昨シーズン、琉球ゴールデンキングスは悲願のBリーグ初優勝を達成した。今夏に詳細が明らかになった新リーグ構想においてトップカテゴリーとなる『Bプレミア』の入会基準を現時点ですでにクリアするなど、ビジネス面、競技面の両方において順調に発展している。だが、今と同じことをやっていてはさらなるレベルアップを果たせないと、クラブは大きな危機感を抱いている。『夢のアリーナ』の先駆けとなった沖縄アリーナの希少性は、これから全国各地にアリーナが生まれれば薄れていく。だからこそ、琉球は『沖縄を世界へ』というメッセージを打ち出し、日本国内に留まらず世界市場に挑戦できるチームへの進化を目指していくと表明した。これからの琉球が目指す道について白木享社長に話を聞いた。

「常に満員に近い状態でホームゲームを行える手応えは得ています」

――今回、『沖縄を世界へ』という大きなメッセージを大々的に打ち出したのはどんな思いから来るものですか。

これから先のキングスをどのように発展させていくかをずっと考えていました 。そもそも、『沖縄』という場所は、東京や大阪と並ぶ日本を代表するブランドです。この沖縄とキングスを掛け合わせることで大きな相乗効果を生み出せる。そして沖縄のバスケットボールが持っている力をより打ち出すことで、沖縄を拠点とするキングスの存在をもっと発信していきたいという思いです。

──キングスは球団設立当初から、何よりも集客を最優先に取り組んできました。その中で、去年の集客や今年の現時点でのチケットの販売状況を踏まえてどのような手応えを得られていますか?

おっしゃるとおり、キングスは集客へのこだわりを一丁目1番地として重視しています。チケットをお客様に購入して頂くことは簡単なことではありません。どこのチームも簡単にいかないから試行錯誤して努力しています。ファンが増えればビジネスチャンスも増え、スポンサーの露出効果も拡大させられる。なによりコート上で戦う選手達にとって、ファンの応援は活力になることは間違いありません。

――昨シーズンのリーグ優勝もあり、チームの認知度、ブランドイメージはより向上したと思います。こういったプラス要素に加え、ホームゲームを全試合満員にするためには、どんな部分を重視していきたいですか。

リーグ優勝し、ワールドカップ沖縄開催が成功したことで「沖縄アリーナでキングスの試合を見てみたい!」という方は増えていると思います。一方で、お客様が来てみたいという、その状況に甘んずることなく、これまで以上に会場内演出やホスピタリティも強化し、来場体験の向上に図ります。「キングスを見に行ってよかった」、「キングス楽しかったから一緒にいこうよ」という感じでファンの皆さんがお客様を増やしていく、そんな流れが作れるよう工夫を重ねていこうと思います。

そして今後はさらにプロモーションの質も高めていく必要があります。例えばバスケットLIVEで見ていただく中継の映像だけではなく、もっといろいろな角度から映像を使って我々ならでの映像やコンテンツを作っていきたいです。チームが提供するデジタルコンテンツの価値を上げていくことができれば、それはファンの皆様の満足度を高めるだけに留まらず、最終的にはコンテンツへの広告掲出などビジネスにも広がっていけると思います。プロモーションにしても、演出やホスピタリティに関しても、「選択と集中」で改善しなければならない。より向上しなければならない部分を明確に把握し、挑戦し続けていきたいと思います。

「キングスの世界観を沖縄アリーナの外でも打ち出していくことも必要になってくる」

──沖縄の外に打って出る、というメッセージをクラブとして発信していく上で、アジア市場へのアプローチはどのように捉えていますか。

沖縄だけでなく、日本中からキングスの試合を見に来ていただきたいです。そしてキングスを日本国内だけでなく世界中から注目されるブランドにしていきたい。特に沖縄は地理面やこれまでの文化的な交流の歴史を見てもアジアとの接点が強いです。だからこそ、まずはアジア市場でのマーケットを作っていく計画です。そのためには海外の方が簡単にチームの情報を手に入れられるように、ウェブサイトの多言語化なども行っていかなければなりません。

──実際、9月下旬には台湾の台北富邦ブレーブスとプレシーズンゲームを行います。

沖縄と台湾は本当に近くて、飛行機だけでなくクルーズ船でも沖縄に多くの人が訪れています。この近さを良いきっかけにして、キングスの知名度を台湾で上げていきたいです。今回は沖縄アリーナで台湾P.LEAGUE+の王者台北富邦ブレーブスを招致し、国際親善試合を行います。今後は我々も台湾でのマーケティング活動をしていくつもりです。そして、将来的にはキングスが海外に行って、例えば「KINGS HOME GAME in台湾」のような海外で興行開催興行を行っていきたいと考えています。今回のプレシーズンはあくまで始まりであり、国際交流やマーケティング施策を重ね、国内だけでなく国外で挑戦をしていきます。

――『沖縄から世界へ』という新たなメッセージは、2026年からスタートする新トップカテゴリーのBプレミアに向け、チームをさらに発展させていく決意表明だと思います。すでに沖縄アリーナを常に満員するまであと一歩の手応えを感じているとなると、さらに稼いでいくためにどんなところを重視していきたいと考えていますか。

売り上げ規模だけでいくと、沖縄バスケットボール社(キングス)と沖縄アリーナ社を合わせてグループ売上で約30億円に到達しました。ただ、この現状に満足してはいけない、むしろ危機感を持っています。アリーナの中でのビジネス、特にチケット収入に関しては、キャパシティは簡単に増えないので天井はいずれ見えてきます。そうなるとアリーナの外でどれだけ稼げるかが大事になってきます。例えばもっとスポンサー企業とのコラボレーション商品を積極的に展開していく。沖縄ファミリーマート様が毎年やってくださっている、店舗の装飾をキングス仕様にした『キングスマート』のような企画などを増やし、キングスの世界観を沖縄アリーナの外でも打ち出していくことも必要になってくると思います。

――新シーズンが始まる中で、新しいフェーズに入ったキングスをどういうふうに見守っていてもらいたいか、ファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

このタイミングで『沖縄を世界へ』というメッセージを打ち出したのは、キングスには現状に満足せずリスクを背負ってでも向上するために挑戦し続けるという「現状維持は衰退」という企業文化があるからです。優勝したことや、「Bプレミア」に参入できる見込みがある、という現状で満足せず、未来に向けて挑戦し続けるために次は世界をキーワードに挑戦していきたい。正解がないチャレンジかもしれませんが、大きな夢を描き続け、困難の中でも挑戦していくことは大切だと思います。

社長として1年間やってきて、あらためて多くの県民の方にキングスのことを誇りに感じていただいていると思いました。そして、沖縄の文化の一つにならないといけないと感じています。我々が世界に挑み続けることで、南の小さな島国である「沖縄」をさらに輝かせることができるのではないか、そんな夢を掲げてキングスはこれからも挑戦していきますので、ぜひ応援して頂ければ思います。