直近2シーズンは勝率5割に届かずチャンピオンシップ進出を逃している大阪エヴェッサ。今オフは外国籍選手の入れ替えや即戦力の日本人選手の獲得など変革が見られた。bjリーグ時代の連覇などクラブの歴史を大事にしつつも、新たなスタイルで新シーズンに挑む姿勢に大きな覚悟を感じる。今年2月に新たにGMに就任し、初めてオフの編成に取り組んだ黒木雄太GMに話を聞いた。
「コーチ陣が選手と向き合って、プレーの課題をシーズンを通して解消していった」
──27勝33敗で西地区5位に終わった昨シーズンについて、振り返りをお願いします。
まず、私自身は今年の2月にGMになりましたので、昨シーズンはアシスタントGMとしてチームに携わっていました。前任のGMと一緒にチーム作りを進めていましたが、昨シーズンの大きな変化としてはヘッドコーチがマティアス・フィッシャー氏に変わったことです。ヘッドコーチを代えるにあたって、クラブとしてもいろいろな狙いがあったシーズンでしたが、結果的には私たちが目指したチャンピオンシップへの出場は果たせませんでした。ヘッドコーチの交代は、選手が変わらなくてもバスケットのスタイルが変わることとなります。フィッシャーヘッドコーチはヨーロッパでの経験が長いですが、西宮ストークス(現神戸ストークス)で3シーズン指揮を執っていたので、Bリーグや日本の文化にある程度の理解があるという前提ではあったものの、やはりB1とB2の違いに戸惑った部分もあったようでした。
そこのアジャストに時間がかかってしまいましたが、選手の起用方法や、どのようなタイミングで声掛けやコーチングをすればいいのかシーズンを通じて良くなってきたと評価しています。特に後半戦、外国籍選手がケガで出場できない試合でもチャンピオンシップに出場するようなチームとも互角に渡り合え、敗戦になったもののゲームの中身としては十分に戦えていた部分もありました。
──おっしゃる通り、シーズンが進むにつれてヘッドコーチが目指しているバスケが選手に浸透している印象がありました。
昨シーズンに限ったことではありませんが、ヘッドコーチが変わると新しい戦術や戦略の浸透に時間がかかることが多いです。やはり選手たちもヘッドコーチが変わって自分に何を求められているかや、自分たちが何をしなければいけないかという部分がシーズン中盤ぐらいからつかめてきたという印象がありました。フィッシャーヘッドコーチはその辺りの順応性があると思っています。しっかりと選手とコミュニケーションを取れることが重要なポイントで、コーチ陣が選手と向き合って、何がプレーの課題になっているのかをシーズンを通して解消していったという印象です。ただ、それをシーズンの序盤からできるようにすべきだったとも思いますが、周りのチームも年々レベルが上がっている中、中長期でチーム作りをしていくためには必要な改革でした。
──ヘッドコーチが変わって、ディージェイ・ニュービル選手に頼らないバスケを遂行してい るような印象も受けました。
前任のGMの考えでもありますが、周りのチームとの違いを作るという部分に重きを置いた編成に 取り組んでおり、ポイントガードの外国籍選手を起用するというのもその戦略の一つでもありました。実際にそこで対戦相手とのズレを作って勝利に結びつく試合も多かったと思いますが、逆に言うとそこが止められてしまった時に次なるオプションというのがなかなか見い出せませんでした。やはり、年々そこに対策をしてくるチームが増えたので、その中でどう戦うかを課題として取り組んだシーズンになりました。
──今オフの動きですが、どのようなことを考えて編成に取り組みましたか?
2月にGMに就任し、どのように次のシーズンに向けてチームを作っていくか、非常に難しいところが多かったオフでした。まずはコーチをどうするかということに取りかかりましたが、昨シーズンがフィッシャーヘッドコーチの初年度ということもあり、シーズン中でもアジャストしていくという部分は評価できましたし、クラブとしては中長期的にチームを作っていくことが大事であろうという考えの下、継続しました。ヘッドコーチが求めるバスケットを実現できるチー ム体制にすべく、フロントとチームがしっかりと連携を取ってお互いに同じ方向を向いていくということを重要視して考えました。ですので、ヘッドコーチとは個々の選手のことはもちろん、どのようなチームを作っていくかというところも含めて協議した上で、今回のロスターを完成させています。
その中でクラブの人件費予算は非常に大きなキーになってきます。予算がある中で、どういうチームを作っていくかというところで様々なパターンを検討しながら進めました。昨シーズンまで軸に置いていたニュービル選手を残すプランもありましたし、その他3~4つのプランを持ちながら契約の交渉を行っていました。この編成というのはパズルのような作業で、このピースがあれば次はこのピース。このピースがないんだったら次は違うピースを……。というような感じで繋ぎ合わせていくような作業になるので、核となるピースが決まっていかないと難しいことも多かったです。しかし、しっかりとシナリオを持ちながら、ヘッドコーチがやりたいバスケットを実現できるメンバーを揃えることができたのかなと思っています。
──その中で大事にしていたコンセプトはありますか?
大阪エヴェッサというチームはbjリーグに参入した創設の頃から『走るバスケット』を掲げていたチームでもあります。前任の天日(謙作)ヘッドコーチも速いテンポのバスケットを思考していましたので、引き継いで残していきたいですし、このスタイルは大阪の街にも合っているかなと思います。アップテンポな走るバスケットという部分はしっかりと残しつつ、フィッシャーヘッドコーチのヨーロッパ型のチームとして組織的なバスケットをやっていくことも大事にしました。それを実現するためにも、外国籍選手に対しても求めることが今までとは変わってきます。 昨年のオフは複数年の選手も多く、ほとんどの選手の契約が決まっている時点でフィッシャーヘッドコーチに就任してもらった経緯もあり、最大限に試行錯誤して指揮を執ってもらいましたが、選手によっては得意不得意もあるため、コーチとしてやりたいバスケットが選手と合致しない部分もあったと思っています。
──外国籍選手が3人とも入れ替えになりました。初めて日本でプレーする新加入の2選手は30代前半でヨーロッパでの経験も長く、フィッシャーヘッドコーチのバスケに順応するのではないでしょうか。
外国籍選手については、まずはインサイドでしっかりとリバウンドと得点が取れる選手を獲得したかったのと、アウトサイドでもプレーができ3ポイントシュートが打てる選手が欲しかったというのがありました。ショーン・ロング選手はインサイドのリバウンドと得点を担ってもらいます。さらにヨーロッパを中心にプレーしていたアンジェロ・カロイアロ選手を獲得しましたが、4番でプレーができて、なおかつアウトサイドの3番に近いところまでプレーができる選手ということで当初から候補に挙げていました。状況によっては竹内(譲次)選手や土屋(アリスター時生)選手もいるので、カロイアロ選手が3番でもプレーする時間帯も作れます。もう1人は4番、5番でプレーができる選手で、かつストレッチできるタイプというところで、何人か候補を絞って考えていたんですが、その中でも多少アンダーサイズではありますが、非常に強いフィジカルとピックプレーからロールもポップもできるタイプということで、イアン・ハマー選手を結果的に獲得する流れになりました。外国籍選手の契約過程で帰化選手とアジア特別枠をどうするかという話も当然出ましたが、いろいろなパターンや候補者を検討しながら進めていく中、結果的に現時点で獲得しませんでした。