林咲希

「昨シーズンを振り返ってみて、プレー面で成長できなかった」

今オフもWリーグは移籍市場が活発だった。その中で最も大きな衝撃を与えたのは、日本代表のキャプテンを務める林咲希が大学卒業から6シーズン所属していたENEOSサンフラワーズを離れ、富士通レッドウェーブに加入したことだ。

代名詞であるクイックリリースから放たれる正確な3ポイントシュートに加え、豊富な運動量を生かした激しいプレッシャーディフェンスと攻守で頼りになる林の加入は、富士通にとってこれ以上ない補強となる。司令塔の町田瑠唯、万能フォワードの宮澤夕貴と林による『ビッグ3』を軸とし、伸び盛りの若手も多く、優勝候補と言える充実のロスターとなった。

林の移籍はWリーグの勢力図に大きな影響を与える。出場はしなかったもののサマーキャンプに帯同した林は自身の移籍の理由をこのように明かした。

「昨シーズンを振り返ってみて、足首の手術明けも影響したかもしれないですが、プレー面で成長できなかったです。また、人間性の部分でもあまり成長できなかったという思いがあり、もっと成長したいという気持ちになりました。そのためには環境を変えて新しい刺激を受けたいと考えたのが一番のきっかけです」

さらなる成長を求める貪欲な気持ちが移籍に繋がったと語った林だが、「昨シーズンはENEOSの下の子たちとあまり接することができなかった年で、その悔しさもあって、残って下の子達をちゃんと成長させてあげたい気持ちもありました」と、もちろんENEOSへの愛着もあった。だが、それでも最終的に移籍を決断したのは、目の前のチャンスを逃したくないこと、昨シーズンにケガに苦しんだことが決断に影響を与えたという。

「去年にケガをして毎日、自分の身体と向き合ってきました。痛いところがあるとコンディションが上がってこないですし、あまりプレーできない気持ちになる。すごく調整が難しい年でした。あと何年で辞めようとか、そういったことは全く思っていないですが、トップレベルでやるとなったら機敏さ、質も大事です。来年になったら自分はどこまで、どう動けているのか分からない。動けている状態で上位のチームに取ってもらえるのなら、新しい環境で自分を成長させたいと思いました」

林咲希

「一人ひとりの人間性を高める手助けをしていきたいです」

彼女の言葉を聞くと、自身のコンディションについて悲観的な部分があるととらえられるかもしれない。だが、「アジアカップが終わって2日後には、対人はないですが練習に参加していました」と明かすように、全く問題はないようだ。

「今は対人練習もやっています。サマーキャンプは若い子たちにしっかりとプレーしてもらうというところもあって、トレーナーさんとも話して試合に出なかったです。ただ、こちらに来て外を走っているので正直、試合に出た方が楽だったのかという気持ちもあります(笑)。客観的に富士通のプレーを見て、自分がどうフィットしていけば良いのか、自分がやるべきことをしっかり考えられる時間になりました。年齢が下の子たちとしっかり関わっていきながら、早くチームに溶け込めたらと思っています」

林といえば、日本バスケ界随一のシューターであるが、「シューターだけでなく、ハンドラーになることも求められています。自分のプレーの幅を広げていけるのが楽しみです」と、富士通ではより多くの役割を担っていくという。

そして、林に期待される役割にはコート内外におけるリーダーシップも含まれている。「自分だけでなく、チーム全体を成長させたい。代表でキャプテンを務めたことが大きかったです。この経験を生かして瑠唯さん、アース(宮澤)さんを含めた上の年代で、下の子たちに勝つことの難しさ、どうやって勝てるかをしっかり示す。試合に出たら絶対に負けたくない気持ちを前面に出していきたいです」

「みんながずっと富士通のバスケをやってきた中で、自分が入ったことでもっとうまく循環できるようにしていきたい。そして一人ひとりの人間性を高める手助けをしていきたいです。試合に出ている選手が頑張るだけでなく、ベンチも一つになって戦うことがすごく大事と代表でも感じました。人間性の部分も自分にできる役割の一つと感じているので、そこを強調してみんなに伝えていきたいです」

富士通は林の加入に加え、昨シーズン途中にアーリーエントリーで加入したジョシュア・ンフォンノボン・テミトペ、安江沙碧梨、伊森可琳と大学界を代表する選手たちと、優勝を狙えるロスター構築に成功した。だが、林は「今のままだとまだまだ勝てないと感じています。より細かいところからしっかりやって強いチームに仕上げていきたいです」と言い、慢心はない。確固たる地位を確立した中でも、自らの成長に貪欲な林のハングリーさが富士通全体に波及することで、どんなケミストリーが生まれるのか楽しみだ。