文=鈴木健一郎 写真=鈴木栄一、本永創太

不本意な出来も「ただウチのシュートが入らなかっただけ」

昨日の『オールジャパン2017』決勝、川崎ブレイブサンダースは千葉ジェッツに66-88と完敗を喫した。川崎のエースにしてBリーグの得点ランキングでも首位を独走するニック・ファジーカスはゲームハイの27得点をマークしたが、勝利には至らず。Bリーグでの平均得点(28.4)に近い数字は残したが、『彼らしからぬ出来だった』と言わざるを得ない。

ファジーカス自身も「もっと良いプレーができたと思います。普段なら決めているシュートをかなり落としたので」と認める。千葉の徹底したディフェンスに遭ったが、「特別なことをしてきたわけじゃない。ただウチのシュートが入らなかっただけです」と、それを言い訳にしようとはしない。

「マークは全然気にならないです。日本で5年目、毎年そういう感じで相手は自分を止めようと集中してやってくるけど、その点については今までどおりやれば問題ないと思っています」

それでも、どの試合でも安定して相手の脅威となるファジーカスの失速に理由がないはずはない。それを突っ込んで質問すると、意外にもボールの違いという話が出てきた。「オールジャパンだと特に準決勝と決勝は、必ず新しいボールを使わなければいけない。Bリーグは少し古いボールを使うので、そこと少し感覚が違うんです。オールジャパンでは毎年新しいボールを使うんですけど、それがあまりフィットしないというか、うまくいかないですね。それも仕方のないことですけど」

2点シュートは21本放って10本成功。確率としては決して低くない。だがファジーカスは「3ポイントシュートも含めたら5割を下回るし、今シーズンで一番3ポイントシュートが入らなかった試合でした」と、3ポイントシュートでの不振を気にした。3ポイントシュートは千葉が10本決めているのに対し川崎は4と大きく差がついた。しかも勝負どころで千葉が決め、川崎は落としたという印象が強い。

ショットクロックのカウントダウンしか聞こえなかった

ファジーカスの不調がチームオフェンスに悪影響を及ぼした。いや、チームオフェンスの停滞が彼のリズムを崩したと言うべきだろうか。いずれにしても普段は完璧なハーモニーを奏でる川崎のオフェンスに、不協和音が生じていた。

この点について北卓也ヘッドコーチは「みんながニックを見てしまった。ニックも熱くなって、自分で行ってしまう部分があった」と振り返る。「ニックがコールプレーを言うんですけど、それはすべてニックのプレーなんです。それを『それじゃない』と変えなきゃいけなかったところを、できなかった。私も変えなければいけなかった」

川崎に弱点があるとすれば、特定の何人かに得点を依存する部分だろう。今回の決勝では、それが露呈してしまった。ただ、信頼できるエースがいることは確実に強みでもある。それで川崎はここまで勝ってきたのだ。

彼と辻に頼ってしまう部分についてファジーカス自身はこう語る。「今までそれで何度も優勝していますので、こういう結果もあるということ。今日は私も辻も結果を出せませんでしたが、仕方ないですね」

ファジーカスの得点は彼一人の力によるものではない。流れが良い時はチームがそのオフェンス能力を最大限に引き出し、プレーしやすい環境を作り出している。だが、昨日の決勝では、特に第3クォーターの苦しい時間帯に、ファジーカスに預けた後はボールウォッチャーになってしまう展開が長く続いた。

「第3クォーターというより第2クォーターに7点しか取れなかったことです。ハーフタイムに『これでは勝てないよ』という話をしました。第2クォーターで流れが変わり、勢いが止まってしまった。通訳がショットクロックのカウントダウンをするのですが、その声しか聞こえなかったです。これでは優勝はできません」

周囲がファジーカスに頼ってしまい、ボールを預けっぱなしにしてしまう。ファジーカスも強引に攻めてはシュートを落とし、それを拾われて千葉に走られる──。そんなプレーを何度か繰り返す間に、「ディフェンスからオフェンスのテンポを出す」千葉を勢いに乗せてしまった。

もうやり直すことができないので、切り替えするしかない

ここまでオフェンスに苦労する川崎、そしてファジーカスは見たことがない。「千葉はもちろん良いプレーをしたし、ウチは全体的に調子が悪かったのですが、原因はまだちょっと分からないです」と、彼自身もまだ整理ができていなかった。

「2017年のオールジャパンはもうやり直すことができないので、切り替えするしかないです。もう忘れて切り替えます。反省すべき点をバネにして、後半戦でまた頑張ります」

今週末には韓国のトップクラブと対戦する『EAST ASIA CLUB CHAMPIONSHIP』、Bリーグとして初のオールスターゲームが予定されている。ファジーカスはこの2試合ともに出場の予定。リーグ再開を前に気持ちを切り替えるには格好の舞台だ。

Bリーグのレギュラーシーズンで、カンファレンスの異なる千葉との再戦はない。次に両者が戦うのはチャンピオンシップの舞台になりそうだ。それまでは「忘れて切り替えて」、チームとしての完成度を再び高めていくことが、ファジーカスと川崎にとってのテーマとなる。

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