心臓の病気を抱えながら16年間プレー、オールスター7回選出
37歳のラマーカス・オルドリッジが現役引退を表明した。2006年のドラフト全体2位でブルズから指名されたオルドリッジは、直後のトレードによりトレイルブレイザーズでNBAデビューを果たし、ブレイザーズで9シーズン、スパーズで5シーズン半プレー。ネッツでは一度の現役引退を挟んで1年半プレーし、2021-22シーズンは47試合に出場し、12.9得点、5.5リバウンドと健在ぶりをアピールした。ただ今シーズンは契約を得られず、どのクラブにも所属しないままだった。
現地3月31日、オルドリッジはSNSで引退を発表した。NFLのスーパースターであるトム・ブレイディの言葉を引用している。「TB12の言葉を借りれば、人生には一度しかない感動的な引退の瞬間があるそうだ。僕はキャリアを通じて得たすべての思い出、家族、友人に感謝している。本当に素晴らしい旅で、すべての瞬間を楽しむことができた」
16年間でオールスターに7回選出され、リーグ屈指のビッグマンであり続けたオルドリッジだが、彼が切望し続けたNBA優勝は手に入らないままだった。2006年のドラフトでは全体1位指名権をラプターズが持っており、ラプターズに所属していたクリス・ボッシュが同じダラス出身のオルドリッジの獲得を強く推薦していたが、ラプターズはアンドレア・バルニャーニを指名。2006-07シーズンに躍進を遂げたラプターズにボッシュとオルドリッジのコンビがいれば、と思わずにはいられない。
ブレイザーズでは同期のブランドン・ロイ、1年遅れで加入したグレッグ・オデンとトリオを組んだが、オルドリッジに心臓の問題が発覚し、ロイとオデンはケガに見舞われてチームは機能せず。デイミアン・リラード2年目の2013-14シーズンはオルドリッジをエースとするブレイザーズが最も強かったシーズンで、開幕から31勝9敗と快進撃を見せたが、プレーオフではスパーズに敗れ去った。
この時に圧倒的な強さで優勝したスパーズに、オルドリッジは2015年に移籍する。しかし、ティム・ダンカン、マヌ・ジノビリ、トニー・パーカーのビッグ3の時代が終焉を迎えるタイミングで、2016-17シーズンのカンファレンスファイナルでは、新エースのカワイ・レナードのケガで失速。以後、オルドリッジのNBA優勝の夢はウォリアーズの『王朝』に阻まれ続けた。
スパーズのプレーオフ連続出場が22年で途絶え、続く2020-21シーズンもチームは振るわない。オルドリッジはグレッグ・ポポビッチに頼んで契約を解除してもらい、ネッツへの移籍を決める。ケビン・デュラントとカイリー・アービングを擁して優勝候補へと成り上がったネッツにベテラン最低保証額で加わったのは、NBA優勝を何としてでも勝ち取りたい彼の執念だった。
すでに全盛期は過ぎていたが、だからこそオルドリッジには「今、優勝する」という強力なモチベーションがあり、ジャレット・アレンを放出してビッグマンが不足していたネッツにとっては大きな補強だった。しかし、5試合に出場しただけで不整脈を起こし、引退を決意することに。2020-21シーズンのネッツにはジェームズ・ハーデンも加わっており、タレントの質では優勝候補の筆頭だったがケガ人続出で力を発揮できなかった。後に現役復帰するオルドリッジは、「このメンバーと一緒なら絶対にファイナルを戦えると思っていた。その仲間たちを自宅のリビングで応援するのは辛かった。『僕がいれば』と思う場面が何度もあったからこそ、本当に辛かった」と語っている。
オルドリッジはNBAで輝かしいキャリアを築き、十分な富も得た。最も切望したNBA優勝には手が届かなかったが、それを追い掛け続けたことに意味がある。だからこそ二度目の引退に際して「すべての瞬間を楽しむことができた」と言えるのだろう。