『バスケット・グラフィティ』は、今バスケットボールを頑張っている若い選手たちに向けて、トップレベルの選手たちが部活生時代の思い出を語るインタビュー連載。華やかな舞台で活躍するプロ選手にも、かつては知られざる努力を積み重ねる部活生時代があった。当時の努力やバスケに打ち込んだ気持ち、上達のコツを知ることは、きっと今のバスケットボール・プレーヤーにもプラスになるはずだ。
1989年9月8日生まれ、大阪府出身のシューティングガード。精度の高い3ポイントシュートを得意とし、なおかつ抜群の勝負強さを備えるクラッチプレーヤーとして、昨シーズンのNBLファイナルではMVPに輝いた。日本代表でも主力として活躍、Bリーグの『顔』の一人でもある。今シーズンはドライブやパスに磨きをかけ、さらなるレベルアップに余念がない。
シュートを50分やったら、10分はドリブルとハンドリングを
自分が急に上達した時期というのは記憶にないのですが、覚えているのは洛南の1年生で、新チームに切り替わった時です。スランプの時期を我慢して、自信を持ってシュートを打てるようになっていた時期で、新チームで初めての対外試合ということで遠征して、北陸と練習試合をやったんです。その時は篠山(竜青)さんが対戦相手にいました。そこでシュートをかなり決めたんです。「北陸が相手でも自分は決めることができるんだ」と思いました。
それは鮮烈な印象でしたね。その時の北陸は2年生チームでした。篠山さんは2年生でずっとスタメンで、洛南でもかなり苦戦するような強いチームだったんです。その相手に1年生の僕がスタートで出ることになって、そこで3ポイントシュートが決まった時に、「あっ、できるようになってる!」とすごくうれしかったのを覚えています。
バスケがうまくなるためのアドバイスは……そうですね、まずは気持ちの問題として、適切な目標を設定することです。目標は高く掲げるべきなんですけど、市の大会で優勝できないのに県大会での優勝を目指すのはめちゃくちゃなので。僕も中学に入った時は市の大会でも優勝できないチームだったので、1年生の時は市の大会で優勝することを目標にしたんです。そこからステップアップして、3年生で大阪府で優勝しました。
一番近い目標を、短いスパンでいいから立てていくべきだと思います。チームとしても、個人としてもそうです。ただ、僕の場合、中学時代は個人の目標は立てていなかったですね。個人よりチームのことを考えていました。上級生がどうだったかは分からないですけど、少なくとも同期の仲間はすごく結束していました。
技術的なアドバイスは、今になって思うともっとドリブルの練習をしておけば良かったですね。やはり何かに偏ると、別の何かがおろそかになります。中学や高校の頃からファンダメンタルをしっかりやっておけば、今このレベルでも楽にバスケットをしてたんじゃないかと思います。何か武器が欲しいと思って、僕はシューティングの練習をめちゃくちゃやりました。それはそれで良かったから今の自分があるんですけど、さらに言うならシュート練習を50分やったら10分はドリブルやハンドリングの練習を、それは地味な努力かもしれないですけど、やっておけば良かったと思います。
シュートフォームが身体に染みつけば、試合で動じなくなる
シューティングをする上で、自分に合ったシュートフォームはどう見つけるか。僕も小学生の時は、『スラムダンク』の神宗一郎とか三井寿が空中で綺麗に静止しているシュートシーンを真似たりもしました(笑)。誰が見ても変なフォームは修正すべきだと思いますが、理にかなっているフォームで何本も入るなら、それで練習したらいいと思います。
いろんな指導があっていいと思いますが、理にかなっているフォームを自分で考えながら見つけたほうが、身体も覚えるし感覚としても身に着けやすいので。そのフォームを見つけたら、あとはいかにゲームに近い状況で何本もシュートを打つこと。結局はそれが成長としては一番早いと思います。ゲームに近い状況というのは、ボールの受けかたやステップですね。これがちゃんと身体に染みついたら、試合でチェックを受けても動じなくなります。
シューターには爆発している時間帯というのがあります。打ったらほとんど決まるような、『ゾーン』と呼ばれる時間帯です。今でもそうですが、そういう時はやけに冷静な自分がいるものです。自分もシュートが決まればバーッと盛り上げていますが、ボールを持ったら変に冷静なんです。自信に満ち溢れているし、それこそ自分でも疑いなく入ると思って打っています。
今、バスケ部で頑張っている人たちに伝えたいのは、こんなことを言うのもアレですけど、バスケが人生のすべてではないということです。人生を大きく見たら、バスケットはその中の一部です。でも、一部だからこそ、その時間を大切にして、一生懸命に取り組んで、挫折も味わってそれをまた乗り越えてやっていくと、バスケットが終わってからの人生でも絶対に根性がついています。何があってもヘコたれない精神力が絶対に身に着きます。
そういった意味では、バスケットが人を形成してくれると僕は思っているんです。バスケットをやっている時間は大切な時間だと思います。本当に真剣に向き合って、自分が満足できるぐらいバスケットをやってほしいです。
バスケット・グラフィティ/辻直人
vol.1「兄を追い、仲間に恵まれてバスケにのめり込む」
vol.2「スランプは乗り越えるのではなく『我慢』する」
vol.3「シュートフォームは自分で考えながら見つける」