トーマス・サトランスキー

足首のケガを抱えながらも14得点8リバウンド11アシストを記録

グループDで最後の決勝トーナメント進出の枠を争ったのはチェコ代表とイスラエル代表だった。イスラエルはフィンランド、オランダを相手に開幕2連勝を飾ったものの、その後に連敗。チェコは連敗スタートからフィンランドでも完敗し、開催国にもかかわらずグループ敗退の危機にあった。それでも最終戦、チェコはイスラエルを直接対決で破り、2勝3敗で並びながら決勝トーナメント進出を決めた。

試合はチェコがほとんどの時間帯でリードしてはいるが、イスラエルの粘りに手を焼く展開となった。最大19点のリードを奪ったものの第4クォーター開始直後には2点差にまで詰め寄られている。この第4クォーター最初の得点をステップバックの3ポイントシュートで決めたのはデニ・アブディヤ。ウィザーズで活躍するアブディヤと、2020年のNBAドラフトでセルティックスに指名されたヤン・マダー。21歳の2人を主力に据えるイスラエルは、粗削りではあるが勢いのあるチームだった。

しかし、こういう試合で勝つには成熟さが必要となる。カギとなったのは3ポイントシュートで、イスラエルは速い展開から次々と放ったものの30本中9本しか決められず、チェコは23本中13本成功、しかも試合を通じて波がなく56.5%の高確率で決めたことでリードを保った。

第4クォーター最初のプレーで1ポゼッション差とされてから、トーマス・サトランスキーがすぐに3ポイントシュートを決め返し、ここから3分間で13-0のランで突き放す。サトランスキーはこの間に3つのアシストも記録し、13得点のうち11得点に関与した。

サトランスキーは足首の故障を抱え、大会に参加できるかどうかも微妙だった。開幕前の会見で「プレータイムを制限して、足首の状態を見ながらプレーすることになる」と語っていたように、イスラエル戦の前までに2試合を欠場し、出場した2試合も17分、26分と出場時間は短かった。それでもグループリーグ敗退の危機となったこの試合では33分プレーし、14得点8リバウンド11アシストを記録。ベテランの堅実かつ頭脳的、そして力強いプレーが、若いイスラエルの勢いをはねのけた。

ホームの観客に後押しされたチェコが88-77でイスラエルを破り、グループ4位で決勝トーナメント進出を決めた。サトランスキーは試合後、「勝って決勝トーナメントに行けるのは素晴らしいけど、もっと良い順位を想定していたから複雑な気分だ」と語るも、ホスト国がグループリーグで敗退するわけにはいかなかっただけに「毎試合サポートしてくれたファンのために結果を出せて良かった」と安堵のコメントを残している。

面白いのは全員が同じ感想ではないことで、チェコのキャプテンを務めるヴォイテク・フルバンは「敵地で相手チームのファンに囲まれてプレーすることが多いけど、こんな観客の前で試合をするのは僕の代表キャリアで初めてのことだ。チェコのファンと一緒に戦い、こんな試合ができるとはね。本当に特別な、楽しい試合だったよ。いずれ自宅で酒でも飲みながらこの試合を見直すのが楽しみだ」と感動と喜びを語っている。

フルバンは続ける。「ベスト16に進むのは簡単なことではなかったけど、僕たちは成し遂げた。それはみんなで力を合わせたからで、僕らが良いチームである証拠だ。世界最高の選手の一人であるヤニス・アデトクンボとの対戦は特別な機会になるだろう。ヤニスと対戦して敗退するとなっても、それは悪いことじゃない。僕らは楽しむつもりだよ」

グループ4位での突破だけに、決勝トーナメント初戦ではここまで圧倒的な強さを誇るギリシャとの対戦となる。次からはホームアドバンテージもない。だが、フルバンの言うように、チェコにとってはケガ人などの課題を乗り越えてチーム一丸で戦うすべてが良い経験となる。