マイケル・ジョーダンも効果を実感した秘密のトレーニング
NBAのスター選手がボールを運び、シュート体勢に入ると、コートサイドにいるフォトグラファーは連続でシャッターを切り、選手は四方八方から強いフラッシュを浴びることになる。
ボールをリリースする瞬間に、あれだけ強烈なフラッシュを浴びれば、視界が白くなり、目標を外してしまう確率も高くなるはず。しかしステファン・カリーは昨シーズン、NBA新記録となる年間402本の3ポイントシュートを成功させたばかりか、一昨年の286本から40%増という驚異的な飛躍を遂げた。その成長の背景に、ある機器を使ったトレーニングがあったことはあまり知られていない。
『ESPN』によれば、カリーは昨年のオフから『ストロボ・グラス』と呼ばれる眼鏡型の機器を着けてのトレーニングを取り入れているという。一定秒数間にカメラのフラッシュのような光が左右のレンズ内で点滅する機器で、カリーは、このグラスを着けたまま片手でドリブル、もう片方の手でテニスボールを上にトスして掴むという動作を繰り返し行うメニューを取り入れている。
実は、『神様』ことマイケル・ジョーダンも、これと同様の練習をブルズ時代に行なっていた。ジョーダンのトレーナーを務めたティム・グローヴァーは、『ESPN』との電話インタビューに応じ、ジョーダン自らが脳トレとして希望した練習だったことを明かしている。
世界中の注目を集め、コートでは常にフラッシュを浴びる。そんな状態でも自分の視野を保ち、高い確率でシュートを成功させるため、グローヴァーはシカゴの知り合いのDJに頼み、練習場の一角に強いストロボライトを設置して練習していたという。その効果は、ジョーダンの功績を見れば説明不要。だが、このトレーニングによる二次効果もあった。
『ESPN』によれば、ジョーダン自身も説明できないとのことだが、このトレーニングにより、相手の動きがスローに見えるようになったというのだ。また、相手が次にどういう動きをするのか、それ以前より一瞬早く察知できるようになったという。
「我々は100分の1秒の動作を改善させようとしている」
カリーがトレーニング時に使用しているのは、『Sensory Performance Technology』が開発したゴーグル。カリーのパーソナルトレーナー、ブランドン・ペインは、こうした神経筋トレーニングの効果により、カリーの能力が急速に飛躍したと主張する。
「我々は100分の1秒の動作を改善させようとしている。シュートを打てて終われたか、打てなかったかの違いはわずかな時間の差にある。その一瞬も無駄にできないんだ」
この機器を今オフから導入しているのはスパーズのカワイ・レナード。ボールハンドリング技術をレベルアップさせるために取り入れたということだが、その効果はウォリアーズとの開幕戦でキャリアハイの35得点、昨シーズンから4点近く上昇した今シーズンの平均得点に表れている。
また、ジョーダンの主張通り、相手の動きが以前よりスローに見えるという効果をレナードも感じているからなのか、開幕戦ではリーグトップクラスの守備を誇るアンドレ・イグダーラと1対1となった局面で、クロスオーバーと緩急をつけたドリブルで翻弄し、ミドルレンジからジャンプシュートを決める場面も見られた。
NBAトッププレーヤーは、このように脳で情報を処理し、身体に動作を指令する速度でもコンマ何秒の世界で戦っている。『ストロボライト』以外にも知られていない練習方法がまだまだ存在し、それを見つけ出し、活用した選手がこの世界を制するようになるかもしれない。