宇都宮ブレックスはBリーグ初年度の2016-17シーズンに続き、昨シーズンのBリーグで優勝した。親会社を持たないプロクラブでありながら常にB1トップレベルの競争力を保ち、観客数やアリーナの熱気でも指折りで、2022年6月期の決算では売上14億8000万円で2期連続の黒字を計上してもいる。多くの面で他のクラブから手本となる存在だが、新B1のスタートを、さらにその先を見据えたクラブの舵取りは決して簡単ではない。代表取締役社長を務める藤本光正に、今のクラブ経営について語ってもらった。
「社長業の時間のかなりを新B1基準クリアに向けて割いています」
──新B1の審査の話が出ましたが、アリーナ要件についての現状はいかがでしょうか。
アリーナは新設の場合、2028年に利用開始できることを示さなければいけません。何とかその2028年までに実現するために動いています。いろんなところが絡む話ですので、正直細かいところまでお伝えできませんが、私の社長業の時間のかなりを新B1基準クリアに向けて割いています。「バスケ界をメジャーにする」と公言しておいて、ブレックスが新B1に入れないようなことが起きないよう、決意と覚悟を持ってやっています。
──アリーナの問題はあるにせよ、初年度に続きBリーグ優勝を成し遂げました。『資金力の勝負』になりつつあるBリーグで、大企業のバックアップがないブレックスが強いチームであり続けることには大きな意味があると思います。ファンは熱心で、ホームアリーナの雰囲気もすごく良いですが、この強みの秘訣はどこにあると思いますか?
一つはクラブ立ち上げの段階から、『ブレイクスルー』を重視しようと決めて組織をスタートさせたことです。高い目標を掲げて毎年走っているんですけど、目標が高ければ必ず高い壁にぶち当たります。壁が高いからあきらめるのではなく、簡単な方法に逃げるのでもなく、あきらめずにブレイクスルーする方法を探るのがブレックスです。常に自分たちに高い目標を課すことで成長し続ける、そういうサイクルができていると思います。
「生活の一部に溶け込んで文化になる状態を目指したい」
──ブレックスというチーム名自体が『ブレイクスルー』からの造語ですよね。
そうです。「常識を疑って行動を起こそう」と創立以来ずっと言っていますが、それでブレイクスルーできたことはいろいろあります。例えば田臥勇太選手が来たことも、ブレイクスルーの行動に基づいた結果です。田臥選手はNBAへ挑戦中なので「日本には戻って来ない」と言われていましたが、その常識を疑ってアメリカまで行って口説いたことで結果が出ました。
『ブレイクスルー』を掲げ、その価値観をビジネス面でもチーム作りの面でも大切にする。これをチーム創設からずっと続けているので、DNAみたいになっていますね。もちろん失敗で終わることもあるし、失敗が大半かもしれないですけど、失敗しないと学べないこともたくさんあります。だからこそ行動を起こすことが重要で、そのメンタリティを組織として持ち続けてきました。
昨シーズンは優勝できて、決算としても過去最高の売上となったので、普通なら「同じことをやろう」と思うかもしれませんが、そうではなく、さらにもう一つ高い目標を掲げて、それをどう乗り越えるかを考えていきます。
──上を目指してブレイクスルーを続けた結果としての、ブレックスの最終的な理想像はどんなものですか?
私のライフワークにも繋がる部分ですが、バスケをメジャースポーツにしていくために、宇都宮という街にバスケットボールを文化として根付かせる役割を果たしていきたいと考えています。メジャーになったか、お茶の間に浸透したかと言えば、まだそうではありません。生活の一部になって初めて文化に、メジャーになったと言えます。まずは栃木県の一つの自治体にはなりますけど、そこでバスケが中心になる、生活の一部に溶け込んで文化になる状態を目指したいです。
そうなるとブレックスを見る人が元気になって、バスケを通じて地域が元気になる、経済的にも活性化できます。ブレックスが大きくなることが目的ではなく、大きくなることによって地域とか応援してくれる人とか社会が元気になっていくのが最終ゴールだと思います。そこを見据えると、まず自分たちが大きくならないといけない。まずは自分たちが地域にとってなくてはならない存在になり、その上で地域をもっと盛り上げ、元気にしたいです。
「自分たちで小さなキャパシティを決めたくない」
──実際に目に見える形として「宇都宮でバスケが文化になった」と言えるものは何になるでしょうか?
