昨シーズン、初年度以来のBリーグ王者に輝いた宇都宮ブレックスだが、オフになるとチャンピオンシップで大暴れだったチェイス・フィーラーが移籍した。シーズン終盤にかけてどんどんチームにフィットしていったフィーラーが去ったのは痛かったが、それを上回る大きなインパクトを与えたのがジュリアン・マブンガの加入だった。卓越したオフェンススキルで長らくBリーグを代表する選手の一人として活躍しているマブンガだが、一方でこれまで所属チームで絶対的なエースを務めてきており、宇都宮で歯車の一つとして他の選手とうまく共存できるのか。その点も含め、今回の移籍にかける思いを聞いた。
絶対的なエースではなく「ブレックスでの僕は一つのピースに過ぎないです」
――まず、宇都宮の加入はリーグ全体に大きな驚きを与えました。新天地として宇都宮を選んだ理由を教えてください。
勝利をつかむためにベストなチームだと思うからです。そして、ブレックスからオファーが来たことは、自分にとって驚きではなかったです。僕はグッドプレーヤーで、どのチームでもプレーできると思っているからです。ブレックスはリーグの中でも最もチームバスケットを重視するチームの一つであり、そのチームが僕と契約したことに驚いた人もいるでしょう。ただ、僕はチームバスケットに適応できる選手です。だからこそ、これまで多くのアシストを記録してきました。
――これまではマブンガ選手を軸としたオフェンス重視のスタイルのチームでプレーする機会が多かったと思います。一方、ブレックスはリーグ屈指の堅守が持ち味です。そこへのアジャストは問題ないですか。
特に心配はしていないです。これまでは1試合35分、40分とプレーし、オフェンスは自分が中心となっていました。ただ、ブレックスでそうなると思わないし、そういう役割を担いたい気持ちはないです。ブレックスでの僕は一つのピースに過ぎないです。だからこそ、いろいろなところで貢献できます。これまでの所属チームにおいて、自分は大きなピースだったと思います。ただ、同じジュリアン・マブンガですけど、ブレックスでは小さなピースです。
僕はもう32歳になります。長時間の出場を恋しくなることはないです。プレータイムをシェアして、出場時間が減ることはハッピーです。40得点やトリブル・ダブルとか、そういうことをまたやりたいと懐かしむことはないです。そういった個人の記録はすでに成し遂げましたし、僕がそういう力を持っていることを皆さんは分かってくれています。これから新しい章の始まりです。
――これまで宇都宮にはどんなイメージを持っていて、実際に加入してみて今はどんな印象ですか。
ブレックスについて持っていたイメージは、軍隊のような厳格なものでした。ただ、実際に入ってみると、とても落ち着いていてリラックスできる雰囲気です。みんなプロフェッショナルで、それぞれがハードワークをしていますが、コートを離れると冗談を言い合う明るいチームです。加入する前はチームの雰囲気にアジャストするのは大変だと思っていましたが、実際はすぐに溶け込むことができました。みんなが僕をすぐに受け入れてくれたので、ファミリーの一員として居心地が良いです。
――先ほど「自分は小さなピース」と言いましたが、役割について佐々宜央ヘッドコーチとどのように話していますか。
チームの求める役割にアジャストしていくだけです。ただ、僕は引き続きオールラウンドプレーヤーです。僕の役割については、とてもエキサイティングな計画があります。シーズンが始まれば、それをリーグ全体にお披露目します。
佐々ヘッドコーチはハイエナジーな人物です。彼は毎日、選手のワークアウトに付き合ってパスを出したり、スクリーンをしています。そして選手とよくコミュニケーションを取っています。彼のように情熱的でエナジーのあるコーチは、チームの士気を高めてくれます。僕たちは夏の間、何度か電話で話しをしていて1時間以上に及んだこともありました。バスケットボールのことだけでなく、夏をどう過ごすのか、リラックスの方法とかいろいろと話しました。彼はバスケットボールに限らず情熱的な人物です。
