レイカーズファンの反応は『批判』から『支持』へと転じる
ラッセル・ウェストブルックはレイカーズが開幕から3連敗を喫した時点でスターターから外れた。オースティン・リーブス、その後はデニス・シュルーダーに取って代わられた形だが、それが結果として彼をどん底から救い出すことになった。
ウェストブルックはシーズンの大部分で低調だった昨シーズンにベンチスタートを受け入れなかった。今回、たった3試合でのスタメン落ちは厳しすぎるようにも見えるが、1シーズンと3試合のテストを経た上での決定であり、彼も受け入れざるを得なかった。その後しばらくは、彼自身もモチベーションと集中を欠いていたようだが、どこかのタイミングでベンチスタートを本当の意味で受け入れた。
「名前が呼ばれれば、いつだって行けるよう準備している」とウェストブルックは言い、彼を先発から外したヘッドコーチのダービン・ハムは「彼は犠牲を厭わない」とその姿勢を称えた上で「人々がシックスマン賞の話をする時、ラス(ウェストブルック)の名前が出るようにしたい」と語っている。
ベンチスタートになったウェストブルックは、12月には29分のプレータイムを得ている。昨シーズン平均より約4分短くなった計算だが、その分だけダイナミックな動きが際立つことになった。出場時間の増減によるスタミナ配分よりも、彼がいない時間帯から彼がいる時間帯へと切り替わる時のペースの差、エネルギーの差に、相手が対応しきれないことが大きい。サンダー時代のように、48分間フルスロットルで押しまくることはできないのかもしれないが、ベンチスタートという変化が彼を蘇らせた。
それ以上に大きな変化が、ファンの反応だ。レイカーズがどれだけ不甲斐なくても、優勝の功労者であるレブロン・ジェームズやアンソニー・デイビスは心情的に批判するつもりになれないファンは、ウェストブルックを『戦犯』と見立てて批判を集中させた。彼は鋼のメンタリティの持ち主だが、「アリーナでブーイングを浴び、子供たちがそこにいることはつらかった」と、さすがに辛かったと振り返っている。
そんなファンの反応が、今は変わっている。ベンチスタートを受け入れ、与えられた出番で全力を尽くし、なおかつチームの必要に応じて彼本来のプレーよりもアシストをやや多くしてプレーするウェストブルックを、ファンは認めた。ジャンプシュートが外れた時にため息が漏れるのは変わらないが、今の彼は『戦犯』ではなくなっている。
ヒートのレジェンドであるドウェイン・ウェイドは、かつてこの状況を経験している。彼は『Sports Illustrated』にこうコメントしている。「プレータイムが減ったことでディフェンスに使えるエネルギーが増えた。ラスにとってベンチスタートは、自分らしくプレーするために最善の方法だ。アレン・アイバーソンがベンチスタートを受け入れていたら、あと3年か4年はプレーできた。この期間は、自分の役割を楽しみながら素晴らしい時間を過ごせる。ラスは自分のキャリアにとって最善の決断をしたと思う」
ウェストブルックはプロフェッショナルとして、「チームの勝利のためなら何でもする」という姿勢を体現している。ただ、これが長く続くとは思わない。彼はおそらく自分への扱いは正当なものではないと考え、レイカーズへの忠誠心を持っていない。この点、キャリア終盤に移籍で苦労した後、愛するヒートに戻ってキャリアの最後を過ごしたウェイドとは全く違う。
ベンチスタートを受け入れるのと、チームへの忠誠心は似ているようで異なる。今シーズン限りで契約満了を迎える彼は今、レイカーズのためではなく自分自身のキャリアを切り開くためにプレーしている。
ただ、それでレイカーズには何の損もない。彼が全く活躍せず、トレードしようにも欲しがるチームがなく、今シーズンにレブロンやデイビスを上回る4700万ドルの高給をもらうだけの存在であれば大打撃だが、今ではシックスマン賞の有力候補となるパフォーマンスを見せ、チーム浮上のカギとなっている。契約延長はあり得ないが、別れの時が来るまでレイカーズとウェストブルックは互いを利用しながら互いの利益を確保していく。それもまた、プロフェッショナルの正しいあり方だ。