金丸晃輔

文=鈴木健一郎 写真=バスケット・カウント編集部、B.LEAGUE

「僕のシュートは一人で生まれるものじゃない」

2日続けて3ポイントシュート8本成功の大爆発。富山グラウジーズの選手たちは試合後、「打たれたら全部入ってしまう」と、シーホース三河の金丸晃輔と向き合う難しさを口々に語った。

昨日の第2戦、富山が前日に31得点を奪った金丸へのマークを厳しくしたのは当然のこと。それでも金丸は第1クォーターから3ポイントシュート2本を含む12得点を挙げて、立ち上がりの重い展開の中でオフェンスを引っ張る。これを受けて富山は金丸にパスを入れること自体を許さないハードなディフェンスを徹底し、第2クォーターはミドルシュート1本とテクニカルファウルによるフリースロー1本の3得点と抑えている。だが、桜木ジェイアールを含むビッグラインナップも脅威であり、金丸ばかりに注意を割いてはいられない。第3クォーター、金丸は再び得点を量産。5本の3ポイントシュートをすべて沈める15得点で、試合の趨勢を決めてしまった。

打てば入る快感に、シーホース三河のファンは酔いしれた。いわゆる『ゾーン』に入った状態だったが、試合を終えた金丸は「そんなことないです。ただ空いたら打つ感じですね」と至って落ち着いたもの。「僕のシュートは一人で生まれるものじゃないので。他のインサイドの選手、得点能力がいる選手がいることでマークが分散されて、僕にチャンスが回ってきました」

ただ、この言葉にピンと来ない部分もある。明らかにチームのフォーメーションではなく、流れの中でパスを受け、富山のディフェンスを崩せていないにもかかわらず『ねじ込んだ』シュートもたくさんあった。むしろ、富山が金丸を見落としていたシーンは半分もない印象だ。だからこそ「打たれたら全部入ってしまう」という富山側の嘆きこそ腑に落ちる。

「どうですかね。がっつりフォーメーションではないプレーでのシュートもありますけど、いずれにしても僕は常にスクリーンを使ってどうやってノーマークになるか、ガードの視線を意識していて。僕を見たタイミングでスクリーンを使って飛び出す、そのチャンスをうかがっています。それがうまく形になったと思うし、僕が乗るきっかけになったのもチームで作られた3ポイントシュートのシチュエーションですから」と、やはり金丸はチームオフェンスの成果であることを強調した。

金丸晃輔

タフショットを決める秘訣「あれはフリーで打つ感覚」

では、第1クォーター最後の得点はどうだろうか。残り17秒でのオフェンス、左サイドでポストアップした金丸は、水戸健史に対してステップバックで距離を取り、フェイダウェイ・ジャンプシュートを沈めた。あれはチームでのオフェンスではなく、金丸個人でもぎ取った得点だろう。パスコースは限定されており、ドライブに行けばジョシュア・スミスがヘルプに行く態勢を取っていた。戻して組み立て直すには時間が足りない。そんなシチュエーションから得点を生み出したが、金丸からすれば『打たされた』シュートではなく、自分のリズムで打ち切ったものだ。

「他の選手だったら、あれは多分打たないでしょうね。でも僕は打ちます」と金丸は笑う。「自分とディフェンスの間合いさえ作ってしまえばシュートは打てるんですよ。その間合いを作るにはどうしたらいいのか。ステップバックしてフェイダウェイ気味に打つのも、自分のリズムでやれているので。僕からすれば『あれってすごいシュートですか?』という感覚です。自分で空間を作って打ったシュートだし、別に慌てて打ったわけでもない。自分のシュートが打てているので、もしあれが外れていても全く気にならないです」

それでも金丸には「タフショットをねじ込む」イメージが強い。それは他の選手であれば打つのを躊躇するシチュエーションでも自分のシュートを打ち切ることができるからだろう。「これは価値観の違いかもしれませんが、僕はタフショットとは思っていなくて、普通に自分のシュートを打っているだけなんです。どうして目の前にディフェンスがいるのに打つんだ、なんでそれで入るんだ、と思うかもしれないですけど、僕自身はこのあたり(顔の前の30cmぐらいの距離を示しながら)に相手の手が来ていないのであればノーマークと一緒なので。そこに来てたらさすがに打てないですけど、そうじゃなければフリーで打っている感覚です」

金丸晃輔

「次にまた悪い時が来る、成長するのはその時」

今シーズンの三河は開幕5連敗を喫したが、そこから続く連勝は昨日で7へと伸びている。開幕当初はチームオフェンスが噛み合わず、金丸としても歯痒い試合が続いたが、その頃と今とではチームのパフォーマンスは明確に異なる。「あの時はインサイドの比率が高くて、重たいバスケになってリズムも良くありませんでした。もっとアウトサイドの選手が積極的になる必要がある、という意見がチーム内で出たことで変わり始めました。インサイドとアウトサイド、どっちかは空くんです。インサイドを攻められれば僕のマークやヘルプには行けません。そうなると僕が打てるチャンスは増えるし、乗るきっかけにもなります」

もう一つ、連敗が続いていた時期に良かったのはチームとしてのメンタルの強さを再確認できたことだ。「逆転されたとしても、良いプレーができなかったとしても、下を向く選手がいませんでした。次の準備をしよう、取り返そうという姿勢は常にあったことは大きいですよね」

エースの比江島慎が抜けて迎える今シーズン、「ある程度の苦戦は予想していました。さすがに5連敗するとは思っていなかったですけど」と金丸は苦笑い。「これまでは比江島選手も橋本(竜馬)選手もずっと試合に出ていて、控えの選手はプレータイムが少なかったので、そこでいきなりうまく行くとは思っていませんでした。でも、それは試合を重ねることで良くなっていくものです。負けを経験して何がダメかというのを個人で考えたからこうやって連勝を伸ばせています。誰かが抜けたからといってダメになるようじゃ、チームとしてダメなので」

「ただ、まだ難しい部分はあります。チームとしてまだ作っている段階で、手応えを感じられるのはもっと先です。今は連勝していますが、チームには良い時も悪い時もあって、次にまた必ず悪い時が来ます。でも、むしろチームが成長するのはその時だと思っています。悪い時に何をするか、どう踏ん張るか。そこでよりタフになって成長したいです」

チームは7連勝、金丸自身は2日連続の30点超え。それでも金丸に浮かれた部分は全くない。「そういう気分はないですね。逆に、大爆発って僕はあまり好きじゃないんです。次に絶対悪い時が来る、それはこれまで何度も経験していますから。若い頃は活躍すれば浮かれてましたけど、だんだん『ああ、またこうだな』って感じです(笑)」

金丸には驕りも油断もなく、ただ淡々と上を見据える向上心とずば抜けた得点能力がある。乗った時の彼は、やはり対戦相手にとって理不尽なほどの凄みを見せる『半端ない』スコアラーだ。