「勝負のかかった場面であんな気持ちになるのは久しぶり」
第4クォーター残り9秒、デイミアン・リラードが迷わず放った3ポイントシュートを決めて、トレイルブレイザーズが120-118と逆転に成功する。勝利を確信したリラードが左腕を胸の前に出し、手首を右手で指差す『デイム・タイム』のパフォーマンスを見せると、ベンチではチームメートが跳び上がりながら同じポーズをして、モダ・センターを埋めるブレイザーズのファンも大興奮。ブレイザーズにとって最高の勝利となるはずだった。
しかし、ほぼ完璧なシュートチェックに行きながら、これを決められていたジャマール・マレーは燃えていた。最後の攻めは33得点を挙げているニコラ・ヨキッチのためにデザインされたが、ユフス・ヌルキッチが良い寄せでボールを入れさせない。ここでマレーは覚悟を決めた。マークに付いた元チームメートのジェレミー・グラントはリーチもあってディフェンスが上手いが、ドリブルを一つ横について位置とタイミングをズラし、ステップバックから3ポイントシュートを放つ。ボールがアーチを描く間、マレーは決まると分かっていたようだった。
残り時間0.9秒ではブレイザーズに成す術はなかった。ジャスティス・ウィンズロウはリムに飛び込むヌルキッチへのアリウープを狙うも、ケンテイビアス・コールドウェル・ポープがこれをカットして、試合終了のブザーが鳴る。かくしてナゲッツが、リードチェンジ30回の激闘を121-120で制した。
21得点5リバウンド8アシストのスタッツ以上にゲームウィナーには価値があり、『デイム・タイム』を上回ったことはさらに価値がある。2021年4月に左膝前十字靭帯断裂の大ケガを負い、昨シーズンを全休したマレーにとっては、今シーズン最高のパフォーマンスだ。
だが、ヘッドコーチのマイケル・マローンは『完全復活』と色めき立つメディアを制するようにこう語る。「開幕前にジャマールは『毎月良くなっていけばいい。クリスマスまで、そしてポストシーズンを見据えて落ち着いていこう』と言ったんだ。今日の彼のプレーは、復活に向けて良い一歩を踏み出せた、ということさ」
この1試合ではマレーの価値は出し尽くせていない、とでもいったところか。膝をケガした時、マレーは移動のバスの中でマローンに「僕はトレードされるだろうか」と質問したという。それをマローンは明確に否定し、復帰を急ぐのではなく、より良い選手になって戻って来るのが大事だと諭したそうだ。
あれから1年半。完全復活ではないのかもしれないが、マレー自身がそれを実感できるパフォーマンスだったに違いない。「勝負のかかった場面であんな気持ちになるのは久しぶりだったよ」と彼は笑う。「長い道のりだったけど、これも僕の成長のステップだ。まだ自分が望むところまでは来ていないけど、一歩近付いた」
その隣では相棒のヨキッチが「スペースさえあればいいんだ。彼に何ができるかは分かっている」と涼しい顔で言う。マレーと一緒にプレーする気分はどうかと聞かれたヨキッチは、「すごく楽しいよ、時々はね」といつもの皮肉めいたジョークで答えた。「当分は大丈夫かもね」
ヨキッチとマレーのコンビは試合を重ねるごとに良くなっている。これからも試合ごとにアップダウンがあるのは気にせず、ゆっくりと調子を上げていくつもりだ。彼らが見据えるのは半年後のプレーオフ。『完全復活』を宣言するのはそこでいい。