1on1を5カ所作り、アドバンテージのあるマッチアップで勝負
今オフのラプターズは、ケビン・デュラントやルディ・ゴベアといったスター選手の獲得を狙う動きを見せながら、その一方で堅実な補強も進めています。フリーエージェントではクリス・ブーシェイ、サディアス・ヤングと再契約し、オット・ポーターJr.やフアンチョ・エルナンゴメスを獲得しており、ここ最近の流れ通りにビッグラインナップを強化しています。
単にサイズがあるだけでなく、運動量豊富でシュート力を備え、何よりも腕の長い選手を優先したロスター構成は、ディフェンスを中心にした戦い方をベースに、カウンターアタックとオフェンスリバウンドを長所にしたラプターズ独特の戦術になってきました。もともとは昨年オフにカイル・ラウリーが移籍し、ガードが手薄になったことで使い始めた奇策でしたが、フレッド・ヴァンブリートが離脱するとメインの戦術になり、シーズン後半には結果も伴ってきただけに、今オフはこの戦術を明確に意識した補強に動いています。
この戦術の面白いところは、単に高さを生かした強引なインサイドプレーをするのではなく、5人全員がアウトサイドに広がってドライブと3ポイントシュートで構成されることで、チームオフェンスとして細かく役割が設定されているというよりは、1on1を5カ所作ってアドバンテージのあるマッチアップで勝負することです。
キーポイントになっているのはビッグマンが増えたことで、ガードのようにプレーするパスカル・シアカムとスコッティ・バーンズが自分よりも小さい相手に積極的にドライブを仕掛け、コースを止められても高さで打ち切っていることです。ラウリーがいた一昨シーズンまでのスタイルからは考えられないほどに個人技アタックへと振り切ったバスケは、ガード並みのスキルとスピードを持った2人がいてこそ成立しています。
しかし、個人技に偏った戦い方はアジャストしない選手もいるため、OG・アヌノビーがトレードを希望しているという噂もあります。サイズとしては方針に合っている渡邊雄太もドライブからのフィニッシュ力が低いからか再契約には至っていません。何よりも弱点であるはずのガードの補強は全く進んでおらず、柔軟性に欠けたラインナップになりそうです。
プレーオフでは3ポイントシュートの成功率が30%を下回り、オフェンス力不足でファーストラウンドで散りました。以前のラプターズならば外のシュートが決まらなくても、ディフェンスを崩してのシュートが多く、試合の後半になると様々な形で攻略できましたが、今の戦い方は固定化されたパターンに留まってしまうため、同じ相手と戦うプレーオフでは次第にトーンダウンしてしまう不安が大きいです。
シーズン後半に成功したビッグラインナップですが、まだ奇策の域を超えたとは言い難い中で、特徴を色濃くして臨む新シーズンにさらなる工夫があるのかどうか。戦い方に様々な変化をつけてくるチームだけに、同じ戦い方に凝り固まることはないでしょうが、シーズンを通して戦術を熟成できなければプレーオフで同じ負け方をしそうでもあります。それともデュラントの獲得に成功し、個人能力で強引に押し切るのか。特殊なロスターがどう機能するのか楽しみでもあります。