8年1億ドル(135億円)とも言われる破格のオファー
モンティ・ウィリアムズは長らく下位に沈んでいたサンズを優勝候補まで育て上げたが、カンファレンスセミファイナルでナゲッツ相手に敗退を喫するとただちに解任された。2019年にサンズのヘッドコーチに就任し、『バブル』のシーズンに新型コロナウイルスの影響で中断されていたリーグの再開とともに目覚ましいパフォーマンスを見せ、翌シーズンからはクリス・ポールとデビン・ブッカーのコンビを軸に、攻守の切り替えがスムーズで、チームプレーをしながら選手の個性も引き出すバスケでチームを急成長させた。
今シーズンはトレードデッドラインにケビン・デュラントが加入。その代償としてミケル・ブリッジズなど重要な戦力を手放したためにチームバスケを再構築することになり、そのデュラントにケガもあって準備不足のままプレーオフを迎えていた。敗退の責任をヘッドコーチに問うには厳しい状況ではあったが、地道な選手育成とチームプレーの成熟よりもスターパワーへと方針転換したサンズは、もうモンティを必要としなくなっていた。
それでも、モンティの手腕はサンズで実証され、多くのクラブの関心を集めることになった。そして『The Athletic』は、ピストンズがモンティをヘッドコーチに迎えることを決めたと報じている。ピストンズからの正式発表はなされていないが、6年7200万ドル(約97億円)、チームオプションとなる追加の2年を含めると8年1億ドル(135億円)とも言われる破格のオファーで、少なくとも1年は休養するつもりだったモンティの決断を引き出したようだ。
ピストンズは以前から、採用するヘッドコーチに全面的な信頼を寄せ、大きな役割を託している。かつてはスタン・ヴァン・ガンディにヘッドコーチだけでなくバスケットボール運営部門の社長を兼任させて全権委任とした。直近の5シーズンでヘッドコーチを務めたドウェイン・ケーシーは、結果を残せなかったにもかかわらず長くヘッドコーチを務め、今オフに退任するがフロントとしてピストンズに残る。
ラプターズを解任されたケーシーをヘッドコーチに据えた5年前を振り返っても、1年間休養すると明言していたケーシーを熱意と好条件で口説き落としている。サンズの新オーナー、マット・イシビアに非情な解雇通告を受けたモンティにとって、ピストンズのこの姿勢はうれしいものだったはずだ。
ピストンズにはケイド・カニングハム、ジェイデン・アイビー、ジェイレン・デューレンと将来を担う逸材が各ポジションにいるが、昨シーズンは17勝しか挙げられておらず、NBAドラフトの指名権は5位となりビクター・ウェンバニャマは手に入らなかった。再建期を抜け出して強いチームを作るために、もう1年を準備期間として我慢を続けるのか、トレードやフリーエージェントでロスターのテコ入れを図って勝負に出るのか。モンティのヘッドコーチ就任が決まったことで、ピストンズでは様々なことが動き始める。