川崎との大一番でキャリアハイを更新する18得点
普段はベンチから出てくる27歳の地味な印象のポイントガードが、負傷の河村勇輝に代わって先発出場し、先頭に立ってチームを牽引した。
横浜ビー・コルセアーズは14日、欠場者続出の川崎ブレイブサンダースを104−84という大差で破り、チャンピオンシップセミファイナルへの切符を手にした。思わぬ大量得点となり、2桁得点者が6人出た中で、どちらかというとアシストとゲームマネジメントのイメージの強い森井健太も、自身の得点で存在感を示した。
シリーズ初戦で3ポイントシュート2本による6得点を記録した森井は、この日もシュートタッチが良く5本中4本の長距離砲を沈めた。チーム2位の18得点で、外国籍選手をすべて欠きながらも懸命に食い下がろうとする川崎にダメージを与えた。
「僕には河村選手のようなプレーはできない」。試合後、そのように話した森井だが、4月上旬からの河村の故障による不在時の経験も生かしながら、自身にできることを徹底しようと心に決めて今回のクォーターファイナルに臨んだという。「自分にしかできないことがあると思っていて、ディフェンスやゲームをコントロールすることなど、自分の役割をまず100%やることが、チームに対しての一番の貢献だと思っていたので、そういったプレーが序盤から出ました。そこは自分としてもチームとしても良かったかなと思います」
これまでのキャリアハイは15得点。それを超える得点を、ポストシーズンの4強進出を決める大舞台で刻んでみせた。横浜に来て3年目。それ以前の3シーズンは新潟アルビレックスBBに在籍し、元日本代表の五十嵐圭(現群馬クレインサンダーズ)や柏木真介(現シーホース三河)らの控えを務めながら、学びを得てきた。6年のプロ生活での平均得点は2.5得点、3ポイントシュート成功率は25.6%でしかない。今シーズンの平均得点も2.2だった。
横浜BCの青木勇人ヘッドコーチは選手たちに、自身でタイミングが合っていて、良いと判断したならば思い切ってシュートを打てと言ってきた。それはもちろん、森井に対しても同じだった。青木ヘッドコーチは森井が体育館で長くシューティングする姿を見てきただけに、今回の試合のようにその努力が花開く時が来ると信じていた。
「彼自身がつかみ取ったチャンスをしっかりと決めて、ステップアップしたんじゃないかなと思っています」。新潟のアソシエイトヘッドコーチだった頃から森井を見ている青木ヘッドコーチは、そう彼の『晴れ姿』に目を細めた。
河村「僕が一番マッチアップするのが嫌だと感じるのは練習中の健太さん」
指揮官だけではない。横浜BCの選手たちも、森井が3ポイントシュートをねじ込むたびに雄叫びの声を挙げた。森井も「僕がシュートを決めるとチームが盛り上がるっていう…。本当に素晴らしいチームメートだと思うし、味方のプレーをこんなに喜べるチームはなかなかない」とうれしそうに話した。
だが、河村だけは森井の活躍に「そこまで驚きはない」と少し違った反応を示した。自身の成長で森井の出場時間は減ったものの「プレータイムを与えれば与えるほど存在感が増す選手」だと森井を評した。「周りのチームや世間がどういう評価を彼にしているか分からないですけど、過小評価されている選手だなと僕は思います。ディフェンス面でも、Bリーグの中で僕が一番マッチアップするのが嫌だと感じるのは練習中の健太さんだと思っています。それくらいディフェンスの強度は素晴らしいですし、何よりゲームコントロールに長けていて、自分の強みを最大限生かせる選手だなと」
セミファイナルで対戦するのは琉球ゴールデンキングス。昨シーズンのファイナルに進出しており、今年の天皇杯決勝にも到達している。川崎以上の強敵と言っても過言ではない。河村が万全でないのはマイナスではあるものの、一方で彼だけに頼らない、シーズンを通してやってきたものとは少し違う戦いぶりも披露した。結果、怪我の功名ではないが横浜BCはプレーの手札を増やしたと言えるかもしれない。
「いろんな選手で攻めるのは相手からしたら多分怖いと思うので、その部分のバリエーションは増えました。フォワードのウィング陣も自分がやらなきゃっていう意識も変わったんじゃないかって、ここ数試合を見て感じました」。森井はそう言う。ディフェンスをひきつける河村を使いつつ、ほかのウィング陣が得点する得点のバリエーションを川崎とのクォーターファイナルで試し、好感触を得たようだ。
「僕には河村選手のようなプレーはできない」。確かにそうかもしれない。だが、森井にしかできないプレーもある。それを河村の不在時に証明してみせた。琉球との決戦を「厳しい戦いになる」と表情を引き締めた森井。だが「全員で戦えば必ず勝てると思う」と、力強い言葉を残して会見場を後にした。