クリス・ポール

ツーメンゲームよりもシューターたちを生かすパスが求められる

王朝を築いた時代、ウォリアーズにとって最大のライバルは『ウォリアーズ対策』だけに主眼を置いてチームを作ったロケッツでした。そのロケッツの中心にいたクリス・ポールは、2017-18シーズンのプレーオフでウォリアーズをあと一歩まで追い詰めながらも、ケガで離脱し勝利を逃した苦い思い出があります。

時を経ても中心選手が変わらないウォリアーズに、サンダーとサンズを渡り歩いたポールが加わることとになりました。『対策』を知り尽くした選手の加入でどのような化学変化が起こるのか、頼もしくもあり、異質なプレースタイルを組み込む怖さもあります。

ポールの持ち味は『ポイント・ゴッド』と呼ばれるほどに正確なプレーメークですが、その一方でプレー判断は遅く、あくまでも周囲の状況を見極めながらミスの少ない『正しい判断』を積み重ねていくのが特徴です。ポール加入前は速攻中心で早い展開が持ち味だったロケッツは、スローダウンしてのハーフコートオフェンスが増えてオフェンス効率が上がっただけでなく、ミスが減ってディフェンスが安定する利点もありました。

ウォリアーズ最大の武器であるトランジションで渡り合うだけでは勝てないからこそポールの持ち味がロケッツでは光りましたが、言いかえればウォリアーズのスピーディーなバスケとポールの相性は良くありません。その一方でリーグで最も多かったターンオーバーを減らせそうでもあります。

特にハーフコートオフェンスになると、タフショットでも決めきるステフィン・カリーの個人技に頼り、彼にボールが集まりすぎる傾向が強いだけに、ポールがカリーを囮に使いながら適切にパスを散らしてくれればオフェンスの幅も広がるはずです。カリーのアテンプトを減らしながら、チームの得点力を上げることがポールに求められる仕事になるでしょう。

このハーフコートオフェンスにおいて、ポールには常に相棒となるスクリーナーがいました。ディアンドレ・ジョーダン、クリント・カペラ、スティーブン・アダムス、ディアンドレ・エイトンと、いずれもアウトサイドシュートはなくても、スクリーンとゴール下のフィニッシュ力でツーメンゲームを組み立ててきました。

38歳になったポールが個人技でチャンスメークを繰り返すのは難しいだけに、有能なスクリーナーが欲しいところです。しかし、ウォリアーズで献身的なスクリーナーはケボン・ルーニーしかおらず、そのルーニーもゴール下のフィニッシュに強みを持つわけではありません。

その代わり、スモールラインナップを好み、スクリーンからの動き出しが絶妙なカリーとクレイ・トンプソンのスプラッシュブラザーズに加え、スピードのあるウイングが揃っています。ポールに求められるのはツーメンゲームからのプレーメークではなく、シューターたちのオフボールムーブを生かすパスとなり、プレースタイルの修正が必要になります。

昨シーズンのウォリアーズは3ポイントシュートアテンプトがリーグトップでしたが、それはオフェンスパターンの少なさという問題点でもありました。ウォリアーズの特徴とポールのプレーは相性が良くない一方で、ポールの加入はオフェンスパターンの増加とミスの削減に繋がりそうです。『ウォリアーズ対策』の中心選手だからこそ、チームにこれまでなかった変革を起こしてくれそうです。