今シーズンのBリーグで最も躍進を遂げたと言えるチームは横浜ビー・コルセアーズだった。Bリーグ初期には残留プレーオフも経験するなど、これまでずっと勝率5割以下だったのが、昨シーズンはチーム初のシーズン勝ち越しを達成。さらに天皇杯、チャンピオンシップでともに4強入りとチーム史上最高の成績を残した。この勢いはオフシーズンに入っても止まらず、レギュラーシーズンMVPの河村勇輝との契約延長に成功しただけでなく、リーグ有数の若手オールラウンダーである西野曜、さらにジョシュ・スコット、ジェロード・ユトフといったBリーグで申し分ない実績を残す外国籍選手も獲得している。昨シーズンの飛躍からさらなるレベルアップを狙える戦力を揃えた編成部門の責任者である竹田謙ゼネラルマネージャー(GM)に今オフの補強、さらに2021年5月の現役引退後、すぐにGMに転身した自身の歩みについて聞いた。

「積み上げていきたいカルチャーは『粘り強さ、みんなで支え合う優しさ、明るさ』」

──引退後すぐのGM就任は異例です。打診された時の率直な気持ちを教えてください。

『来たか』という感じでしたね。GMかは分からないですけど、なんとなくそういうオファーが来るかなとは思っていました。結局、選手としてはビーコルが弱いままで終わってしまったので、違う形でもビーコルを強くしたいという気持ちを持っていました。

──元々、セカンドキャリアでもバスケに携わる仕事に就くことを考えていましたか?

社会人を1年やった後、新潟アルビレックスBBでプロバスケットボール選手になった時からそういう仕事に興味はありました。例えば(スポーツビジネスの書籍として有名な)『エスキモーに氷を売る』を読んで、スポーツビジネスの仕事はすごく面白いと感じたのを覚えています。なので、プロ選手の経験を生かして面白いことをやれそうだとか、むしろ選手より、そういう仕事の方が向いているかもと思っていました。

──とはいえ、2年のブランクを挟み、40代に入ってまでと長い選手生活を送られました。

それでもやっぱり選手は面白いです。 選手以上に面白い仕事はなかなか見つからないと思います。セカンドキャリアの問題はいろいろなスポーツであると思いますが、選手という中毒性のある仕事をしてしまった以上、何をやっても大変というのはすごく感じます。自分も一度、現役を引退した後で復帰しましたが、可能だったらまたもう一回戻ってもいいかなと思います(笑)。

──特にGM1年目は直前まで同じ立場だった選手と、球団側の人間として立場を変えて交渉するのは大変ではなかったですか。

めちゃくちゃ大変ですし、今でもできればやりたくないですけど、しょうがないですよね。すごく大事なことなのでそこは割り切っています。最初は引退した次の日、今まで同じ立場のチームメートだった選手に対し、『今シーズンはお疲れ様でした』とか言っている自分への違和感は本当にありました。でも3回やったのでそこは少しは慣れたかなと思います。

──元選手だからこそ有利になっていると思うところはありますか。

当然、負けた試合とか全然ダメな時は、皆さん『何やっているんだよ、ああすればいいじゃないか』と言いたくなると思います。実際にそれは正しい指摘です。でも、『その前までの試合でこういう流れがあったので、今日はこういうプレーをしてみたけど裏目に出てしまった』など、各選手毎に目の前の試合だけでは分からないストーリーがあります。それを理解しているからこそ、今日はいろいろと言う必要はないと判断できる、他の批判的な声に対して、自分が防波堤となって選手、コーチを守ることができる。そういうところはあると思います。

──編成を担う立場として、どんなカルチャーを積み上げていきたいとイメージしていますか。

一言ではなかなか言い表せないですが、粘り強さ、みんなで支え合う優しさ、明るさみたいなモノは昨シーズンの戦いを見ていて感じ取れました。こういう部分は団体スポーツの良いところで、チームにずっとあり続けて欲しいです。それがあればどんなことにも対応できると思います。

例えば速い展開、強度を高くして距離を詰めたディフェンスというスタイル的なモノの場合、バスケットボールは進化していきますし、20年後もそれをやるのが必ずしも正解なのかは分からないです。ただ、こういったメンタリティーの部分は不変ですし、この助け合いの精神があるからこそ人間はより力が出るみたいなところはあります。だから、そこはずっと守り続けていきたいです。

「伸びる部分にフォーカスして見てくれたらうれしいです」

──竹田GM以外にも今のビーコルには、青木勇人ヘッドコーチ、山田謙治アシスタントコーチ兼アシスタントGMと元選手が在籍しています。特に2人はチーム創設メンバーであり、チームの歴史を知っている人がいることは大きいですか。

そうですね、僕はBリーグ誕生後の加入ですが、その前の5年間を知っている2人がいてくれることはかなり大きいです。bjリーグ時代、優勝した時もあれば勝てなくてお客さんが少なかったとかいろいろな話を聞きます。そういう時でもずっと愛情を持って支えてくれた人たちがいたからこそ今のチームがある。長い間、応援してくれた人たちが昨シーズンの結果で喜んでくれているのは本当にうれしいです。

──ここまでの経験から、自身の理想とするGM像が見えてきましたか?

まだ、手探りなところもありますけど。当然選手には思いっきりやって伸びて欲しいです。ただ、それだけではダメで、強制させるのは違いますが、ある程度は方向付けしていくところも必要です。そこは自分の選手経験を生かしていきたいです。そしてフロントとチームの間にいることは強く意識しています。クラブの事務所とチームの拠点は違う場所にあり、僕が1年目に選手として入団した時から、そこの距離感は感じていてもったいないなと思っていました。また、社長の白井(英介)はバスケット畑出身ではないので、そこで意見がぶつかることもありますが、お互いを尊重しながら意見を言い合って方向性を決めるみたいなこともできています。そういった面でもフロントとチームの橋渡しは意識してやっています。

──今のチームは、河村勇輝選手の存在が突出しているところもあると思います。そこのバランスは気にしていますか?

他の選手たちが『河村ばっかり』という気持ちがあるかないかで言えば、絶対にゼロではないと思います。でも、彼の努力や背負っているものをみんな見ていますし、彼のキャラクターもあります。チームで活動している間は1人の選手で、そんなに気にしていないと思います。また、1個上の高校の先輩である松崎(裕樹)の存在は大きいですし、最年長のエドワード・モリスが言うべきことを言ってくれますし、一番年下の河村と戯れあったりと、みんなで雰囲気が良いチームになっている感覚はあります。

──では最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。

期待をしてもらっていると本当に感じています。ただ去年は去年で、今年のチームはまたゼロからスタートするので新しい目で楽しんでほしいです。当然ながら、現時点ではまだまだ成長しないといけないチームです。この伸びる部分にフォーカスして見てくれたらうれしいです。