渡邊雄太

「カイは僕を見つけて素晴らしいパスを出してくれました」

12月16日のラプターズ戦は、ネッツにとっても渡邊雄太にとっても大きな意味のある勝利だった。最大で18点のビハインドを背負いながらもネッツは巻き返すことに成功し、渡邊はフィールドゴール7本中6本成功、3ポイントシュート3本成功を含む17得点と活躍した。

特筆すべきはやはり残り14秒、カイリー・アービングからのキックアウトのパスを受けて左コーナーから決めた逆転3ポイントシュートだ。試合後の渡邊は「相手は僕が良いシューターなのを知っています。カイ(カイリー)にヘルプが寄らなかったらレイアップに行けたでしょう。そうじゃなかったから、カイは僕を見つけて素晴らしいパスを出してくれました。僕は打っただけです」と話す。

「この2試合はシュートが入っていなかったんですが、自信を持って打てと励ましてくれたチームメートに感謝したいです。チームのおかげです」

これで今シーズンの渡邊の3ポイントシュートは48本放って25本成功、成功率は52.1%となっている。NBAで3ポイントシュート成功率のランキングに入るには「シーズンで82本成功」、つまり1試合1本の3ポイントシュート成功が必要となる。現時点でネッツは30試合を消化しており、渡邊の成功数は25本。この数字が消化試合数に追い付けば、3ポイントシュート成功率のランキングでトップに躍り出ることになる。規定数を下回っているのは3週間の戦線離脱があったためで、1試合平均3本を打って52.1%を決めている現状のペースを維持すれば、遠からず規定数に到達する。言わば『隠れ1位』なのだ。

現在のトップはセルティックスのマルコム・ブログドンによる48.4%で、93本放って45本成功と試投数も成功数も渡邊の2倍に近い。バックス、ペイサーズ、今シーズンからセルティックスで、常に主力としてプレーし7年目を迎えている経験豊富な選手だ。2位がサンズのデイミオン・リーの47.7%で、以下クリッパーズのルーク・ケナード(47.3%)、ペリカンズのブランドン・イングラム(47.2%)と続く。ちなみにイングラムは60本中28本を決めているが、現在はケガで離脱中。ペリカンズはここまで28試合を消化しており、もう1試合を消化するとランキングから名前が消えることになる。

彼らと渡り合う上で、渡邊が有利な点はネッツの環境だ。ネッツの主役はケビン・デュラントとカイリーで、渡邊はあくまでサポート役。3ポイントシュート試投数は限られてしまうが、その代わりに自らシュートをクリエイトする必要はなく、特に相手のマークが厳しい状況で確率の悪いシュートを打たざるを得ないシチュエーションもない。彼は自分の得意なポジションでパスを待ち、万全な状況でキャッチ&シュートを打てばいいのだ。

渡邊自身も「今日僕が決めた3ポイントシュートはすべてコーナーからで、自分が動いてスポットを見つけなければいけないわけじゃなく、コーナーに走って待っていれば最高のパスが届きます。彼らがチームメートで良かった」と笑顔で語っている。

「ウチのチームには1on1を仕掛けられる選手がたくさんいて、僕の仕事はそれじゃない。僕がコーナーに待機していれば、相手は僕が良いシューターだと理解しているからマークを外せない。つまり僕はチームメートのためにスペースを作り出しています。僕にマークが付いたままなら中でアタックすればいいし、僕のマークが外れたらワイドオープンができる。シンプルなバスケですよ」

こうして渡邊は明確な役割の下、シュートを打つことに集中できる。渡邊の3ポイントシュート成功率の高さの要因は、彼自身のシュート力が一番だが、チームのお膳立ても大きなウエートを占めている。

渡邊はこの好調に油断することなく、いつもの崖っぷち精神を発揮して、チーム内での自分の価値を上げていくことに集中するだろうが、ファンの期待は高まるばかりだ。昨シーズンのラプターズではローテーションから外れて、主力にプレータイムが偏るチームで出場機会がかなり制限されたが、ネッツで毎試合のように見せ場を作る今の状況は劇的に好転している。彼が自分の役割に集中する結果として3ポイントシュート成功率のランキングトップに躍り出れば素晴らしいことだし、この調子で行けば来年2月に行われるNBAオールスターゲームの3ポイントシュートコンテストへの出場も濃厚だろう。

ネッツではジョー・ハリスが2019年の3ポイントシュートコンテストに出場し、ステフィン・カリーを破って優勝している。ハリスも渡邊と同様に遅咲きの選手だったが、キャリア5年目のこの出来事で一気に人気選手となった。渡邊もかつてのハリスと同じ道をたどることを期待したい。