移籍先は良いオファーを出せないニックスではなく、ブルズかシクサーズ?
今オフのジャズは8年の長期政権を築いたクイン・スナイダーが辞任し、ルディ・ゴベアを放出。今は『チームの顔』であるドノバン・ミッチェルのトレードまで取り沙汰されている。長らく西カンファレンスの強豪に定着しているが、プレーオフではミッチェルの1年目と4年目に1回戦を突破したのが最高成績で、ノルマは果たしているもののファンを喜ばせるポジティブなサプライズは起こせなかった、
フロントからの続投要請を固辞したスナイダーは「チームが進化するには新しい声が必要だ」とのコメントを残している。スナイダーのサイクルが終わりを迎えたことで、大きな変革が予想された。だが、そこからCEOのダニー・エインジは、周囲の予想を大きく上回る辣腕を振るっている。
ルディ・ゴベアの放出はまだ予期できた。ミッチェルとの相性の悪さが指摘され、強力ではあっても柔軟性を欠くジャズのバスケの大きな要因でもあったからだ。ただ、エインジはミッチェル放出も辞さない、という姿勢を打ち出している。
エインジは昨シーズンが終了した時点で「面白味に欠くシーズンだった。このチームには柔軟さが欠けている」とコメントしている。彼はチームに柔軟さを持たせるために、柱をすべて取っ払ってしまうつもりなのかもしれない。
もともとソルトレイクシティは、スター選手が拠点を置きたいと思う都会ではない。ミッチェルにしてもニューヨークに自宅を持ち、オフのほとんどをそこで過ごす。ニックスが彼に執心するのも、それが一因だ。ミッチェルは2020年秋にジャズとマックス額で契約を更新したが、次の契約をジャズと結ぶことはないとエインジは見ているのだろう。
フリーエージェント選手の獲得にもハンデがある土地柄でモノを言うのは指名権だ。ゴベアのトレードでは1巡目指名権4つを手に入れた。それと同時にミッチェルについても、キャリアをここで全うするとの楽観主義を取らずに移籍市場の様子をうかがっている。
思えばエインジが来る前のジャズは、楽観主義に基づいた編成が行われていた。ミッチェルとゴベアの不仲は見て見ぬふりをし、この2人を軸にチャレンジし続ければ、いずれツキが巡ってきて優勝を狙えると考えていた。だが、そうはならなかった。スナイダーのバスケは攻守にバランスが取れていたものの柔軟性を欠き、相手の研究が進んで弱点が露呈すると、それをカバーできなかった。
この弱点はプレーオフの勝負どころで顕著に表れる。2019-20シーズンにナゲッツとの壮絶な打ち合いに敗れたことは『ツキの問題』で片づけられたかもしれないが、翌2020-21シーズンにはレギュラーシーズンでリーグ最高勝率を記録しながら、プレーオフで主力をケガで欠くクリッパーズに競り負けた。
NBAで人々の記憶に残るのは優勝したチームであり、それに続くのはプレーオフで健闘したチームだ。レギュラーシーズンでどれだけ質の高いバスケを見せ、高い勝率を残しても、ファーストラウンドで敗れたチームに『強豪』のイメージは付かない。
こうしてジャズは新たなサイクルをスタートさせた。今のところミッチェルはその構想に入っているが、条件が整えばエインジはすぐにトレードを決断するに違いない。『ミッチェルとサポートキャスト』のチームでも良い戦いはできるだろうが、優勝を争うには物足りない。だが、それは『スナイダーのサイクル』でも同じだった。エインジに言わせれば、柔軟性のある今のチームの方がポジティブなサプライズを起こせるのだろう。
ミッチェルの行き先はまだ予想できない。第一候補と見られるのはニックスだが、ジャズを納得させる条件を提示できずに交渉は行き詰まっているようだ。噂レベルに過ぎないが、複数の1巡目指名権にロンゾ・ボールとパトリック・ウィリアムズを譲渡するというブルズの条件は悪くない。1巡目指名権は1つだがトバイアス・ハリスとタイリース・マクシーを交換要員に出すセブンティシクサーズの条件も魅力的だ。マクシーはまだ21歳だが、すでに実力は実証済み。こういうタレントは「すでに当たりと決まった1巡目指名権」のようなものだ。
スナイダーが言ったように、ジャズには「新しい声」が必要なのだろう。そして、エインジは従来のチームに何ら固執することなく「新しい声」を取り入れようとしている。これからの数カ月でチームにどのような変化が訪れるのか。そしてポジティブなサプライズは起きるのか。注目して待ちたい。