「僕のところでは1本もやらせないように」
富山グラウジーズは前節のシーホース三河戦で連敗を喫し、通算成績を7勝5敗とした。開幕からここまで三河には3戦全敗、また栃木ブレックスにも連敗しており、優勝を狙うチームからどう勝ち星を挙げるかが課題となっている。
今オフにチーム刷新に踏み切り、戦力を整えた富山だが、プレーオフ進出、さらにその上を目指すには、三河のようなチームにも勝つ戦い方が求められる。具体的には、優れた帰化選手もしくは日本人ビッグマンを擁して、オン・ザ・コートルール上で優位に立つチームとどう戦うかだ。4日に完敗を喫したあと、富山の指揮官ドナルド・ベックはこのルールが『持たざる者』に不公平だと率直な意見を語ったが、今シーズンはそれが理不尽でも対応していくしかない。
桜木ジェイアール、アイザック・バッツとジェームズ・サザランドのオン3は確かに強力だが、富山が互角に渡り合った時間帯もあった。そこで奮闘したのが船生誠也だ。今節に初めてベンチスタートに回った船生に出番がやって来たのは第1クォーター途中、三河がオン3にした直後だった。190cm85kgの船生が3番ポジションでマッチアップするのは203cm100kgのサザランド。サイズでは劣るが、アグレッシブに守ることで自由を与えなかった。
「1対1ではやられるからボールを持たれる前に頑張って、僕の持ち味のスティールも狙って何本か引っ掛けました。あとはチームメートがヘルプに来てくれるので、なるべく視界を狭め、ベースライン側に行かれてもいいという付き方は徹底できたつもりです」と船生は振り返る。
ヘルプを待つだけでなく、自分も積極的にヘルプに行った。サザランドとマッチアップしつつも、三河の攻めの起点となる桜木ジェイアールのポストプレーに対して果敢に飛び込みスティールを狙い、桜木のリズムを乱した。「僕もアイシンにいたのでジェイ(桜木)のやりたいことはある程度分かっています。(鈴木)貴美一さんのやり方も分かっていて、弱みを見せたら徹底的に突かれるので、僕のところでは1本もやらせないようにファイトしました」
「負けたにしても徹底したことには意義がある」
この試合の船生は16得点3リバウンド1アシスト1スティール2ブロック。スタッツでは得点が目立つが、実際にはその何倍もディフェンスでの奮闘が目に付いた。「僕もそう思っています。得点は最後に3ポイントシュートがポンポンと入っただけ。自分ではオフェンスよりもディフェンスを頑張ったつもりだし、ディフェンスについては納得しているところもあります。自分がちょっと引っ掛けたことでパスが一つ遅れる、誰かが取ってくれるとか、そういうスタッツに出ない細かい働きを自分がやらなきゃいけないといけないので、それはできたと思います」
最後は離されたが、第3クォーター終盤まではほとんどの時間帯でリードを許しながらも粘り強く食らい付いた試合。ここから収穫を得て次に生かさなければ意味がない。ただ、同じ中地区の三河に早くも3敗を喫した事実は、重く圧し掛かる。
「前の2試合も終始リードされましたが、今回はとびきり離されたわけではないし、オン3の時間帯に一気に点差を付けられたわけでもありません。でも、そこは試合中は無我夢中で分かりませんが、こうやって振り返ると三河のヘッドコーチの上手さだと思います。開幕5連敗の時と比べてアジャストできているというか、サザランドも三河っぽいバスケットをやるようになっていて、やりたい試合運びをされている、という感じはやっぱりあります」
「相性の悪さはあって、帰化選手がいるところにサザランドが出てくると難しいところはあります。ウチはその対策を前回と変えたのですが、またやられてしまったので。でも、同じやり方じゃなくて違うやり方を試すこと、負けたにしても徹底したことには意義があると思っています。ただコートでプレーするのは僕たちなので、コート内でどうするのかベストか、チーム全員が納得しつつアジャストできるように変わっていかないといけないです」
「優勝だって狙えるメンバーが揃ったと思っています」
アイシン時代の三河で1シーズン、名古屋ダイヤモンドドルフィンズで2シーズン。この夏に船生が環境を変えたのは、プロチームの環境に自分を置きたいと考えたからだ。「アイシンと三菱、どちらも愛知県の企業チームでプレーしてきて、今の三河は今日のアリーナを見てもすごく頑張っていますが、僕がいた時はこんなんじゃなかったし、名古屋Dも頑張っているけど、まだ元々からプロチームとは差があります。富山はファンが多くて熱気もあって、街を歩いていて声を掛けられる頻度が違います。そういう環境になればプロとしての責任もより持たないといけないし、たくさんの応援を感じながらプレーできます。若いうちにそういう環境を経験したいという思いがありました」
それが自身の成長に繋がると考えて、船生は富山へとやって来た。もちろん、環境を変えるのは簡単ではない。「名古屋Dの時も1年目は結構苦しみました。特に外国人コーチだと、僕は英語が得意じゃないので、どうしてもニュアンスが変わってしまう場合もあります。ディフェンスやリバウンドに絶対的に厳しいコーチなので、うまく行かない時こそそこを徹底しよう、というチームでもあります。そこは僕の持ち味を、オフェンスでできなくてもディフェンスで出せるように開幕から心掛けています」
Bリーグになって2年連続で残留プレーオフに回ったチームを変える。それが船生の野望だ。「富山に来てチャンピオンシップに出て、そこから優勝を狙うつもりで僕は来ています。ここまで中地区の首位にいられたんですけど、チームとしての完成度はまだまだ低いし、僕自身のレベルアップもできていません。チームに対して個々でフィットしない部分は自ずと個人でやりますが、あとはチーム全体の完成度をシーズンを通して高めていくことです」
簡単ではないが、本気で実現するつもりだからこそ、船生はここにやって来た。「それができればチャンピオンシップ進出はもちろん、優勝だって狙えるメンバーが揃ったと僕は思っています。そうなってほしいし、そうするためにはまず自分が頑張らないといけないと思っています」