ケビン・デュラント

トレード要求で自分自身の価値を貶める状況、どのチームも獲得を躊躇

ネッツにトレードを要求しているケビン・デュラントの行き先は、セルティックスに絞られつつある。彼が最初にトレード要求をした時点では、昨シーズンの東西カンファレンス首位であるサンズとヒートが移籍先の有力候補と見られたが、ネッツの要求が過大だったために交渉は進展しなかった。

この時点でネッツは、デュラントの翻意を期待していたのだろうが、デュラントから「自分を取るか、ヘッドコーチとGMを取るか」との要求を突き付けられたことで、その期待は打ち砕かれた。

それでも、選手の要求を受け入れて指揮官のスティーブ・ナッシュやショーン・マークスGMを解雇するような規律のないチームが勝てるはずはない。オーナーのジョー・ツァイは「フロントオフィスとコーチングスタッフは私の支持を受けている」とのコメントをすぐさま発表したが、これは当然の判断だ。

デュラントは昨年夏に4年間の契約延長を結んだばかり。2026年までの契約を尊重するのであればトレード要求はできないはずだが、今は選手の権利が無秩序に拡大している。アンソニー・デイビス、ジェームズ・ハーデン、ベン・シモンズ……。スター選手はチームに不満があれば当たり前のようにトレードを要求するようになり、その理不尽ぶりは年々増している。

「自分を取るか、ヘッドコーチとGMを取るか」という要求が通るとはデュラント自身も思ってはいないだろう。彼にとってこの要求は、トレードを実現させるつもりのないネッツの態度に業を煮やした結果であり、それを受け入れるつもりはない、という決意表明だ。

もはや有効な交渉相手はセルティックスしかいない。セルティックスはジェイレン・ブラウン、デリック・ホワイト、さらに1巡目指名権を提示したが、ネッツはマーカス・スマートを欲しがっているとされる。両者が折り合いを付けてトレードを成立させるのか、あるいはネッツが別の解決策を探るのかは興味深いところだ。

ただ、今回の件がスター選手の行きすぎた要求に歯止めをかけるきっかけになるかもしれない。サンズもヒートもデュラント獲得レースから降りた。噂のあったラプターズも含め、これは「チームの将来を犠牲にしてまでデュラントを必要としない」との意思表示をしたようなもの。セルティックスとの交渉が停滞しているのも、「デュラントに対してブラウンとスマートでは割に合わない」というセルティックスのシビアな判断がある。

デュラントは来月34歳になり、アキレス腱断裂を経て復活してからの2シーズンでは154試合中90試合にしか出場していない。ネッツは彼に4年1億9800万ドル(約270億円)という超高額年俸を提示したが、他のチームはその負担に尻込みしている。デュラントが現役トップスター選手の一人であることは間違いないが、ヤニス・アデトクンボやルカ・ドンチッチのように今後何年もNBAを支配するわけではない。さらには今回の振る舞いは所属チームへのリスペクトを欠くものであり、他のチームが獲得を躊躇するのも当然だ。

セルティックスとの交渉が破談に終わった場合、ネッツとデュラントはどうするのだろうか? ネッツは新シーズンから始まる4年契約の遵守を求めるだろう。これに対してデュラントは、様々な理由を付けてプレーを回避するかもしれないが、キャリアの晩年をそんな形で棒に振ることは大きなデメリットとなる。今後の展開を読むのは難しいが、『スター選手のトレード要求』が行き詰まるケースとなる可能性は高まりつつある。