戻ってきてもらいました。全員バスケットボールをより浸透させていったことが、優勝の何よりも大きな要因でした。特に昨シーズンは、セカンドユニットの底上げを本当に重視して、出場機会を与え続けました。その成果が千葉ジェッツとのファイナルで発揮されました。初戦をダブルオーバータイムで勝った翌日、前日の激闘を感じさせない選手の生き生きとした動きで連勝できたのは選手全員を信頼し、タイムシェアにとことんこだわったからだと思います。

外国籍のオン・ザ・コート、帰化枠とアジア枠のルールがある中で、それぞれのチームに合った戦い方があります。週末の連戦でともにほぼフル出場するエースを中心とするのも一つのスタイルです。ただ、そういうスーパーマンのような選手をビッグクラブではないキングスが常に獲得できるのか。タレント力で相手を上回る横綱相撲のような戦い方を継続していけるのか。それは現実的ではないです。特定の選手に頼るのではなく、みんなで勝つのが僕たちがやらないといけないバスケットボールです。それにみんなで勝つ喜びを感じることで、選手たちの帰属意識も高くなります。どんな戦い方が正解なのか、僕には正直、分からないですが、日本人選手たちを信じて試合で起用する、チャンスを与えないと成長しないことだけは間違いないです。

「GMとして沖縄を深く愛してくれる選手を見つけ出せるかが非常に大切なこと」

――チームで戦うスタイルは不変の中、今シーズンのロスターは昨シーズンとほぼ変わっていません。そんな中、ジョシュ・ダンカンさんが去って(後に引退を発表)ヴィック・ロー選手が加入したことは大きな注目を集めました。

チームの戦いぶりを分析する時、やはり数字は大事な要素です。どの選手がプレーしている時にリードしているかや逆にチームは劣勢になっているのかを冷静に評価しています。その結果として、選手を入れ替えなければいけないこともあります。ダンカンさんのところをアップグレードするために、ロー選手を獲得したのは現実としてあります。ダンカン選手は選手としてだけでなく、人間性も素晴らしいチームプレーヤーの鑑といえる存在でした。だからこそ、彼と契約を解消する話をした時は本当に胸が引き裂かれる思いでしたが、彼はこちらの意向を真摯に受け止めてくれました。

ロー選手は、彼がオーストラリアのNBLでプレーしていた時からずっと目をつけていました。その時はすごく点を取るイメージでしたが、日本に来てからは集中力を切らさず、インテンシティの高いプレーを続けることができる選手という印象がより強くなりました。チームとして、常に彼が得点を取らなくても勝てるチームにしていきたいです。また、彼もチームで戦うコンセプトを理解してくれています。

彼はバスケットボールIQが高く、状況に応じて様々な役割をこなせる、玄人好みの選手です。また、ジャック・クーリー選手とロー選手が何年も前から仲良しなことも、すぐにチームに溶け込む助けになると思います。そしてロー選手の加入だけでなく、(コー)フリッピン選手がいなくなかった分はケガから復帰して2年目でコンディションが上がってきている田代(直希)選手、経験を重ねピークに近づいてきた小野寺(祥太)選手の出番が増えることで補える。バランスがとても取れているチームだと思います。

──クーリー選手は今シーズンがキングス6年目となります。共に永久欠番となったジェフ・ニュートンさん、昨シーズン限りで引退しスタッフとして加入したアンソニー・マクヘンリーコーチなど、キングスの成功には長く在籍する外国籍選手が不可欠です。彼らのように、沖縄に深く根付いていけると思える選手を意識的に獲得していますか。

それはあります。フィジカル、運動能力、タフネスなども重要ですが、長くプレーしてくれるかどうかは、ハートが一番の要素になります。この3人は全員がハートを持っています。クーリー選手も3年目くらいから日本や沖縄への愛がより深まったと感じました。そうなると、お金を稼ぐために日本に来ているという考えから、自分がプレーできているのはチームがうまく行っているからに変わります。クーリー選手は毎年、右肩上がりのパフォーマンスをしてくれていますが、「給料は右肩上がりでなくてもいい」くらいなことを言ってくれています。それくらいキングス、沖縄、ファンのことを愛してくれているのです。ファンの皆さんも彼らの姿勢を感じ取るので、お互いに深い信頼関係で繋がっています。他の外国籍選手たちもジェフやマック、クーリーがここまでチームに在籍して、何故みんなに愛されているのかを感じ取ることで、自然と彼らのようになっていきます。彼らも浮き沈みはありますが、最終的に乗り越えてこれたのは、沖縄のことを愛してくれているからだと思っています。GMとしては、ユーローリーグやユーロカップで活躍しているからではなく、いかに沖縄を深く愛してくれる選手を見つけ出せるかが非常に大切だと思っています。