移籍1年目となった昨シーズンから攻守にわたって躍動した前田怜緒。しかし、周囲の印象とは裏腹に、本人にとっては様々な後悔が残るシーズンとなったという。長年の課題である「メンタルの浮き沈み」を克服し、チームをさらなる高みへと導ける存在になれるか。最大の挑戦が始まる。
「みんなを励ますような気配りができるようになりたい」
――チームの状態はいかがですか?
プレシーズンマッチは1試合しかできていませんが、昨年からそれほどメンバーが変わらないので、チームとして少し余裕を持ってスタートできていると思います。僕自身もケガもなく元気にプレーできています。
――昨シーズンは移籍1年目ながら先発起用され、主要スタッツも過去2シーズンと比べて右肩上がりでした。どのように振り返りますか?
加入当初は、ヘッドコーチの(勝久)マイケルさんの求めるチームスタイルや、信州が大事にしているカルチャーに慣れることが大変で、自分のことに精いっぱいでした。シーズンを通して上手くいかないことが多くて、メンタルとプレーの両面で課題が残りました。終わってみれば「もっとやれたかな」という気持ちのほうが大きいです。
たくさん試合に出させてもらえましたが、それに伴って、これまで経験していなかったようなこともいくつかありました。例えば、調子良くプレーできているときは良いけど、ダメだったときに次のプレーに切り替えることができず、立て直しがきかなかったり……。僕のそういったところがチームに悪い形で影響していた点は、すごくダメだったと思います。
――学生時代を含め、メンタル面は課題だったのですか?
いやぁ、バスケを始めてからずっとそうですね。ダメな時にうまく自分と向き合えない。今シーズンはそういったメンタル面の成長を一つの課題としているので、チームの合言葉である『日々成長』という言葉を胸にメンタル面を克服したいです。
試合だけでなく練習から、チームメートの一人ひとりと積極的にコミュニケーションを取ることが大切だと思っています。調子が良くない時でも孤立せず、逆にみんなを励ますような気配りができるようになりたいです。
――オフシーズンに勝久ヘッドコーチと面談などはしましたか?
はい。昨シーズンの反省として、個人的なフィードバックとアドバイスをいただきました。プレー面ではディフェンス。日本人エースやハンドラー、自分より大きい外国籍選手を守る中でファウルトラブルになることも多いので、そこは我慢しなければいけないと。あとはメンタルのこともけっこう言われましたね。
熊谷航さん、岡田侑大さん、僕が加入し、良い影響を与えてくれたけど、悪い影響を与えてしまった部分もあると。「ダメな時にどう立て直すかが大事だよ」と言われました。
「良い意味で何でもできるとは思います」
――1シーズンを戦い、『信州のカルチャー』をどのように理解していますか?
マイケルヘッドコーチは、偏りなく全員を尊重してくれるカルチャーを作っていると思います。マイケルさんと長くプレーし、それをよくわかっているマックさん(アンソニー・マクヘンリー)やウェインさん(ウェイン・マーシャル)は、練習の中から僕たちのような若い選手たちが遠慮せず、気持ち良くプレーさせようという環境を献身的に作ってくれるんです。でも僕は、今までそういう経験があまりなかったので遠慮してしまって。みんなが僕の武器である走力やディフェンス、得点力を分かってくれていて「もっと積極的にプレーしていいんだ」と言ってくれていたにもかかわらず、シーズンの前半戦は遠慮しすぎたところがありましたね。
マックもウェインさんもベテランで、何年も信州にいるので。そこは最初はちょっと怖いじゃないですか(苦笑)。最初の1カ月くらいはあまりコミュニケーションは取れなかったですね。
――そういった状況から抜け出すターニングポイントとなった試合はありますか?
10月の大阪エヴェッサ戦でしたね。大阪と2試合やって、中2日でレバンガ北海道とゲームして、また中2日で天皇杯のバンビシャス奈良戦というハードスケジュールだったんですけど、その時期にやっと信州のプレースタイルに慣れてきて、自分のしたいことをチームメートに直接発言できるようになりました。そして、それを聞いた仲間は嫌な顔をせずに遂行してくれたので、本当にこのチームは遂行力が高いなと思いました。
――前田選手はオールラウンダーですが、特に自信を持っているプレーは何ですか?
ディフェンスの部分で言ったら、誰でも守れるというところですかね。オフェンスに関してはガードから3番ポジションまでやりますけど、バランスを取ったり、得点を取ったり、良い意味で何でもできるとは思います。ただ、悪い意味で言うと何か特化しているところがないので……。うーん、走れることじゃないですかね(苦笑)。
――白鴎大の網野友雄監督が、前田選手が4年次のインカレの際に「プロとして活躍するためにも、これからは何か武器を見つけてほしい」と話されていました。まだ探し中のようですね。
3ポイントシュートはずっと課題として取り組んでいることではあります。また、Bリーグはピック&ロールが主流なので、それを上手く使うことは今後すごく大事になるかなと思っています。
滋賀(レイクス)ではシュート以外でほぼボールを触っていませんでしたが、高校や大学ではところどころでガードのような役割もやっていました。それをマイケルさんは知っていたので「怜緒ならできるだろ?」と機会を与えてくれます。でも熊谷さんや生原秀将さんに比べてまだまだ劣るところはあるので、あの人たちを見て勉強したいなと思います。
――新しい役割が増えて大変ですね。
いえ、むしろ「もっとやりたい」という気持ちのほうが強いです。僕くらいの身長でガードをやっている選手は他のチームにもいますし。宇都宮(ブレックス)の鵤誠司さんとか比江島慎さんとか、彼らのようになりたい気持ちはあるので、もっとできることを表現していきたいです。