文=鈴木健一郎 写真=本永創太

徹底マークでファジーカスを封じられるも『我慢』して打開

『オールジャパン2017』準決勝第1試合、川崎ブレイブサンダースがアルバルク東京と対戦した。

序盤はA東京のゲームプラン通りに進む。得点源であるニック・ファジーカスがトロイ・ギレンウォーターと竹内譲次のダブルチームで抑え込まれ、辻直人も徹底マークに遭いシュートを打たせてもらえない。篠山竜青のドライブ、長谷川技の3ポイントで得点するも、17-21とビハインドで第1クォーターを終える。

序盤の4点差は問題ではないにせよ、ファジーカスが4点、辻が無得点と抑えられたのでは波に乗れない。それでも第2クォーターは途中出場のジュフ磨々道が相手のファウルを誘い、ポストプレーでつなぎ、オフェンスリバウンドを押さえる我慢のプレーで相手に流れを渡さなかった。我慢の続いた第2クォーター残り7分19秒、磨々道がザック・バランスキーの個人3つ目となるファウルを引き出し、ファウルトラブルとなったバランスキーがベンチへ。この後、A東京は常に後手に回ることになる大きな出来事だった。

これでインサイドの圧力が弱まると、ファジーカスが息を吹き返す。ファジーカスがこの試合で初めてフリーで放ったジャンプシュートをきっちり沈めると、A東京のリスタートのボールを藤井祐眞がかっさらい得点を挙げ、磨々道のスティールから栗原貴宏の3ポイントシュートも決まって一気に逆転。ディアンテ・ギャレットの連続得点による反撃を浴びたものの、37-33とリードして前半を折り返した。

そして第3クォーター開始から、ファジーカスが竹内の粘り強い寄せをモノともせずに連続得点を奪う。ファジーカスがシュートを落としても、素早くゴール下に入り込んだ磨々道がボールを拾い、セカンドアタックでファジーカスが3ポイントシュートを決める。ギャレットもハイペースで得点を奪うが、待望の辻の3ポイントシュートと飛び出した川崎が47-40と抜け出した。

「納得の行かない判定」で流れを悪くするも立て直す

そして6分42秒、A東京が攻める場面で、リバウンドを狙ってゴール下に走ったギレンウォーターが篠山を投げ飛ばしてアンスポーツマンライクファウルで3つ目の個人ファウルを宣告される。ファジーカスを抑えるメインの選手がこれでベンチに追いやられ、川崎の優位は圧倒的なものになったかに見えた。

しかし、このフリースローをファジーカスが打ったことで波乱が起きる。テクニカルファウルであれば誰でも打つことが可能だが、アンスポーツマンライクファウルは対象のプレーヤーである篠山がフリースローを打たなければならなかった。このためフリースロー2本、そして川崎ボールでの再開も取り消しとなった。

この判定に川崎の北卓也ヘッドコーチが珍しく激高し、納得が行かない選手たちもリズムを崩してしまう。逆に思わぬボーナスをもらったA東京は積極性を取り戻し、正中岳城、田中大貴の3ポイントシュートを含む13-1のランで試合を一気にひっくり返した。

この間、北ヘッドコーチはA東京の猛追撃を眺めながら反省していたと試合後に語る。「いろいろ納得の行かない判定で、ああやって僕が怒ってしまったことで流れが悪くなったと反省して。選手も一生懸命やってくれているのですが、追い上げられる展開で、慌ててはいないけど急いでしまっていた。そこで僕がまず落ち着いて、まだ3点差でそんなに負けているわけでもないから、粘り強くディフェンスをやろう、とだけ選手に伝えました」

勝負どころで『ギャレット依存』の悪癖が出たA東京

こうして始まった最終クォーター、ギャレットを中心に素早くボールを動かし、田中の3ポイントシュート、インサイドの竹内とアウトサイドの正中の激しく正確なディフェンスを見せるA東京と、チームディフェンスが復活した川崎が一歩も譲らない攻防を見せる。

そんな状況で最終的に勝敗を分けたのはメンタル、つまり我慢強さの差だった。69-66と川崎がわずかにリードした残り3分43秒、ギレンウォーターが5つ目のファウルを犯し退場に。ここからファジーカスが落ち着いて3本連続で決めたのに対し、A東京は決められない。

A東京はいくつかシュートが決まらなかったことで積極性を失い、ギャレットばかりを探してボールを預けるようになってしまう。得点源にボールを集めるのはいいが、ギャレットをサポートするような動きもなく眺めているだけになっては、オフェンスは機能しない。そんなA東京に対し川崎はあっという間にリードを2桁として試合を決めた。最終スコア78-71、最後に抜け出した川崎が接戦を制し、決勝へと駒を進めた。

北ヘッドコーチは「タフなゲームになったが、流れが悪い時も我慢して、ディフェンスからイージーなシュートをやらせなかった」と、辛抱とディフェンスの勝利であることを強調した。今回辛抱したのは、選手だけではなく北ヘッドコーチも同じ。納得の行かない判定に激怒した後、追い上げられる展開を俯瞰で眺めながら気持ちを切り替えられたことが、結局は選手を落ち着かせることにつながり、最終的な川崎の勝因になった。

敗れたアルバルク東京の伊藤拓摩ヘッドコーチは「ファウルトラブルは言い訳にできません。そこも自分たちがコントロールしないといけないところなので」と語ったが、川崎の司令塔である篠山は「ギレンウォーターをイライラさせて、ファウルさせたところでニック(ファジーカス)にボールを集めたこと」を勝因に挙げる。「試合展開としてはあまり良くなかった」と認めつつも、「苦しい時間帯を我慢して我慢して、全員で勝てたのは良かった」と語った。

辻は決して出来が良かったわけではないが、一発勝負のトーナメントで勝てたことには満足の様子。「去年の準決勝では気負いすぎて全然ダメだったので、冷静に行こうと思ったら冷静なまま前半が終わってしまって、後半に3ポイントシュートが決まって目が覚めました。一発勝負の中では思い切ったプレーが大事になるので、気負いとはまた別に思い切ってやろうと思います」と明日への抱負を語った。

決勝は明日、アップセットの連続で勝ち上がってきた千葉ジェッツと14時から対戦する。