「ケミストリーという意味で、何かを変えなければいけないのは間違いない」
マーベリックスは昨シーズンに52勝を挙げ、プレーオフではカンファレンスファイナルまで勝ち進んだ。24歳のスター選手、ルカ・ドンチッチを擁し、チームは右肩上がりの成長を続けていくかに思われたが、戦術的なキーマンだったジェイレン・ブランソンを失ったことでケミストリーを失い、その穴埋めを試行錯誤するも上手くいかなかった。トレードデッドラインでカイリー・アービングを獲得する『変化』に打って出るも、それまでの主力を放出したことでケミストリーの面ではさらに後退した。
それでも大混戦の西カンファレンスで中位争いに踏み留まり、現地3月22日のウォリアーズ戦に勝てばプレーオフのストレートインとなる6位に浮上できる場所にいた。しかし、この試合から1勝7敗と失速してプレーイン・トーナメント圏外まで転落。レギュラーシーズンを2試合残したところで勝利をあきらめた。
ドンチッチはキャリア5年目にして初めて30得点超えの32.4得点、8.6リバウンド、8.0アシストを記録し、これまでで最高のスタッツを残したが、シーズン最後の会見では「プレーオフに出られなかったんだから、本当にダメだと思う。チームが負けている以上、個人成績には何の意味もないよ」と語る。
失意のシーズンを終えたばかりのドンチッチにいつもの快活さはなく、静かな笑みをたたえながらも言葉数は少なかった。傷付き、疲れ果てた姿がそこにはあった。
ヘッドコーチのジェイソン・キッドは、「メディアの皆さんはそうは思わないかもしれないが、ルカは素晴らしいシーズンを過ごした。世界最高の選手の一人で、MVP争いにも名を連ねた」と言う。
「このチームは彼にすべてをやってもらおうとしている。ルカにとっての次のステップは、マラソンのような長いシーズンを走り切るため、多くのことを求められる中で優先順位を付けることだろう。もちろん、彼を取り巻くロスターも重要になる」
「いずれ彼とは話をするつもりだが、まずはこの休暇を使ってリフレッシュして、来シーズンのマラソンに備えてほしい。彼が成長し、人生やキャリアにおいて様々な課題に向き合う中で、我々も彼をサポートし続けたい。我々が成功を収めるには、組織全体が一丸となって彼を支えなければいけない。彼の能力を最大限に引き出し、長いシーズンを戦い抜くために、最適な環境を整えるのが我々の役目だ。私は彼がさらに成長し、才能を発揮し続け、このチームの一員として、そして個人としても成功を収める姿を見たいんだ」
今シーズンのマブスにドンチッチを支える体制ができていたとは言えない。ドンチッチが過去最高の活躍を見せたにもかかわらず、プレーオフを逃した結果がそれを証明している。さらにシーズンの最後、わずかではあってもチャンスが残っている中で首脳陣は『勝たないこと』を選択した。選手がこれを不満に思うのは明らかで、ドンチッチにもそのフラストレーションはある。
「好ましい判断ではなかった」とドンチッチは振り返るが、それを大きな事件ととらえ、トレード要求に至るという報道には明確に異を唱えた。「誰が書いたか知らないけど、僕がトレードを要求するなんて記事を見て笑ってしまった。だって僕はそんなこと言ってないからね」
メディアからは、ペリカンズのアンソニー・デイビス、ロケッツのジェームズ・ハーデン、そしてネッツのケビン・デュラントを例に挙げて「このチームで勝てないと分かったら移籍を考えるのでは?」とたたみかけられたが、ドンチッチは静かな笑みとともに「君はそう言うけど、僕はここでハッピーなんだ。だから心配する必要はないよ」と答えている。
それと同時にドンチッチはこうも話す。「何かを変えなければいけない。昨シーズンの僕たちはカンファレンスファイナルに進出した。プレーすることを楽しんでいた。ケミストリーという意味で、何かを変えなければいけないのは間違いない」
指揮官キッドは「我々は忍耐強くなければいけない」と言う。「NBAで一夜にして成功が訪れることはない。一度のトレードで成功を手に入れることはできず、数シーズンかかるものだ。私がここに来た時もすぐには勝てなかったが、最終的には良いチームを作って優勝を勝ち取った。だから忍耐が大事なんだ」
キッドがその忍耐を求めるのは、ドンチッチに対してではなく、メディアとその先にいるファンだ。「今の状況には満足していないが、前進し続けること、成長し続けることを約束する。ファンの皆さんにはもう少しの忍耐をお願いしたい。チームが成長し、目標に向かって前進する上で、ファンのサポートがどれだけ大事かを私は知っているんだ」