「チームを落ち着かせるプレーを求められているので意識しました」
5月7日、群馬クレインサンダーズはレギュラーシーズン最終戦をアウェーの地で仙台89ERSと対戦した。前日の第1戦では苦しみながらもオーバータイムの末に勝利したが、第2戦は序盤から仙台に主導権を握られて敗戦となった。
第1クォーター残り4分、10点のビハインドを背負う群馬は五十嵐圭をコートに送り込んだ。結果的に五十嵐はこの試合では得点に絡むことはなかったものの、劣勢のチームを救うべくベテランの経験に期待が集まった。水野宏太ヘッドコーチは「ゲームを作ってきて欲しいというのと、ボールハンドラーを2人置くことでマークマンによってハンドラーを変えて攻めれればと。昨日、流れを持って行かれた場面があったので、そこを早めに対処したいというのがあり、五十嵐選手の経験だったり、ゲームをコントロールする力に期待しました」と、起用の意図を明かした。
五十嵐も起用の意図は理解しており「今シーズンは1番というより2ガードで2番で出ることが多かったので、チャンスがあればシュートを狙っていくことと、チームを落ち着かせるプレーを求められているのでそこを意識をしていました」と言う。だが、結果的にチームに勢いを与えられなかったことで「今日は自分がボールを持ってコントロールする時間が少なかったので、もっと菅原(暉)に声を掛けることも必要だったかなと思います」と悔やんだ。
この日誕生日を迎えた、B1リーグ最年長である五十嵐の経験は、今シーズンに同時起用されることが多かった若手ポイントガードの菅原にプラスになっているだろう。五十嵐は若手選手との関わりについてこのように話す。「求められたことはアドバイスしますし、気がついたことがあったら自分からアドバイスするようにしています。自分もそうでしたが、まずは試合の中で感じることや経験していくことが大切だと思っています。今は『アグレッシブに自分らしくやろう』という言葉だけです」
「自分の中で葛藤があったシーズンでした」
昨シーズンにB1昇格とホームタウン移転の転換期の目玉選手として補強されたのが五十嵐だった。昨シーズンは25勝30敗、今シーズンは29勝31敗と少しずつステップアップしているが、「移籍してきて、昨シーズンも今シーズンも思い描いたような成績を残せていない歯痒さがあります」と五十嵐は言う。しかし、「オープンハウスアリーナ太田が完成して、多くのファンの方が足を運んでくださる環境が整いました。応援してくださる方に恩返しをするという思いもありました」と、クラブとしてポジティブな面にも触れた。
今シーズンの五十嵐は33試合に出場し、平均7分54秒のプレータイムに留まった。これまでチームの中心として活躍してきた五十嵐にとっては苦しんだシーズンと言える。「キャリアの中でもプレータイムが少ないのは初めてのことでしたので、自分の中でも葛藤があったり、うまくプレーできなかったシーズンでした」
だが、コートに立つ時間が短くなっても五十嵐が与える影響の大きさは変わらない。第1戦では第2クォーター終盤で交代のため待機していたが、ボールがデッドにならずに出番がなくなってしまい、落胆した観客は多かっただろう。第2戦でコートに立った際には、群馬ブースターのみならず、仙台側からも大きな歓声と拍手が上がっていた。
五十嵐がバスケとは無縁だった太田市に種子を蒔いた主役になったのは間違いない。昨シーズン群馬に与えたインパクトは今シーズンになり、明らかに芽を出している。水野ヘッドコーチも段々と熱を帯びてきている群馬ブースターについてこう語る。「応援してもらっているのを感じられるシーズンでした。今日もホームではないにも関わらず、試合前にホームで流れる『Winners Anthem』をベンチの後ろで歌って後押しをしてくれました。昨日はその期待に応えられましたが、今日は応えられず悔しい気持ちではあります。ただ『一緒に戦って欲しい』ということを言い続けて、それをやってくれたファンの皆さんには感謝しかないです」
五十嵐は「目標としていた優勝やチャンピオンシップに行けなかったのは悔しい気持ちですし、自分たち以上に応援してくれるファンや関係者の皆さんに申し訳ないという気持ちが1番です」と、今シーズンを悔しそうに振り返った。しかし、ブースターは悔しい気持ちと同じくらい感謝の気持ちがあるのは間違いないだろう。五十嵐にとっては納得のいかない2シーズンだったかもしれないが、ブースターは勝利以上の価値を五十嵐から与えてもらっている。
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