テオ・ピンソン

NBAチームで重宝され、しぶとく生き残るキャラクターとは

キャンプ契約から高確率でシュートを決めるコーナー担当に定着し、ネッツに欠かせない戦力になった渡邊雄太ですが、純粋な『戦力』としてだけななく、ハードに戦う姿勢やバスケを楽しむ姿勢がブルックリンのファンに愛され、何より渡邊のエネルギーが伝わったかのように、空中分解寸前だったチームに一体感が生まれています。

ロスター枠が限られ、トレードも多いNBAのチームは少人数で構成された集団です。長いシーズンでは連敗で気が滅入るときもあれば、ケガ人続出でやりたいことができなかったり、あるいは起用法に不満を持つ選手がトレード要求したりと、ネガティブな出来事が多々起こります。成績のアップダウンが激しく、ロッカールーム内にも紆余曲折のあるシーズンを通してチームのモチベーションを保つには、渡邊のような選手がベンチにいることは極めて重要です。

特にネッツは、この事実を身をもって体感しているはずです。戦力不足と思われながらディアンジェロ・ラッセルを中心にライジングチームとしてプレーオフに進んだチームから、ケビン・デュラントにカイリー・アービング、ジェームズ・ハーデンが揃うスター軍団でありながら空気の悪さがロッカールームの外へと漏れ出すチームへと形を変えてきました。

今のネッツにおける渡邊がそうであるように、ラッセルの時代のネッツのベンチには、プレー機会がなくとも誰よりもチームを盛り上げるムードメーカーのセオ・ピンソンがいました。ネッツに続いて加入したニックスは、前年から大躍進を遂げ東カンファレンス4位でプレーオフに進みましたが、ピンソンがいなくなった昨シーズンは成績が急降下してしまいました。

NCAAでもチャンピオンになったピンソンは、勝てるチームに必要な雰囲気を作れる男です。逆にプレーオフのファーストラウンド敗退が続いていたマーベリックスは、ピンソンが加入したシーズンにカンファレンスファイナルまで勝ち進むことになりました。ピンソン自身はプレーの面では『全く』と言っていいほど貢献していませんが、不思議とピンソンのいるチームは下馬評を覆して結果を手にするケースが多くなっています。その結果、昨シーズンは2度の10日間契約からの2ウェイ契約という立場だったピンソンは、1年契約を勝ち取っています。

NBAで5年のキャリアを持ちながら、111試合、トータルでも889分にしか出場していないピンソンは、チームメートのスーパープレーに対してベンチで喜びを爆発させ踊るシーンの方がプレーよりも有名です。ガベージタイム以外に出番がないにもかかわらず、腐るそぶりは全く見せず、味方の良いプレーが出るたびに大きなリアクションで盛り上げる、明るいキャラクターでファンに愛されています。

では、ピンソンは現在どのチームに所属しているでしょうか? 答えはマブスで、2年目のシーズンを迎えています。それでも昨シーズンは2度の10日間契約からの2ウェイ契約という無保証の立場でしたが、今シーズンは1年契約にグレードアップしています。

チーム内の序列が11番手以降の選手に、プレータイムなどほとんどありません。出番が回ってくるときは大差の試合か、ケガ人続出で苦しい時であり、実力以上にチームの流れを変える明るさや激しさが重要になります。マブスはファクンド・カンパッソやケンバ・ウォーカーをウェイブしながら、同じポジションで出番のないピンソンをロスターに残し続けています。これは、かつてのボヤン・マルヤノビッチのようにファンに愛されるムードメーカーの重要性を認識しているからでしょう。

大学を卒業した渡邊のNBAでの第一歩はネッツでのサマーリーグでしたが、その時のチームメートには同じ立場のピンソンがいました。『We Go Hard』をスローガンにしていたネッツには、ハードに戦いエネルギーをもたらす選手が重要でした。ドラフト外からNBAで生き残り続けている2人はコートにいてもいなくても、どんな形であれポジティブな影響力を与えることで試合に参加しています。