アプローチは異なれど『多彩さ』が両チームをNBAファイナルへと導く
長かったシーズンの締めくくりとなるNBAファイナルは、ナゲッツとヒートの顔合わせとなりました。ポイントセンターの二コラ・ヨキッチとバム・アデバヨ、勝負強いジャマール・マレーとジミー・バトラー、チームカルチャーに沿った選手獲得、育成をベースにしたチーム作りと似た要素が多い両チームですが、決定的に違うのはヘッドコーチの評価です。
現地メディアが作るヘッドコーチランキングでは必ずと言ってよいほどトップに選出されるヒートのエリック・スポールストラに対して、ナゲッツのマイケル・マローンの評価は低く、2015年に就任してからチームを成長させリーグのトップチームへと導いた現在も高い評価はされていません。マローンの歴史はヨキッチの歴史でもあり、ヘッドコーチが誰であっても『ヨキッチがいればチームが強いのは当然』と言えるのも事実です。
実際、采配の面ではマローンには首をひねることも多く、大量リードから追い付かれることも多いし、選手の特徴に合わない起用、自主的な判断を尊重しすぎてチーム戦術が乱れることもあります。特に多いのが実績のあるベテラン選手を重用しては、ナゲッツ特有の戦い方にフィットさせらないことで、今シーズンもレジー・ジャクソンやトーマス・ブライアントを補強し、一時はローテーションの一角に据えながら、今では全く起用していません。
ただ、采配には大きな疑問符の付くマローンも、選手育成には長けており、何よりも継続してチームをステップアップさせ続ける部分に特徴があります。ヨキッチにしても2巡目指名からMVPになった選手で、NBAに来た当初は得点力には課題があり、パスファーストかつダイナミックな展開を狙いすぎる一面がありましたが、今では止められない得点パターンとパスの組み合わせで、これまでに存在しなかったタイプの選手として個性を発揮しながら、オーソドックスなポストアップでも力を発揮しています。
ディフェンス力が皆無に等しく、特にオフボールでのミスを重ねていたマレーとマイケル・ポーターJr.も今では素晴らしいチームディフェンスをする選手へと成長しました。対人ディフェンスは改善できても、カバーやローテーション、細かいポジショニングの改善はなかなか見られません。それでもマローンはチーム戦術の部分で選手を大きく成長させる稀有なコーチです。
ナゲッツ最大の特徴は『多彩さ』ですが、それはヨキッチ個人がもたらすものではありません。マローンに『マローンらしい』戦術というものはなく、ハイペースなオフェンス力で打ち勝った翌シーズンにペースダウンしてディフェンス力で勝負するなど、毎シーズンのように新たな要素を取り込んできました。選手に常に新しい課題を用意することで着実なレベルアップに導き、それが個人としてもチームとしても経験値として積み上げられることで、8年の長きに渡り同じヘッドコーチの下でプレーしているとは思えないほど変化に満ちた『多彩さ』へと結実しています。
この変化のスパンを短くすると、今度はヒートのスポルストラの特徴になってきます。試合中に多彩な変化をつける采配でチームに勝利をもたらすことで高い評価を受けているスポールストラですが、必ずしも論理的な変化ではなく、何度も失敗を重ね、その中から正解を探し求めていきます。トライ&エラーこそスポールストラの真骨頂とさえ言えます。
ヒートの選手交代はパターンが固定化されておらず、試合によって異なる構成のユニットとなり、その中で各選手は自分自身はもちろん、チームメートの個性も生かすことが求められます。変化の激しい環境下でも動じることなく積極的にプレーすることが、ヒートらしいメンタリティへと繋がっていくのです。
このプレーオフにおいてナゲッツは固定された8人で戦っていますが、同じ選手でも多彩なプレーパターンをみせていくのに対して、ヒートは10人の選手を試合によって異なる起用法で使い、手を変え品を変えて多彩な戦い方をしてきます。試合での采配は大きく異なりますが、長期的な目線で変化を促し成長させていくマローンと、短期的な目線で変化を繰り返しメンタリティを作っていくスポールストラという似た要素を持つヘッドコーチによるNBAファイナルが、幕を開けます。