北卓也

文=鈴木栄一 写真=野口岳彦

NBL時代から常にリーグ上位の成績を残し続けてきた川崎ブレイブサンダース。今シーズンも主力は変わらない中で、ニック・ファジーカスを帰化選手として開幕から起用できる大きなアドバンテージもあって、圧倒的な強さを見せると期待したファンも多い。しかし、夏に左足首の手術を行ったファジーカスのコンディションが整わず、新加入選手との連携不足など様々な要因があり、スタートダッシュに失敗。10月中旬には深刻な得点力不足に陥っての4連敗など苦しんだ。

それでも、辻直人の故障離脱というアクシデントがありながらもファジーカスと篠山竜青を中心にチームは立ち直り、上り調子のまま2019年を迎えた。2011年からと川崎で長期政権を築く北卓也のヘッドコーチ経験の中でも有数の激動となったシーズン序盤戦を振り返るとともに、今後の見通しを語ってもらった。

「オン3を使えるチームが圧倒的に強いわけではない」

──まずは苦しい時期となったシーズン序盤戦を振り返っていただけますか。

4連敗の後に5連勝など山あり谷ありの中で、練習が非常に重要だとあらためて思いました。水曜日のゲームも増えて、その週はまずは疲労を残さないことを第一に考えているため長い練習もできません。そこは苦労した部分があります。

──序盤戦の苦戦については、ファジーカス選手のコンディションが大きな要因でした。

開幕戦には出られる予定でしたが、前日になってやはり状態が良くないと欠場することになりました。当初は練習すると身体に負担が掛かるということで、練習を避けて試合にだけ出る状態でした。シーズンは長いので無理して出す必要はなかったのですが、だんだん調子が良くなってきている面もあったので、ニックの希望というより私が実戦をこなしながらコンディショニングを上げていく選択をしました。練習が十分でなくてもニックが入れば問題ないと考えたのですが、特に他の選手とのコンビネーションは練習しないと難しかったです。

──北さん自身、結果が出ない時期はどういう心境でしたか。

あの時は3ポイントシュートが全然入らなくなり、ここまで点が取れなくなるのかという思いでした。シュートが入らないので、みんな打たない、アタックもしなくなり、ちょっと弱気になっていました。ただ、ノーマークで打てる状況は作れていました。あとはそれを入れられるように練習して、選手を信じて待つしかなかったです。

私から特に何か言ったり、指導することはありませんでした。シュート入れることは選手の仕事です。全くノーマークができてないのであれば、我々が戦術について何かやらなければいけませんが、あの時はノーマークを作れていて入らないという状況でした。

──川崎は北さんのヘッドコーチ2年目以降、ずっと勝ち続けています。その経験があるからこそ、序盤で出遅れても立て直せるという計算はできるものですか?

そうは考えません。試合をするからには常に勝ちたいですから、そのための準備をしますし、長いシーズンの間には今回のようにうまくいかないこともあります。ましてや今回、帰化選手を入れるという言い方はおかしいですけど、いわゆる『オン・ザ・コート3』ができるようになり、帰化選手がいるチームは有利だと見られがちです。ただ、実際に蓋を開けてみると『オン3』を使えるチームが圧倒的に強いわけではありません。

今の段階では、なかなかチームとして機能してないところがどこもあると思います。まだ試合は多く残っています。戦術的にも、コンビネーションを含めて化学反応を起こして常勝チームにしていけるか、何かきっかけがあると思いながら練習したいなと思っています。

北卓也

「練習できる環境をいかに整えていくかが重要です」

──11月に入ってからは右肩上がりとなりました。それでも連敗ストップ後に7勝1敗と波に乗った中で、11月23日と24日の栃木ブレックス戦にはホームで接戦を2つ落としています。この時点でのチーム力についてどう感じていましたか?

点差から見れば戦えると思いますけど、勝負どころの強さでは栃木さんの方が全然上でした。シュート、オフェンスリバウンドなど、ポイントでの集中力を徹底できるかどうか。以前にもウチに足りないのは徹底力と決定力と話していますが、練習と試合を重ねていくことで、徐々にその差を埋めていくしかないです。

──やはり「練習が大事」の一言に尽きるのかと思いますが、それこそ北さんの現役時代は試合数は今の半分ぐらいで、シーズン中にもしっかり練習できたと思います。それがBリーグになってレギュラーシーズン60試合、ミッドウィークの試合も増えて、シーズン中の代表招集も当たり前になっています。チーム作りのプランも大きく変えざるを得ない状況ですね。

状況に応じて変えなければいけないと思います。ただ、私も今回もここまでシーズン中に練習できないのは初めてで、いかに練習する環境を作るかという課題はあります。例えば代表に何人選ばれるか分からない、そういう自分でコントロールできないところも多く、私にとって良い経験にもなっていますね。代表に選手が呼ばれたから練習できない、仕方ない、では済まないので、練習できる環境をいかに整えていくかが重要です。

ルールは毎年いろいろと変わりますし、今シーズンは水曜ゲームも入って来て難しい面は確かにあります。練習は必要ですが、疲労を残した状態では試合で良いパフォーマンスはできません。NBL時代と比べると選手とコンディショニングの面でコミュニケーションを多く取るようになりました。ケガは起こるものですが、できるだけ起きないようなチームを作るのが課題です。

北卓也

「ファンの方々に勝利を届けなければいけない」

──以前からの変化で言えば、とどろきアリーナの演出面などコートを取り巻く環境が年々劇的に向上しています。プレーする側からしてどんな印象を受けますか?

『EXCITING BASKET PARK計画』の発表会見でイメージ図を見た時には、率直に「すごいなあ」という思いでした。実際、センターハングビジョンがあるだけで体育館からアリーナになった感じはします。私は観客席から試合を見たことがありませんが、実際に見に来た人たちに話を聞いて「見やすくなったし、分かりやすくなった」とか「また来たい」と言ってもらえると、こちらもうれしいです。選手もたくさんのお客さんの前でプレーできて、発奮できていると思います。

ただ、たくさんのお客さんに来ていただいていますが、ホームで勝ち続けているわけではありません。ファンの方々に勝利を届けなければいけないと常々思っています。試合に勝って「また見に来たい」、「あの選手のプレーを見たい」と思ってもらうのが我々の使命です。

──あらためて今シーズンここまでを振り返って、今の成績をどう受け止めていますか?

『たられば』を言っても仕方ないですし、これが今の実力です。これからも現状をしっかり把握して、最終的な目標に向けて全員が団結して進むだけです。今の成績が川崎の現状ということを、チーム全員がしっかり認識して取り組んでいくことが一番だと思います。

苦しかったのは序盤の4連敗、ニックが復帰したけど得点がまだ入らなかった時期です。収穫はまだまだチームが良くなっていけると感じられているところで、例えば中心選手たちが若手にパスを回し、アシストをしてくれていることが信頼関係に繋がっていきます。辻(直人)がいつ復帰できるのかまだ分かりませんが、戻って来た時にはチームに厚みが出ます。勝敗的にはまだ苦しいですが、次に繋がる試合内容はできるようになってきていますし、これを続けていきたいです。