黒木雄太

直近2シーズンは勝率5割に届かずチャンピオンシップ進出を逃している大阪エヴェッサ。今オフは外国籍選手の入れ替えや即戦力の日本人選手の獲得など変革が見られた。bjリーグ時代の連覇などクラブの歴史を大事にしつつも、新たなスタイルで新シーズンに挑む姿勢に大きな覚悟を感じる。今年2月に新たにGMに就任し、初めてオフの編成に取り組んだ黒木雄太GMに話を聞いた。

「バスケットボールを通じて夢や希望や元気を与えていきたい」

──日本人選手では西川貴之選手や多嶋朝飛選手といったリーグで結果を残している即戦力を補強しました。 西川選手はB2でプレーしていましたが、その獲得意図を教えてください。

いろいろな要素を検討しながらではありましたが、西川選手は3ポイントシュートを躊躇なく打ち切れる力を持っていますし、ハーフコートバスケにおいてピック&ロールの技術が高く、さらにサイズもあります。昨シーズンまではB2でプレーしていましたが、もともとB1でプレーしており、経験的にも年齢的にも今1番ベストな状態にあるのではないかというところで獲得しました。本人とも面談をする中で、私たちのバスケットで機能するであろうと、本人もここでプレーをしてみたいということでしたので移籍を決断してくれました。

──西川選手は昨シーズンのB2プレーオフMVPを受賞し、日本人選手ではB2で1番多くの得点を挙げた選手なので期待は大きいですね。

B1ではディフェンスの強度や高さも変わってくるとは思っていますが、彼はボールを持った時にしっかりと点を取れるスキルを持っています。チームに合流した現在の練習の中でも、コーチから高い評価を得ているので本当に今シーズンが楽しみな選手の1人です。なにより同じポジションや役割が考えられる橋本拓哉選手と良いライバル関係ができ、切磋琢磨してチーム内の競争が生まれるのは良いことだと思っています。橋本選手はアキレス腱断裂という大きなケガを経て昨シーズンに復帰したものの、彼の競技復帰許可が出たのは本当にシーズン直前で、咋年のオフは満足にトレーニングもできていない状況でした。プレータイム制限が設けられながら、かつ彼自身もケガへの恐怖心を抱えながらのプレーで、消化不良のシーズンを過ごし悔しい思いをしていたところでした。このオフのトレーニングは例年に比べ、目の色を変えて取り組んでいるところもあり、非常に期待しています。そこに西川選手が加わり、面白いラインナップになってくるのかなとも期待をしています。

──バックコートは継続の選手が多い中で、経験値の高い多嶋選手を獲得した理由を教えてください。

昨シーズンまでは鈴木達也選手が先発でポイントガードを務める試合が多かったです。あるいはニュービル選手がポイントガードをするという時間帯もありました。ニュービル選手が残る残らないに関わらず、ポイントガードを補強することはコーチ陣と考えていました。その中で、多嶋選手の外からのシュート力は魅力的でしたし、ゲームメークやコントロール能力があり、それをしっかり遂行できる非常にスマートな選手という判断で獲得しました。多嶋選手と鈴木選手は少しタイプの違ったポイントガードですが、ここについても鈴木選手と多嶋選手どちらが多くのプレータイムを得て先発の座をつかむのか。チームの中での競争意識をお互いに抱きながらオフシーズンを過ごしているのではないかと思います。

──特に今シーズンは競争意識が芽生えることでチームの底上げに直結しそうですね。

今シーズンは各ポジションで、日本人選手全員が危機感を持ってやっているという印象です。競争を高めることは狙っているところではあったのですが、やはり選手は試合に出て活躍したいので同じポジションに刺激のある人員が揃うことで、チーム内でも良い影響があると思います。まさにこのオフシーズンは狙い通りに全員が危機感を持っていて、お互いに仲間でありライバルであるという感覚でやれています。木下(誠)選手、合田(怜)選手も同様ですね。若手もベテランも気が抜けず、みんな必死に日々の練習を頑張っています。

──若手選手として飯尾文哉選手の成長もチームのステップアップに繋がると思いますが、彼に対する期待を教えてください。

昨年まで日本大学でプレーしており、大阪では特別指定選手でプレーしてもらっていました。もともと大学までも活躍してきた選手であり、もっと成長できるポテンシャルを持っている選手だと評価をしています。西川選手や合田選手や橋本選手や木下選手と競い合っていく選手になりますので、本当に1日を大切にしながら初めてのプロとしてのオフシーズンを過ごしていま す。飯尾選手の存在が他の選手にとってもすごく良い刺激になっていると思います。

──今シーズンも変わらず西地区は激戦区になると予想されますが、どのような戦いを見せたいですか?

これはヘッドコーチとも話をしていることですが、1人の選手が40点、50点取って勝つというより、しっかりとチームで勝ちたいという考えを持っていて、チームで勝つということに意味があると考えています。そういった意味では、コート上の5人全員が相手の脅威になれるバスケットボールをやっていくことが必要なことですし、結果を残すために大事なことだと思っています。そのためには一人ひとりが自信を持ってプレーをしないといけませんし、役割を全うしないといけ ないと思います。大事な場面で誰かに頼るのではなく、『自分が決めるぞ』というような気持ちを全員が持ってやっていくことが絶対的に必要です。

──黒木GMはフロントスタッフでクラブに入ってチームスタッフになり、アシスタントGM、GMと長く大阪エヴェッサに携わっていますが、クラブとしてどのようなクラブにしていきたいですか?

私自身このクラブに10年近くいまして、バスケットボール界で働くことを考えた時から志は変わりません。バスケットボールの魅力をたくさんの人に発信していきたいですし、1人でも多くの方にバスケットボールの楽しさであったり、バスケットボールを通じて夢や希望や元気を与えていきたいと思っています。もちろんチームとして勝つことも大事ですし、そこにこだわっていきたいとは思っています。そして、多くの子どもたちが将来は大阪エヴェッサでプレーしたいと思えるようなチー ムにしていきたいです。我々は応援してくださる方がいてこその仕事ですので、まずはしっかりとこのチームを応援してもらえるようなチームにしていかなければいけないと考えています。

──大都市・大阪のクラブということで期待やプレッシャーも多いと思いますが、今後のビジョンを教えてください。

大阪は大きな都市ですので、日本のバスケット界がもっと盛り上がる為にも、大都市のチームがもっと盛り上がらないといけないと思っています。すごく責任を感じながら、非常に重要な仕事に携わらせていただいているなと感じています。短期的な視点に立って点と点が線にならないようなことを繰り返しても、このクラブのためにならないので、本当に地道な作業かもしれませんが、一つひとつやるべきことをしっかりと積み上げていくことが大切だと思っています。そのためにも1つひとつの試合を一生懸命プレーして、目の前のお客様やステークホルダーの方々を大切にしていくということが、長い目で見たときに大阪が良いチーム、強いチームとなっていくことに繋がると思っています。やはり強いチームを見ると、そこができているなと感じますので、多くのお客様に足を運んでいただき、ホームアリーナで負けられない雰囲気を作りたいです。ファン、ブースターの皆様の応援が、私たちの戦うエネルギーや原動力になっていくのは間違いありません。多くのファンに喜んでいただけて、応援してもらえるように、強いチームを作っていきます。