ヨキッチとハリスに続く『第3の男』マレーが主役に
8勝1敗と開幕から好調のナゲッツが強豪セルティックスをホームに迎えた対戦は、お互いのディフェンス力が注目されていました。
昨シーズンから続く安定したディフェンス力でリーグ最少失点のセルティックスの中心はアル・ホーフォード、リーグ4位の失点と今シーズン突如としてディフェンスが改善したナゲッツの中心はポール・ミルサップ。ホークスでチームメートだった2人に共通する特徴は、リバウンドやブロックといったスタッツに現れるディフェンス力ではなく、ガード相手でも守れてしまうスピードや広い範囲をカバーする優れた読みとポジショニングです。豪快なブロックは少なくても、イージーシュートを減らし少しでも難しいシュートに追い込んで落とさせ、それぞれリーグ4位と6位のチームリバウンドで守り切っています。
そんな両チームのビッグマンによる目立ちにくいディフェンス面の貢献により、簡単にはシュートが決まらないと予想された試合でしたが、お互いのチームのポイントガードが高いシュート力で打ち破っていくことになりました。
開幕からオフェンスが奮わなかったセルティックスは、ここ数試合はオフェンスを少し変更し、それまでチームプレーに徹していたカイリー・アービングが時に『ワガママ』に打つようになり個人得点を増やしています。フリーでなくても自分が決まると判断すれば突然の3ポイントシュートを放つ独りよがりともとれるプレーが混ざるようになったのですが、それを決めるからこそのオールスター。予期せぬシュートが混ざり、しかも決まるためディフェンスは守りにくくなり、チームオフェンス全体がスムーズになってきています。
この試合も序盤からアービングがそのシュート力を遺憾なく発揮すると、ナゲッツのディフェンスはアービングへの警戒を強めるのですが、すると今度はフリーになったジェイレン・ブラウンやジェイソン・テイタムが楽にシュートを決めていく展開になり、セルティックスが第1クォーターで15点のリードを奪います。
万能型センターのニコラ・ヨキッチとエーススコアラーのゲーリー・ハリスを中心としたナゲッツで『第3の男』になっているジャマール・マレーもまた高いシュート能力が武器のポイントガードです。エースであるアービングと違い、周囲が警戒される中で自分のマークが薄いと判断すると強気に勝負していくのがマレーの良さ。ヨキッチとハリスへのマークが強くなかなかシュートチャンスが生まれないと判断すると、積極的に自分で打っていき、第1クォーターはチーム19点のうち14点を稼ぎました。第2クォーターにもその勢いは衰えず9点を奪うと、そこにハリスも10点で続いたことで、ナゲッツが追いついて前半が終わります。
第3クォーターになってマレーの勢いが止まります。ハードに守っていくセルティックスのディフェンスに自由を奪われてしまいアウトサイドを封じられ、ドライブしてもシュートを打たせてもらえません。一方のアービングは簡単に抜いてレイアップを決めれば、高いブロックを問題にせず難しいフェイダウェイシュートも決めていきます。
差が出たのは両者がベンチに下がってから。アービングがいなくなるとオフェンスの組み立てが悪くなったセルティックスに対し、マレーがいなくてもあまり関係なかったナゲッツが速攻を連発し、11-2のランで締めて逆転して第4クォーターを迎えます。
追いつきたいセルティックスが先にアービングを戻すと、厳しいシュートチェックがありながら簡単に3ポイントシュートを決めて残り9分で1点差にします。それでも、ここから再加速したマレーのショータイムが始まりました。
すでにキャリアハイを更新する得点で疲労も溜まったのか、肩で息をしているような様子でありながら、3ポイントシュートを連続して決めてリードを広げ、アイソレーションを仕掛ければブロックをかわしながらレイアップをねじ込んで試合を決めていきます。
それまで簡単にパスをさばいては何度も動き直し、リターンパスをもらってアウトサイドから打っていたマレーが、終盤になって個人技で仕掛けていくことでディフェンスの読みを外していったと言えます。チームが取った最後の24点のうち19点がマレーの得点。控えのポイントガードのモンテ・モリスを起用し、マレーに得点させることを徹底させた策も効きました。
最後の9分間でアービングが打ったシュートは、どちらもアーリーオフェンスから打った2つのみ。ナゲッツは難しいシュートを難なく決めてくるアービングを嫌がり、他の選手に打たれてもよいとばかりにダブルチームを仕掛けて打たせませんでした。チームとしては悪いオフェンスではなかったものの、終盤に得点ラッシュしてきたマレーを上回るにはアービングの個人プレーがもっと必要だったのかもしれません。
フィールドゴール成功率63%で48点を奪ったマレーとフィールドゴール成功率77%で31点を奪ったアービング。高いシュート力でチームを牽引した2人は、オフェンスの起点になるよりも自ら得点するタイプで、ディフェンスがちょっと苦手という共通点があります。しかし得点方法は異なり、自分で切り崩してチャンスを作るアービングに対し、連続するパス交換の中で生まれたシュートチャンスで打っていくのがマレーであり、この試合は終盤になって味方に託したアービングと、味方に託されたマレーという通常とは逆の役割を果たすことになりました。
ショットチャートをみると成功したシュートが右サイドに偏っていたアービングと左サイドに偏っていたマレーという差も、似ているようで似ていない2人の違いを際立たせてくれました。ディフェンスが注目されるチーム同士の試合は、2人のポイントガードが難しいシュートを次々に決め、お互いのディフェンスを無効化していく面白い試合となりました。