グレッグ・ポポビッチ

5度のNBA優勝に「5回ともそこにいたが、私は優勝していない」

グレッグ・ポポビッチがNBA史上最高のコーチの一人であることは間違いない。スパーズで5度のNBA優勝を勝ち取り、多くの選手とコーチを育て上げた。ラリー・ブラウンのアシスタントコーチとしてNBAにやって来たのが1988年で、1994年にスパーズのGMになると、3年目にヘッドコーチを解任して自分が後任に就いた。ここから彼の偉大なコーチキャリアが現在まで続くことになる。

その彼がバスケットボール殿堂入りを果たす。実績を考えれば、もう何年も前に殿堂入りしているべきだが、彼自身がそれを固辞し続けていた。『San Antonio Express』は現地8月12日に行われる式典を前に、その理由をレポートしている。

『ポップ』の愛称で知られるポポビッチは、自身の殿堂入りについてこう語っている。「殿堂入りに値するのはレッド・ホルツマンやレッド・アワーバック、ラリー・バードやマジック・ジョンソンのような人で、自分がそうだと思ったことは一度もない。私はディビジョン3の人間だよ」

その態度に一番頭を悩ませたのは、ネイスミス・バスケットボール・ホール・オブ・フェイムの会長を務めるジェリー・コランジェロだ。彼はずっとポポビッチに殿堂入りを打診しては断られ続けていた。

コランジェロは言う。「彼は引退するまで殿堂入りはしないつもりだった。それがスパーズの選手たちが殿堂入りするまではと譲歩した。ティム・ダンカンが、マヌ・ジノビリが殿堂入りし、今度はトニー・パーカーの番。こうしてようやくポップは『OK』と言ってくれたんだ」

しかし、もう一波乱あった。今年の殿堂入りメンバーにダーク・ノビツキーがいると聞いたポポビッチが渋ったのだ。「ダークは殿堂入りに相応しいが、私は彼と並ぶのに相応しくないんじゃないかな」

この時、記者が「5回も優勝したのに殿堂入りに相応しくないのですか?」と質問した。これに対しポポビッチは「5回ともそこにいたが、私は優勝していない」と答えている。これが彼の本心なのだろう。自分はあくまで裏方で、勝利の栄光は選手が手にするべきだと。

しかし、彼の悪あがきもここまでだ。あと数日で、ノビツキー、ドウェイン・ウェイド、パウ・ガソル、トニー・パーカー、ベッキー・ハモンらとともに、彼はバスケットボール殿堂の舞台に立つ。プレゼンターはデイビッド・ロビンソン、ティム・ダンカン、マヌ・ジノビリ、トニー・パーカーの4人となる予定だ。

きっとポポビッチは、居心地の悪そうな顔をして、短いスピーチをしただけで、そそくさと舞台から降りるだろう。万雷の拍手に包まれながら──。