今年10月、広島ドラゴンフライズはクラブ創設から10周年の節目を迎える。財務状況の悪さを理由にBリーグ初年度をB2で迎えたクラブを試行錯誤しながら成長させ、『東高西低』、『地方クラブは上位で戦えない』といった定説を覆した立役者の1人が、2016年に社長に就任した浦伸嘉だ。自らの故郷である広島のバスケットボールの発展を目指し、奮闘を続ける浦社長に、ここまでの歩みと今後の展望を聞いた。
「この10年間での伸び率は国内プロバスケクラブでトップなんじゃないか」
──広島は3月にB.LEAGUE PREMIR(当時は新B1)に参入する意思を表明しています。ここを目指すためにどのようなアイディアをお持ちですか?
クラブの中長期を考える上で、プレミアのライセンスは絶対に取らないといけないと思っています。大きく言ってしまうと、これが取れなければクラブ消滅の危機に陥ると思っています。
今、Bリーグはプレミアを昇降格のない「エクスパンション制」にすると説明していますが、私はこれをプロ野球のような「クローズ型」に向けた布石だと推測しています。この考え方で行くと、プレミアとその下部の「BリーグONE」とでは、将来的にはNPBと地域リーグくらいの差が出ると思っているので、絶対にプレミアに入らないといけないと考えているのです。
2024年10月の初回審査に向けて準備しなければならないことはたくさんあるのですが、我々にとって何より大きな課題は、プレミア基準のホームアリーナの準備です。審査期限の2024年10月までに新アリーナの建設計画のない我々は、『スラムダンク』のインターハイ開会式に使われた広島グリーンアリーナを一部改修し、使用することになります。
「売上12億円以上」という基準は昨シーズンに達成できたので、次に目指すのは「平均入場者数4,000人」です。現在、我々が現在メインアリーナとしている広島サンプラザは最大収容人数は4,200人で、去年は3,400人弱に留まりました。ここに物理的に席数を増やして、キャパを増やして4000人になる準備を整えます。そして、昨年まで1,000席ほど設けていた自由席を撤廃し、すべて指定席とします。人って、「この席は自分の席だ」と思ったほうが、責任感でちゃんと足を運ぶそうなんです。4,000人を達成するための大枠は整えたので、後はやるかやらないかですね。
──フロントスタッフのモチベーションがさらに上がりそうですね。
単純計算で、シーズン中にあと2万人多くお客様を呼べたら4,000人が達成できるわけです。200万人の広島県民に「1度来てください」と呼びかけて、実際に来てもらえたら簡単に達成できます(笑)。もう今は「やってみたところでお客様は来ないだろうな」というようなクラブではないので、スタッフ全員で本気でコミットメントしていきたいです。
──クラブの成長とともに、フロントスタッフの変化や成長も感じますか?
シンプルなところだと人数が違いますね。当初は6〜7人だったのが、今は3〜40くらいいますから。経営的な話をすると、当初はとにかく売り上げを最優先でやってきましたが、親会社が変わったこともあって、組織的に動く仕組みをいかに構築するかというところにフォーカスするようになりました。現在はリソースに頼らず、組織部で改善するために新しいルールを設けるなど、少しずつ組織化を進めています。興行がクラブの価値を作り、その価値を営業が自分の得意なところに売っていく。財務、経理、管理をしっかり整えて興行を支える。興行における最大の価値である選手たちを輝かせるために知恵を絞る……。こういったことの組み立てをしっかりしている最中です。
——そうした整備が実を結び、広島は昨シーズンはワイルドカードでチャンピオンシップに出場しました。
チームが強いことは非常に大きなポイントです。ただ、中長期で考えると、チームの勝ち負けで売上が大きく影響される経営はなかなか難しいと思っています。なので、クラブのファンを作るために、クラブの哲学的な話を外に発信していくと言いますか、「こういう思いでやっています」、「こういうプライドを持ってやっています」というところをしっかり打ち出していくことも重要だと考えていますし、今はちょうどそういうフェーズに切り替わってきているんじゃないかと思っています。10年間での伸び率ではBリーグトップなんじゃないかな。良いタイミングでチームに投資できて、成績とフロントが噛み合い始めました。
「来季は若手がもっと伸びるシーズンになってほしいと思っています」
──昨シーズンのチームの戦いぶりはどのようにご覧になっていましたか?
ようやく形になったシーズンだったと思っています。一昨年と昨年は新リーグの審査の対象年で、チームの成績というのも非常に重要でした。そこでチャンピオンシップに出れたというのは非常に満足していますし、戦略通り、プラン通りに来てくれているなというところです。今後はこれを起点にいかにたくさんのメディアに取り扱ってもらえるか、お客様に興味を持っていただくかを考えなければいけません。昨シーズンは期待値を超えることのできた満足のできるシーズンではありましたが、目標である日本一に向けて、あらためて良い準備ができたらなと思います。
──辻直人選手の移籍はファンに大きな波紋を呼びました。実績と経験を兼ね備えた選手の退団は痛手だったのでは?
辻選手は素晴らしい選手なので、ダメージはもちろんあります。ただ、それを補えるくらいの積み上げが逆に深まるシーズンなのかなと。今シーズンはロスターのほとんどが昨シーズンも広島でプレーしている選手です。意思統一ができている選手が10人もいるということは、今までの課題が解消できる大きなチャンスとも言えます。ヘッドコーチのカイル・ミリングも3年目で、お互いの人となりが分かっているので、来シーズンは一つの集大成を見せられるんじゃないかと思っています。
そういったチームの成熟に加えて、来季は若手がもっと伸びるシーズンになってほしいと思っています。彼らの若さと勢いをもって、特に出だしをうまくスタートできたら、本当に楽しみなシーズンになると思います。
──そういった若手を引き締めるベテラン勢の手腕にも期待ですね。
そこは非常に重要になってきますね。特に朝山正悟はキャリアも終盤に差し掛かっていると思うので、彼がプレーする姿は若手にすごく良い影響を与えてくれると思います。
──来シーズンに向けてファンのみなさんにメッセージをお願いします。
「広島ドラゴンフライズ」というバスケットボールクラブは、誰の所有物でもなく、地域の財産だと思っています。地域の皆様のためのモノで、みんなで育てていくものだからこそ、みんなが応援してくれているのだと。県外の方にももちろん応援していただきたいですが、まずは広島人のみなさんに盛り上げていただきたいと思います。そして、みなさんに愛されるクラブになるためには、代表の僕が誰よりも真剣に取り組まないといけないなと、いつも気の引き締まる思いです。ドラゴンフライズがここまで来られたのは、多くのブースターとファンの方々が苦しい時に応援してくださったから。ですから、何とか新B1のライセンスを獲得した暁には、皆様と泣いて喜びたいです。発表は2024年の11月、12月ごろですが、新B1のライセンスを獲得する上でも今シーズンは勝負の年です。1人でも多くの人にご来場いただかないと目標は達成できません。すでにご来場いただいているという方はぜひ、より多くの方を誘って会場にいらしてください。
チームが日本一になるのはもちろんのこと、クラブの価値でも広島はBリーグ1と言われることが目標なので、今後は様々な部門で日本一を取っていくことも目指していますが、これもすべてはブースターのためです。ぜひ来シーズンも熱く、時には厳しく応援していただければと思います。