富樫勇樹

文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一

チームで繋ぎ、信頼が生み出した決勝シュート

天皇杯決勝は延長にもつれる混戦となったが、延長残り3秒の土壇場で富樫勇樹がゲームウィナーとなる3ポイントシュートを沈め、千葉ジェッツが栃木ブレックスを破った。

この試合、富樫は栃木のディフェンスに苦しめられ、第4クォーターまでの40分間では27分のプレーで無得点と沈黙していた。「毎回のことですが、栃木さんのディフェンスはビッグマンの2人がピック&ロールしても外まで出て来て苦しめられている印象です。そこで自分の打ちたいシュートはなかなか打たせてもらえないです」と富樫は苦しんだことを認める。

「その中でも、いつもやっている1対1からのプルアップはもう少し決めなければいけなかったですけど、シュートの良い時と悪い時はあるので、その中で自分にできることは何かと考えました。アシスト10には驚いているんですけど、相手が出てきている分、自分に2人を引き付けてパスを出せたのかと思っています」

そう語るように、富樫は前半と後半にそれぞれ5つずつと、コンスタントにアシストを記録。なかなか得点の伸びないディフェンス合戦において貴重な攻撃のアクセントになってはいた。それでも、エースとして最低2桁得点は期待できる富樫が無得点では、千葉としては苦しい。他の選手が繋ぐことで、なんとかしのぐゲームとなっていた。

富樫勇樹

大野コーチ「入るか入らないかは打つメンタリティ次第」

耐える展開のゲームで、大野篤史ヘッドコーチは富樫への信頼を曲げようとはしなかった。もう一人のポイントガードである西村文男がゲームを作っていたし、他のどの選手も奮闘していただけに、富樫を下げるという選択肢もあったはずだが、オーバータイムの5分間も富樫をコートに立たせ続けた。富樫に初得点が生まれたのは延長戦に入って2分が経過したところ。ただ、残り1分を切って1点ビハインドの場面で、富樫のジャンプシュートはリングに嫌われている。これをギャビン・エドワーズが拾って押し込んだシーンが一つのポイントになった。

大野ヘッドコーチは「ピック&ロールから竹内(公輔)選手とのミスマッチを作れていたので、もう一回行こうと考えました」と、最後のオフェンスを富樫に託した理由を説明する。ただ、本当の理由は別にある。「入るか入らないかは打つメンタリティ次第だと思っていて、その気持ちを持っている選手に託したいです。最後のシュートを自分で打ちたいという責任、打ちたいというプライドを持った選手なので、そこを信頼しました」と指揮官はエースへの信頼を語った。

こうして託された最後の攻め、栃木は思うようなミスマッチを作らせてはくれなかったが、富樫は迷いなく3ポイントシュートを放っている。このシーンを彼は「自分が打つと決めていたわけじゃないんですが、自分の目の前が空いたので打ちました」と振り返る。

「空いたら打つ、トラップに来たら空いた選手に出す、というシンプルなことだけ考えて。空いたので思い切りシュートが打てました。このシュート確率でも大事な場面で使ってくれるコーチもそうですし、しっかりスクリーンを掛けてくれるチームメートもいるので、迷わずに打つことができました」

「シュートが入っている、入っていないは関係なく、自分が今まで打っているシュートを打ち続けることが大事なので。それが最後の2本入りました。常に空いたら打つという準備をしているので、それが最後の2本に繋がったと思います」

ラストショットを決めたのは富樫だったが、ほとんどの時間帯は栃木のペースで進んだ試合で粘りに粘り、最後を富樫に繋いだ。チーム一丸で引き寄せた勝機を富樫がモノにした。「2日連続でこんな勝ち方をすることは、人生でももうないと思う」と富樫は笑みを見せた。天皇杯3連覇は偉業だが、それでも勝利を祝うのは今日だけ。すぐにリーグは再開する。