ドノバン・ミッチェル

主力が入れ替わる中でもプレーオフの常連であり続けた『理由』

クイン・スナイダーの辞任に続き、ルディ・ゴベアをトレードしたジャズですが、さらにドノバン・ミッチェルまで放出に動いていると言われています。一方でマイク・コンリーやパトリック・ベバリー、ジョーダン・クラークソンのガード陣は、明らかに飽和しているにもかかわらず整理が進んでおらず、またボーヤン・ボグダノビッチのようにトレード需要のあるベテランウイングもロスターに残したままです。

現実的なチーム作りというよりは、ゴベアのトレードで大きな対価を得たことで勢いづいたフロントが、さらに大きなリターンを期待できそうなミッチェルというカードでトレーディングゲームに興じている、とも見える状況です。

完全に再建に踏み切って若手中心で戦えば、ドラフト上位指名権を得て新たなスター候補を獲得することは可能です。しかし、この再建方法はベテランが多い現状のロスターで目指すものではありません。これから全盛期を迎えるミッチェルをあきらめてまで進むべき方向性でもありません。フランチャイズプレイヤーである若きエースの放出は、ローカルチームのカルチャーに長期的な悪影響が出そうです。

ジャズは人口が全米で30番目というユタ州をフランチャイズにする小規模なマーケットのチームながら、1983-84シーズンからの29年間で21回プレーオフに進んでおり、勝率4割を下回ったのはわずか2回しかない強豪チームです。直近で最も苦しんだ2013-14シーズンは25勝57敗でしたが、そこから3シーズン後には50勝32敗と見事に復活しており、大物フリーエージェントの加入が期待できないローカルチームとは思えない勝利のカルチャーを持っています。

ポール・ミルサップやゴードン・ヘイワードなど、チームの中心選手がフリーエージェントで移籍しても、短期間で立て直すのも見事でした。トレードを駆使してドラフト13位指名権を手に入れミッチェルを指名したスカウト力に加え、不器用だったルディ・ゴベアを少しずつ改善させてリーグ最高のリムプロテクターへと成長させた育成力、身体能力に劣るジョー・イングルスを判断力とシュート力に秀でた戦力として有効活用するなど、得意技能を組み合わせる戦術構築力で、個人能力よりもチーム戦術で勝負するスタイルを特徴としてきました。スター選手を集めたパワーハウスにも対抗できるチーム力は、長きに渡って作られてきたジャズのカルチャーそのものといえます。

中にはドラフト上位で指名しながらフィットしない選手に「練習量が多すぎる」と不満を漏らされたこともありましたが、ハードワークを欠かさず絶えず成長するメンタリティこそがジャズの選手として求められる要素でした。ドラフト上位指名権を得て複数の有望株を獲得しながらプレーオフ進出が遠いローカルチームもある中で、ジャズは選手が入れ替わる中でもプレーオフ常連チームであり続けるのは、脈々と引き継がれるカルチャーがあるからです。

中途半端に再建するよりも、思い切ってゼロベースで作り直し、ドラフトで複数の有望株を手に入れたい気持ちも理解はできますが、新たなスター候補がミッチェルのようにジャズのカルチャーにフィットする保証はありません。何よりフランチャイズプレイヤーを放出する姿勢に加え、勝利を優先しないシーズンを過ごしてしまうと、ジャズが持つカルチャーそのものが失われる危険性があります。今やチームで最も古株となったミッチェルには、チームリーダーとしてカルチャーを伝達する役割もあるだけに、放出すべきではないと考えます。

2年前のオーナー交代を機に、ドゥエイン・ウェイドやダニー・エインジの『外部の血』がジャズに加わり、今回はスナイダーの辞任もありました。フロントから現場まで大きな変化が起こったことでジャズのカルチャーも変わろうとしているのかもしれません。前に進むために変化そのものは受け入れていく必要がありますが、ゴベアのトレード以降のチーム作りが進んでいないことも含め、良い方向に変化しているとは思えないのがジャズの現状です。