富樫勇樹

「僕は常にチャレンジーで、それは引退するまで変わらないです」

FIBAワールドカップ2023、男子日本代表はアジア1位となってパリ五輪への出場を決めた。48年ぶりとなる自力での五輪出場を決める快挙は12名のメンバー、スタッフ全員によって成し遂げられた。言うまでもなく、キャプテンとしてコート内外においてチームを牽引していた富樫勇樹の貢献も大きなものだ。

「ずっと言ってきましたが、五輪は自分のためでもありますが、それ以上に今の若い子たちのためになんとしても出場したい思いでした。12名のメンバーの一人として結果をしっかり残せたことにすごくホッとしています」

パリ五輪出場決定について富樫は安堵感を強調した。今大会の富樫は、14得点を挙げたグループリーグ最終戦のオーストラリア戦以外では、持ち味の得点力を発揮することはできなかった。だが、打つべきタイミングでしっかりシュートを打ち切り、司令塔としてチームをまとめ上げた。個人としては消化不良な部分もあったのではないか。こちらの疑問を富樫はこのように否定する。

「良いのか悪いのか分からないですけど、本当にポジティブでした。最初の2試合はともに0点でしたが、ワールドカップの舞台で一番小さい僕が、0点だからと悩んでいる暇はないなという感覚でした」

また、富樫は次の強い覚悟を持って大会を戦い抜いた。「(調子が悪くても)常に切り替えていました。この身長で戦っている以上、僕は常にチャレンジャーで、それは引退するまで変わらないです。コートに出ている時は、できる限り自分のプレーをするだけです」

周囲の否定的な声が耳に入ることもあった。しかし、常に自分を信じてくれる仲間がいることで前を向き続けることができたという。「周りの声はいろいろあると思いますけど、それで弱気になるのは良くないです。そして僕はトム(ホーバスヘッドコーチ)さんとしっかりコミュニケーションが取れていて、信用してくれるチームメートがいる。(自分を信じてくれる人たちの)期待に応えられるように頑張るだけです」

今大会の日本はアジア1位に加え、ワールドカップでは初の大会3勝を挙げた。海外ではこの結果をサプライズとして高く評価する声は多い。「前回大会は全敗ですし、五輪も含めこれまで日本はそんなに勝っていなかったので、世界の目でいうとサプライズかなと」と富樫は語るが、自分たちはこの成績を収めることへの確固たる自信を持っていたと続けた。

「正直、初戦で敗れたドイツ相手にもみんな本当に勝つ気で臨んでいました。結果としては力の差を見せつけられた形でしたが、試合に入る前の選手に『うわドイツか……』という気持ちは一切なかったです。結果を残すための準備を自分たちはしてきましたし、これからです」

富樫勇樹

「この良い流れを繋げて、Bリーグもさらに成長し、より多くの人に見てもらえるように」

NBA選手の渡邊雄太を筆頭に富永啓生、馬場雄大と海外組の活躍は欠かせなかったが、同時にBリーグ勢の貢献も光った大会となった。初年度からリーグの顔として君臨する富樫は、「めちゃくちゃあると思います」と、Bリーグの発展が代表の強化に繋がっていると実感している。

「外国籍の選手を見てもオーストラリアやヨーロッパのトップチームで活躍したレベルの高い選手が入ってくるようになっています。現役フィリピン代表や代表経験者がいて、今シーズンから韓国のトップ選手も入ってきました」

そして富樫はコートと観客席が近いことで声援が一つにまとまり、チームの誰もが「会場の応援なしでは勝てなかった」と感謝する、沖縄アリーナの生み出す圧倒的なホームコートアドバンテージの力を強調した。体育館ではない、アリーナだからこその魅力を日本全国のバスケファン、スポーツファンに見せられた意義を語る。

「これからアリーナがいろいろなところで誕生します。それは自分の中では大きいです。Bプレミアになっていろいろと言いたいこともありますけど、それは置いといて……。プレミア参入のための条件によるものなのか、そこは分からないですけど、各チームが行政だったり多くの方の協力を得てアリーナを作ろうとしているのはバスケ界にとって本当に大きいです。琉球が強くなった大きな理由の一つには、絶対に沖縄アリーナの存在があると思っているので」

また、今回のワールドカップの熱狂が、約1カ月後に開幕するBリーグにも良い影響をもたらし、リーグのさらなる発展を加速させると期待する。「Bリーグで頑張っていて今回、代表メンバーに入れなかった選手はうれしい気持ちと共に、少し悔しい気持ちもあると僕は感じています。これだけバスケットが盛り上がり、結果が出たことで自分も代表に入りたいと思う若い選手もたくさん出てくると思います。この良い流れを繋げて、Bリーグもさらに成長し、より多くの人に見てもらえるようになったらうれしいです」

日本バスケットボール界が9月2日に新たな歴史の扉を開いたのは間違いない。ただ、富樫はさらなる高みへ向かおうと貪欲だ。「まだまだこれからで、日本のバスケットが目指すところは、ここではないと思います。もっと上を目指していけるように頑張ります」

束の間の休息を経て、これからはパリ五輪へ向け新たな競争がスタートする。このサバイバルレースも富樫が引き続き先頭に立って引っ張っていくはずだ。