強敵との開幕4試合の内、3試合で9得点3スティール以上と攻守で活躍

Wリーグは10月30日の時点でレギュラーシーズンの第2節が終了した中、ENEOSサンフラワーズが苦しんでいる。開幕からここまで強豪のトヨタ自動車アンテロープスと富士通レッドウェーブとの連戦であることも影響しているが、1勝3敗スタートと黒星が先行。30日に行われた富士通との第2戦は、54-91と大敗した初戦からのリベンジへ向け第1クォーターで23-8と先手を取るが、その後はボールムーブに欠けるオフェンスでの悪癖が再発し、ジリ貧となってしまう。その結果、第4クォーターは13-27と失速し、59-63と痛恨の逆転負けで同一カード連敗を喫してしまった。

冷静なゲームメークとここ一番での勝負強さを誇る岡本彩也花が戦線離脱していることに加え、日本随一のシューターである林咲希も故障明けでプレータイムを制限せざるを得ない状況とENEOSは今、試練を迎えている。ただ、そんな中でも明るい材料と言えるのが、22歳の星杏璃のステップアップだ。

昨シーズンまでの星は、安定したプレータイムを獲得できておらず、リーグ上位チームとの対戦ではコートに立てないことも少なくなかった。しかし、昨シーズン終盤に主力の欠場でチャンスをつかむと、レギュラーシーズン最後の2試合で続けて20得点以上と非凡な能力の片鱗を見せていた。

そして迎えた今シーズン、開幕前の会見に出席した各チームのキャプテンがそれぞれのイチ押し選手を紹介するコーナーで、渡嘉敷来夢が星の名前を挙げるなどより大きな期待を集める中、開幕戦で10得点4リバウンド3アシスト3スティールと攻守に渡って躍動する。翌日の2試合目では14得点7リバウンド2アシスト3スティールと、さらなる大暴れでENEOSのシーズン初勝利に大きく貢献した。また、富士通の1試合目は無得点に終わったが、翌日の試合では9得点3アシスト4スティールを記録。スピードに加え、相手ディフェンスのわずかな穴をすり抜けていく滑らかなドライブと、オフバランスでレイアップを沈める決定力、守備におけるボールへの嗅覚の鋭さを発揮し大きなインパクトを与えている。

出場できない悔しさを成長の糧に「見ていて思うところはたくさんありました」

「試合の入りは自分たちのプレーができていましたが、第3クォーターの途中から得点が伸びなくなってしまいました。そして、相手にルーズボールやリバウンドなど細かいところをやられてしまったなと思います」

このように痛恨の連敗となった富士通との第2戦を振り返る星は、無得点に終わった前日から9得点とカムバックできた自身のパフォーマンスについても厳しい評価を下す。「自分の求められているものはドライブと、積極的にシュートを打って得点に絡んでいくことです。そこは昨日に比べたらちょっとできたと思いますが、大事なところでのシュートの確率やパスの精度など、上のレベルで戦っていくには全く足りていないです」

シーズン初の先発起用となった第2戦は34分の出場を果たし、その前の3試合でも20分以上のプレータイムと、今の星は完全に主力選手の一員となっている。高校時代は千葉の名門である昭和学院で活躍していたが、アンダー世代の代表経験はなく、それを考えると高卒4年目にして強豪のENEOSでローテーション入りは順調なステップアップとも言える。だが、彼女にそういった意識はなく、試合に出るチャンスをずっと切望していた。「去年は全く出ていなかったですが、ベンチで見ていて思うところはたくさんありました。練習の時からスタートとベンチ組で分けられていましたし、その時から常に悔しさはありました」

チーム加入から4年目にして大きな飛躍のチャンスをつかんだ星は、「いざ試合に出た時はミスをしないようにというより、自分のプレーを思い切りやるだけです。その面はどんどん伸ばしていきたいです」と、持ち味である積極性を大事にしてコートに立っている。

ただ、思い切りプレーするだけではなく、時には周囲の状況を見るなど冷静な判断力も一流選手になるためには不可欠だ。この4試合、富士通の町田瑠唯、トヨタ自動車の山本麻衣と日本のトップガードたちと対峙したからこそ実感したことがある。「ただがむしゃらについていくだけでは、これから通用していかなくなる。相手の特徴をしっかりつかんだディフェンスやオフェンスをやらなければいけないと思いました」

経験豊富で勝ち方を知る岡本と林がフル稼働できるようになれば、ENEOSのチーム力は確実に向上していく。ただ、王座奪還を果たすには新たなプラスアルファが必要となり、その役割を担うのが星となってくる。質の高い練習を積み重ねていくことは基本だが、実戦でなければ得られないものも確かに存在する。星がこのまま試合で様々な経験を重ねていき、今より一回り二回りと大きくなってシーズン終盤を迎えることができるかどうかが、ENEOSの大きな命運を握っている。