「ブレックスの連覇に貢献することで黄金時代の一部になりたいです」
――宇都宮のリーダーである田臥勇太選手の印象を教えてください。
彼からはいろいろと学べます。彼はレジェンドであり、ここまで長くプレーして、周囲から尊敬される存在であることには確かな理由があります。今でもシュートやワークアウトをしっかり行っていて、彼の継続性はこれまで自分が見たことのないものです。たとえコートの中で物凄いプレーをしていなくとも、チームの一員としての彼の物事へのアプローチ、準備の仕方、継続性を見ることで、なぜレジェンドと呼ばれているのかより分かりました。彼については尊敬しかないです。
――宇都宮のエースである比江島慎選手と、マブンガ選手がどのように共存していくのか。多くのファンが注目しています。
まず、彼はとても面白い人物です。もちろん彼のことを尊敬していますし、BリーグでNo.1の日本人選手だと思っています。昨シーズンのブレックスは、マコ(比江島)がエースで優勝しました。そこには僕はいないです。マコは僕がいないチームでファイナルMVPを受賞しています。僕がそこにアジャストしないといけない。ブレックスが僕にアジャストする必要はないです。
これまでのようにすべてのポゼッションで自分がピック&ロールを仕掛けるとは考えていないです。むしろ自分の計画では、これまでのキャリアで最もボールタッチの回数が少なくなると思っています。僕が目指すのは周りの選手たちを助ける動き、チームのファシリテーターとなることです。みんなを一つに繋げていくのが自分の役割になります。スクリーンをセットしたり、誰かのキックアウトをキャッチ&シュートで決めることを目指しています。このチームはマコだけでなく、(鵤)誠司、ナベ(渡邉裕規)、遠藤(祐亮)など選手層が厚い。リーグを代表する選手がたくさんいて、Bリーグにおけるハリウッドみたいな集団です。多くの選手が僕のようにシュートを決めたり、アタックしてクリエイトする仕事をできます。
正直に言うと、こういうふうに思ったのは自分のキャリアで初めてです。自分がどれだけ得点、アシストをするのか気にしないです。これまでの実績で、個人のスタッツについて証明する必要はないと思っています。もし、僕個人の実力について疑問を持つ人がいたら、これまでのスタッツを見てほしいです。1試合5得点に終わっても問題ないです。そうなることはないと思うけど、実際に起きても気にしないです。今はチャンピオンシップに行って優勝することしか考えていないです。
――あらためて優勝への思いを教えてください。
もちろん、これまでも良いキャリアを歩んできたと思っています。ただ、選手なら誰もが優勝を求めますし、チャンピオンシップで勝てずにがっかりしたことはあります。今は「ジュリアンは日本バスケ界における(リーグ優勝できていない)チャールズ・バークリー、クリス・ポールだね」と言う人もいるかもしれないけど、それはこれから変えられます。
僕は32歳でまだキャリアの終わりまで時間はありますが、今、勝ちたいです。例えば37歳になった時、「引退までに優勝したい」と言いたくはない。ブレックスの連覇に貢献することで黄金時代の一部になりたいです。
――最後にファンへのメッセージをお願いします。
僕がブレックスのシステムにうまく合わせることができるのか疑問の声があることは分かっていますが、アジャストはよくできていると思います。僕がブレックスでどんなプレーをするのか興味を持っているでしょうし、期待していてください。
BREX NATIONの皆さんには、まずはこれまで皆さんの前でプレーするのは本当にタフだったと伝えたいです。ブレックスアリーナは最も勝つのが困難な場所であり、京都にいた時、ブレックスアリーナで勝てたことは僕のキャリアの中で最もハッピーな勝利の一つでした。ここで勝つのはどれだけタフなことか分かっています。皆さんがサポートするチームに加わることができて光栄です。ハードワークをして、皆さんをがっかりさせないことを約束します。このチームでプレーできることを楽しみにしています。