水戸健史

水戸健史はbjリーグ時代の2008年にドラフト指名を受けて富山グラウジーズに入団し、地元クラブ一筋でプロ15年目の開幕を迎えようとしている。地元出身で在籍年数が最も長く、最年長の選手でありながら本人曰く「あまり口数が多いわけじゃないし、チームを引っ張っていくタイプではない」だが、今年は少し雰囲気が違う。チームを第一に考え、チームに必要なことをやる彼は、37歳で迎える今シーズンになって自分を変え、チームを変えようとしている。

「常に一歩引いた状態でチーム全体を見ようとしている」

──オフはどのように過ごしましたか?

今年のオフはトレーニングもしっかりしていたので、あまり休んだって感じではないですね。歳とともに一回休むと戻すのに時間がかかってしまうようになって、なるべく休まないように身体を動かし続けていました。

──まずは昨シーズンの振り返りからお願いします。チームは24勝35敗と厳しい結果となりました。

主力だった選手、若手がごっそり抜けて、チームを作り直さないといけない状態で開幕を迎えて、その開幕で8連敗というスタートでした。そこからチームが少しずつ良くなって、まとまってきたところでコロナで選手が抜けたりケガ人が出たり、ジュリアン(マブンガ)も万全ではプレーできない時期が結構あったりして、ここからというタイミングでメンバーが揃わない、ツキのないシーズンだったという感じです。

僕自身もスタートがあまり良くなくて、それはいつも最初は様子見しちゃうクセというか、周りの選手がどうプレーするのかを見てそれに合わせようとするので出遅れた感があります。シーズンが進んでいくにつれて良くなったんですけど、チームの調子と上手くマッチしませんでした。ただ、個人としては鼻の骨折はあったんですけど特にプレーできない時期がなく過ごせたシーズンだったので、それは良かったと思います。

──自分のプレーで手応えを得られたのはどんな部分でしたか?

僕は常に一歩引いた状態でチーム全体を見ようとしているので、あまり自分が率先して何かっていうのはないんですけど、やっぱりディフェンス面でチームに刺激を入れることは昨シーズンに限らず意識していて、それはできたつもりです。一番年上のベテランである自分が前からプレッシャーをガンガン掛けてディフェンスすることで、他の選手にも良い刺激になればと思いながらいつもプレーしています。

オフェンスでは自分で点を取る意識はしていないですね。ディフェンスでとにかくチームに流れを持ってきたい、流れを作りたいです。僕自身がそんなに大きい選手じゃないけどチームには身体能力が高くて点を取れる選手はいっぱいいます。他の選手との差を出すにはどうするかと考えていって、このスタイルになりました。

水戸健史

「勝たなければ盛り上がらないんだと実感したシーズン」

──昨年のオフには前田悟選手や岡田侑大選手、今オフには宇都直輝選手やマブンガ選手がチームを離れました。一時期の盛り上がりが富山から失われつつあるようにも感じますが、水戸選手はどう受け止めていますか?

Bリーグが始まって最初の2シーズンは残留争いをしていて、その後にチャンピオンシップに一回出て、2019-20シーズンはコロナで中止になってしまいましたが、良い戦いができていました。そういう意味で昨シーズンはすごく期待されていたと思うんですけど、開幕から8連敗でチャンピオンシップ進出に全く絡むことができませんでした。正直、やはり勝たないと注目されないし、見に来てくれる方も減ってしまう。勝たなければ盛り上がらないんだと実感したシーズンでした。

勝てなくても熱心に応援してもらえる人気チームはバスケに限らず存在していて、そうなるために会社もチームも足並みを揃えて、もっと盛り上がりを作っていかなければいけないと感じています。ここは難しいところなんですけど、選手として「勝てなくても」と言ってしまう違和感はあって、自分は選手でありチームの一員なので、勝つためにどうプレーするかしか考えないんですけど、勝ち負けを別にしても応援されるチームになるのはどうしたらいいんだろう、そのことをもっと考えなきゃいけないな、と感じるオフでした。僕は地元出身で、このチームが勝てないから移籍するわけじゃないので、現状にはもどかしい思いがあります。

──残留争いはチームにとっては良くないことだとは思いますが、負けられないだけに盛り上がりますし、残留を勝ち取ればファンも達成感を得られます。そこからチャンピオンシップ進出へとチームが成長することで、さらに盛り上がりました。オールスターや代表戦も富山で行われて、あの時期の盛り上がりをキープするのは難しいですが、富山としては、そして水戸選手としてはチャレンジしていかないといけないことですね。

そうなんです。富山にはJリーグのカターレ富山があるんですが、最近すごく勢いがあると感じます。これを良い刺激にしてカターレ富山さんと一緒に盛り上げていかなきゃいけないし、僕たちもグラウジーズを応援してください、試合を見に来てくださいともっとアピールしなきゃいけない。正直、まだまだ足りないと思います。僕の周りにも試合を見に来たことのない方はたくさんいますし、小さい県ならなおさらもっともっと皆さんを巻き込んでいかなきゃいけない。そしてもちろん、僕たちは試合に勝つことで盛り上がりを作っていかなきゃいけないと思います。

水戸健史

「チームとして戦う部分では今までよりも絶対に上を行く」

──ただ、その状況で主力だったマブンガ選手や宇都選手が抜けています。今シーズンの富山はどう戦っていきますか?

僕らも負ける試合をするつもりはありません。宇都やジュリアンがいなくなった分、チームとしての結束を強めていきます。スター性のある選手がいなくなったと言われればそうかもしれませんが、僕たち一人ひとりが経験ある選手だったり才能のある若手だったりしますし、今シーズンはチームとして戦う部分では今までよりも絶対に上を行くと思っています。

これまでだとジュリアンに託してしまう、宇都に全部任せてしまう、という部分が時々あったかもしれません。でも今シーズンは2人がいなくなったことで一人ひとりがこれまでとは違う自覚を持ってプレーしなければいけないし、実際にそういう意識も感じられるので、チームとしての厚みは出せると思っています。

──それでは、今シーズンに注目すべき選手を水戸選手の目線で教えてもらえますか?

そうですね。まずは飴谷由毅、地元出身の23歳です。バスケットIQはまだ成長しなきゃいけないけど、とにかく身体能力がすごくてサイズもあります。ディフェンスはガンガン前からプレッシャーを掛けて相手のガードからしたらボール運びですごく苦労させられるはずです。彼のディフェンスには本当に期待できるので注目してほしいです。オフェンスで注目してほしいのは22歳の野﨑由之です。オフェンスの能力が高くて、特に3ポイントシュートがすごく得意なので、彼の得点能力の高さには期待したいです。

──ここまで練習をやってきて、今年のチームの感触はどうですか?

昨シーズンよりもディフェンスはかなり力を入れてやっています。オフェンスは昨シーズンから引き続いてジョシュア・スミスとブライス・ジョンソンがいるので、そこのインサイドを起点にまずは組み立てようと思っています。