ティンバーウルブズ

ゴベアを加えた『スター選手の集団』を機能させるために

ティンバーウルブズは2017-18シーズンに13年の空白を経てプレーオフに進出したが、チームリーダーだったはずのジミー・バトラーがハードワークを欠くチームメートに激怒してトレードを要求。チーム作りはご破算となった。そこから3年を挟んだ昨シーズンにプレーオフへと返り咲いたものの、そのチームはルディ・ゴベア獲得のために解体された。

2004年以降の18シーズンでプレーオフ進出はわずか2回で、いずれもファーストラウンドで敗退。ウルブズのファンは、わずかな成功の後に厳しい冬が待ち受けているのを知っている。だが、昨シーズンは2年目のアンソニー・エドワーズの成長があり、パトリック・ベバリーとディアンジェロ・ラッセルのバックコートも機能した。エースのカール・アンソニー・タウンズを始め若いスター選手が揃っており、今シーズンは右肩上がりの成長があると誰もが思っただろう。

だが彼らはすぐに現実を思い知らされた。開幕から3カ月が経過して22勝24敗と勝率は5割を切っている。昨シーズンの46勝36敗に並ぶには、ここから24勝12敗とリーグトップクラスの成績を残さなければならないが、チームはいまだアイデンティティを見いだせないままだ。

ゴベア獲得は、昨年春にGMに就任したティム・コネリーが主導したもの。彼は初めて編成を司るようになった2013年にナゲッツのGMとしてゴベアを1巡目27位で指名し、ジャズにトレードしている。その後のゴベアの活躍を見れば、トレードの判断を悔いたのは想像に難くない。そんなトラウマから、ゴベアの評価が少なからず過大なものになった可能性はある。

ただ、ゴベア獲得のチャンスがあって見送るGMはそう多くないはずだ。3度のオールスター選出と3度のリーグ最優秀守備選手となったゴベアのリムプロテクト能力はリーグの中でも突出しており、30歳と今まさにキャリアのピークにある。戦術的な幅の広さがあるわけではなく、少々トラブルメーカーな面があり批判されることも多いが、その実力に疑いの余地はない。

コネリーに誤算があったとすれば、トレードで放出したものがあまりにも大きかったことだ。1巡目指名権4つを手放したのが効いてくるのは後々のこと。現状のチームを語る上では、昨シーズンのチームを支えたベバリーとマリーク・ビーズリー、ジャレッド・バンダービルトを手放した穴が大きい。

彼らの退団は、攻守のインテンシティ、ボールに食らい付く迫力をチームから奪い、ペリメーターディフェンスを脆弱なものとした。これをタレントではなくチームプレーで解決する、という指揮官クリス・フィンチの試みは、ここまで難航している。

ウルブズが結果を出せないことにゴベアを批判する声は多いが、もともと器用なプレーヤーではない彼にできることは少ない。要するに『使いよう』だ。ファンは不平を言えばいいが、チームとしてはゴベアの長所を引き出し、短所を隠すバスケを作り上げて、この状況を乗り越えなければならない。

そのための問題はいまだに多い。まずはゴベアと組むことでパワーフォワードにポジションを変えたタウンズがディフェンスに苦労していること。リム周辺の守備とリバウンドをゴベアに任せられるようになった分、タウンズは自分よりスピードのあるウイングをマークする機会が増え、機動力の差をカバーできず苦しんでいる。ゴベア獲得が決まった時、タウンズは「僕らの個性は上手く噛み合う。ビッグラインナップが相手ならゴベアをサポートするし、スモールラインナップであれば僕がガードやウイングを守ってみせる」と語った。それが無理とは言わないが、開幕前の想定より難しいことを、今はタウンズも認めるだろう。

また、ゴベアのピック&ロールに対するディフェンスは、良いパートナーがいて初めて成り立つもの。ジャズではドノバン・ミッチェルと不仲だと言われたが、ピック&ロールを守る2人の連携は息が合っていた。ジャズはそれに限らずチームの連携が高いレベルにあったが、ウルブズでパートナーとなるディアンジェロ・ラッセルとの連携は、これから作っていかなければならない。

アンソニー・エドワーズも3年目の今シーズンは大いに苦戦している。彼の場合はゴベアとの嚙み合わせではなく、誰よりも激しく嫌らしく相手のエースガードに貼り付いていたベバリーがいなくなり、その役割を上手くこなせていない。バンダービルトが抜け、タウンズも守備で苦戦していることで、相手の一番優れたフォワードのマークを担当することも多い。タフに戦えるのが自慢のエドワーズも、これにはさすがに苦戦している。

ただ、これらはすべて解決できない問題ではない。プレーオフには行ったがファーストラウンド止まりだった昨シーズンからの変化を恐れず、タウンズが、ラッセルが、エドワーズが個々の課題を乗り越えれば、チームが持つタレントのパフォーマンスを最大化するのは不可能ではないはずだ。

もう一つの構造的な問題は、ロールプレーヤーの働きを過小評価しすぎることだ。ベバリーやビーズリーがどれだけ多くのものをウルブズにもたらしていたか、最初から理解していれば開幕時点での準備はまた違ったものになっていたはずだ。スター選手が揃っているからこそ、それをサポートするロールプレーヤーの役割は大事なものになる。

タウンズ戦線離脱の穴を埋めているのはカイル・アンダーソンで、今のチームでゴベアの持ち味を一番引き出している。ゴベアのプレースタイルはシンプルなだけに、パワーフォワードが合わせるのはそう難しくはない。ただ単にゴベアの苦手なハードワークを引き受けるだけで、ゴベアはリム周りの自分の得意な仕事に集中してリズムに乗っていける。今のアンダーソンのプレーからタウンズが多くを吸収できていれば、この戦線離脱の期間は無駄にならない。

同じことは控えガードのジョーダン・マクラフリンにも言えて、ラッセルのスター性は欠片も持たないが、ピック&ロールに対するディフェンスではゴベアと良い連携を見せていた。1カ月近くケガで欠場が続いている彼は間もなく復帰の予定で、そのプレーから学べるものは多いはずだ。

先発で唯一『スター選手』と認められていないジェイデン・マクダニエルズも、そろそろ評価されるべきだろう。11.5得点、3.7リバウンド、2.0アシストとスタッツに注目すべきものはないが、攻守に気の利いた働きを見せ、ハードワークでチームを動かす彼の貢献は非常に大きい。エドワーズが全体1位指名を受けた2020年のNBAドラフトで28位指名だった彼もまた、NBAでの3年間で大きく成長している。

プレーオフでの勝敗の分かれ目でモノを言うのはスター選手の個人能力なのかもしれないが、長いシーズンで1勝ずつ積み重ねて順位を上げていくにはチームの総合力が必要で、そのためにはロールプレーヤーの力は軽視できない。その評価を見誤ると、勝てない現状を何とか打開するために、彼らを放出してチームとしての積み上げをまたゼロに戻すことになりかねない。2月9日のトレードデッドラインを前に『パニックボタン』に指が掛かっているかもしれないが、半年ごとにそのボタンを押すのが嫌なら、その指は引っ込めなければならない。