三好南穂

取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

「自分がどんどん声を出して、みんなを引っ張る」

Wリーグは各チーム8試合を消化し、トヨタ自動車アンテロープスはここまでトヨタ紡織と富士通に敗れて6勝2敗。10連覇中の『女王』JX-ENEOSに早くも2ゲームの差を付けられているが、それは問題ではない。司令塔であり精神的支柱であった大神雄子が引退したトヨタ自動車は、チームとして生まれ変わる過程にある。レギュラーシーズン22試合の短期決戦とあって悠長に構えてはいられないものの、目先の勝ち負けより新たなスタイルの構築が優先だ。

そんなトヨタ自動車で先発ポイントガードとキャプテンを担うのが三好南穂だ。昨年にシャンソン化粧品からトヨタ自動車に移籍。桜花学園の先輩である大神と1シーズンともに過ごし、2つの重責を引き継いだ。

「キャプテンを任せてもらったプレッシャーはあります。シンさん(大神)の後だし、自分が引っ張っていかなきゃいけない」と三好は言う。「昨シーズンはシンさんがいて、シンさんの言葉に私たちが自然とついていきました。でも今シーズンは絶対的なリーダーがいない分、みんなでチームを盛り上げていこうという意識があります」

年齢で言えば三好より上の選手は何人かいて、「ホント、むしろ上の方が多いんですよ」と三好は笑うが、それでも「コートに入ったら年齢は関係ないので、自分がどんどん声を出して鼓舞して、みんなを引っ張っていくつもりです」と意気込む。

「何があっても私は下を向かない。自分が前を向き続けていれば、みんなついてきてくれます。だから私は強い気持ちを持ってやります」と、キャプテンとして力強い言葉が出てくる。

三好南穂

「三好を入れておけば良かった、と思わせる」

ロスターの顔ぶれはほとんど変わらないが、大神という強烈な個性が抜け、ヘッドコーチも代わったことで、トヨタ自動車は全く別のチームになっている。ドナルド・ベックからイヴァン・トリノスへの指揮官変更は、バスケットスタイルにどんな変化をもたらしたのだろうか。「バスケがガラッと変わりました。昨シーズンはセットオフェンスの動きが決まった中でやっていたのですが、今は最初の入りだけ決めて、あとは個々が好きなように動いています。フリーなバスケットなのでミスもありますが、良い部分としてタレントが揃っている個々の能力が生かせるようになっています」

三好を始め、長岡萌映子や馬瓜エブリンと大型補強をした昨シーズンは、プレーオフ決勝に進めず優勝候補の期待を裏切る結果に終わった。チームとしてはその悔しさがあり、三好個人としてはその後、ワールドカップに向けた日本代表のメンバー選考で最後の最後で落選した悔しさがある。リオ五輪では思い切りの良いシュートで見せ場を作った三好が、その後は代表レースで後れを取っている。

「外れた時は、自分のプレーはやりきったつもり、自分は出せたつもりだったんです。だから自分のプレーができなかった悔しさはなかったんですけど、落ちたこと自体はやっぱり悔しくて。だからこのリーグで『三好を入れておけば良かった』と周囲に思わせられるように頑張っていこうという気持ちはあります」

そのためには、三好を押しのける形でワールドカップメンバーとなった藤岡麻菜美、町田瑠唯、本橋菜子の3人のポイントガードを上回るパフォーマンスが求められるし、ポイントガードである以上、個人のスタッツではなくチームの勝利という結果が欲しい。だからこそ三好は「昨シーズンに行けなかったファイナルにまず行くこと。そして優勝が目標です」と言い切る。

三好南穂

「負けない気持ちを見てもらいたいです」

個人としては3ポイントシュートを決め、そしてキャプテンとしてチームを引っ張ることが目標となる。ワールドカップメンバーからは落選したが、「コート上の5人誰もが3ポイントシュートを打てるチーム」を目指した日本代表で競い合う中で、三好は自分の武器にさらに磨きを掛けた。

「今シーズンは3ポイントラインより遠い位置からのディープスリーを打てるようになっているので、そこに注目してもらえたらと思います。あとはキャプテンとして、コートの中でも外でも声を出す、負けない気持ちを見てもらいたいです」

藤岡、町田、本橋、そして三好。同年代の4人のポイントガードの切磋琢磨が、Wリーグと日本代表のレベルアップにつながる。中でもリベンジの気持ちを最も強く持っているであろう三好が、トヨタ自動車をどう牽引していくか、期待とともに見守りたい。