「正しいプロセスを踏んでこられたとすごく感じています」
琉球ゴールデンキングスは5月21日、チャンピオンシップのセミファイナルで横浜ビー・コルセアーズと対戦。終盤までもつれる激闘となったが、強みであるインサイドアタックを貫くことで88-84と競り勝った。これで2連勝とした琉球は、昨年に続くファイナル進出を決めた。
この試合、横浜BCは故障によるプレータイムの制限もあり、控えからの出場が続いていたエースの河村勇輝をチャンピオンシップ4試合目で初めて先発起用する。河村を起点にした横浜BCのテンポの良いボールムーブに琉球は後手に回ってしまい、第1クォーターは横浜BCが25-22とリズムをつかむ。
第2クォーターに入っても横浜BCは、巧みな連携からバランス良く得点を重ねていくことで突き放しにかかる。ここで琉球は小野寺祥太の3ポイントシュートで悪い流れを断ち切って追い上げをみせるが、横浜BCは得意のトランジションからチャールズ・ジャクソンがバスケット・カウントを決め流れを渡さない。このまま一進一退の攻防が続き、横浜BCが41-39とリードして前半を終える。
後半も互いに譲らず僅差で推移していく。第4クォーター残り3分で琉球がわずか1点リードと接戦が続く中、琉球は直前にコートインした岸本隆一が値千金の3ポイントシュートを沈めると、さらにジャック・クーリーのオフェンスリバウンドからのセカンドチャンスポイントと自分たちの強みを発揮して抜け出す。その後も横浜BCは粘りを見せるが、ファウルゲームに対して着実にフリースローを決めていった琉球が逃げ切った。
ここ一番でさすがの勝負強さを発揮した岸本は、2年連続となるファイナルへの思いをこう明かす。「本当にCSに限らずレギュラーシーズンから繋げてきて、やっとファイナルへの切符をチームとして勝ち取れました。うれしいというより、安心感の方が近い心境です。ここまで来たら相手どうこうよりも、自分たちがどうあるべきかに最大限の集中をしてファイナル当日を迎えられたらいいと思います」
昨シーズンの琉球は、レギュラーシーズンで圧倒的な強さを見せ早々に地区優勝とチャンピオンシップ第1シードの座を決めた。今シーズンも48勝12敗と見事な成績だったが、地区優勝はレギュラーシーズン最終節に決まるなど最後まで気の抜けない険しい道のりだった。しかし、岸本は「正しいプロセスを踏んでこられたとすごく感じています」と様々な困難を乗り越えて再びファイナルの舞台へと辿り着いた歩みに手応えを感じている。
「うまくいかない時にこそどう振る舞うのか、どういうチームであるのかに本質が問われます。意図しないことは度々起こりますが、その時には隣の選手を輪の中に入れてとにかくチームとして戦っていく、この強い気持ちでシーズンを通してプレーできました。本当に今までで一番良いチームになってきたと思いますし、あとは結果で証明するだけ。良いチームにプラスして、自分たちが一番強いチームだったと胸を張れるようにやっていきたいです」
「今まで一緒に戦ってきた選手、社員の方たちの気持ちを形に変えられるように」
1年前のファイナル、琉球は宇都宮ブレックス相手に連敗を喫し、自分たちのやりたいバスケを満足に表現できずに敗れた。この雪辱を果たし、Bリーグ誕生後では初のタイトル獲得への決意を岸本は語る。「Bリーグになってから何度もあと少しというところで悔しい思いをずっとしてきました。ファイナルの舞台で自分たちのそういう想いをしっかり形にしていきたいです」
またリベンジと共に、岸本が大事しているのは『これまでキングスに在籍した人たちのためにも』という思いだ。地元出身の生え抜きとして在籍年数が10年を超える岸本は琉球の象徴であり、これまで多くのチームメート、球団スタッフとの別れを経験してきた。日本随一の屋内エンターテインメント施設である沖縄アリーナを本拠地とし、アリーナに併設されるサブアリーナやトレーニングルームを拠点とする琉球は、今やリーグでもトップクラスの環境を誇る。だが、かつては冷暖房のない公共施設で練習をしてきた時代もある。そういった恵まれない環境の中でもチームのために尽くし、bjリーグ、Bリーグと好成績を残してきたかつての同僚たちの献身があったからこそ、今の恵まれた環境がある。そして、こうした強固なファンベースができたことへの感謝を岸本は常に持ち続けている。
「今回、優勝という結果を残していくことに意味があります。重くは考えてはいないですが、今まで一緒に戦ってきた選手、社員の方たちの気持ちを、(タイトルという)形に変えられるようにファイナルは戦っていけたらいいと思います」
だからこそ、岸本は琉球の一員であり続けられることを決して当たり前とは思わない。そして次のような思いを胸に刻んでファイナルに臨む。「今まで一緒にプレーしてきたコーチ、選手がたくさんいて彼らはいろいろな事情がある中でこのキングスを去って違うチームの一員として戦っています。ネガティブな意味ではないですけど、『もし自分が違うチームに行っていたらキングスは優勝していたのかな』と正直、考えることはあります。自分が残って長く在籍しているからには責任を持ってプレーしないといけないと常に思っています」
ファイナルの相手は千葉ジェッツだ。天皇杯ファイナルでの敗戦、レギュラーシーズンでの対戦内容を見ても千葉優位の下馬評は否めない。だが、今の琉球には、まだまだ進歩できる余地があると岸本は言い切る。「現時点で全てを出し尽くしたとは誰一人、思っていないです。伸びしろを残した状態でファイナルに臨めます。長いシーズンを戦ってやっとスタートラインに立てた感覚で、それは昨シーズンに比べて違います」
最後までチームが進化できた時、これまでのチームの歴史を紡いできた多くの人たちの思いと共に、岸本が優勝カップを掲げる姿が見られるはずだ。