宇都宮が「餃子の街」と言われるのと同じように「バスケの街」と言われるようになるだとか、小中学生が学校に行って最初にする話題がブレックスの昨日の試合だったりとか。私がアメリカに留学した時がそうだったんですよ。「コービーのダブルクラッチ、やばくない?」とか「アイバーソンのクロスオーバー、見た?」みたいな話が最初に出てくる、話題の中心になるんですよね。社会人の方でも会社でブレックスの試合結果が話題になるとか、次の試合の予想をしたりだとか。業界自体まだまだ大きくならないといけないと思います。そのためにも、やはり「試合」という一番の商品を届ける舞台であるアリーナという環境要素は本当に大事ですね。
──高い目標を掲げてブレイクスルーすべく、藤本社長の考える理想の新アリーナはどんなものですか?
いろんな要素がありますね。1つ目は「エンターテインメント性」。アリーナに一歩足を踏み入れただけで、高揚感やワクワク感を得られることや、ライブやフェスのような迫力のある音響、照明、映像が体感できることなど、このアリーナでしか感じることのできないエンターテインメント性の高さは最も重要な要素です。
2つ目は「多様性」。熱心に応援に集中したいという方々のニーズはもちろんのこと、よりライトな層、例えばレストランや飲みに行く感覚で、くつろぎながら食事やお酒を楽しむことも同時にしたい方々のニーズも満たせるフード提供機能やカウンター席、BOX席があったり、なかなか地元では味わえないようなVIP体験やビジネス交流の場を提供できるスイートが備わっていたり……。このように多様なニーズに応えることができ、いろんな層の方々みんなが共存できるアリーナが理想だと思います。バスケファン以外の方も楽しめるようなアリーナになれば、来場者も自然と増えていき、結果的にバスケの裾野も広がります。
3つ目は「地域活性化への起爆剤」。アリーナがあれば、大型コンサートやショー、フィギュアスケート、格闘技など、今までは呼べなかった様々なエンタテインメントコンテンツを誘致できます。これまで都心に行かないと触れることのできなかった豊かなコンテンツが自分の街にやってくるとなれば、心理的側面として地域住民の地元に対する想いや愛着にも繋がります。また経済的側面として、仮に年間100万人がアリーナに来場すれば、周辺での飲食、宿泊などで大きな経済効果が生まれます。海外事例ですが、宇都宮と同じ50万人都市のサクラメントではアリーナが中心街に新設されたことで、廃業していたモールが復活したり、ホテルやマンションが新たに建って若い人が戻ってきたりと、衰退していた街が復活して、数百億円規模の経済効果が生まれたそうです。
アリーナというとバスケ目線の効果を語ることが多いですが、実はそれ以上に地域経済の活性化、住民の生活の質や豊かさの向上、街のブランド・魅力の向上など、決してバスケだけのためではないということが言え ると思いますし、それができてはじめて理想のアリーナと言えると思います。
最後にやはり、バスケをする子どもたちが「将来あのアリーナでプレーしてみたい!」とあこがれや夢を抱けるような場所にしたいですね!
──2028年の利用開始と考えると、あと6年あります。
時間がありそうでありません。民間だけで成り立たせるのはなかなか難しいですが、資金調達計画や事業計画を立てて、2024年にはリーグに提出しなければなりません。情報統制の観点から、水面下の動きを対外的に公表できず申し訳ないのですが、何としてでも実現すべく動いていますので、応援していただければと思います。