琉球の『ボールと人が動くバスケット』に欠かせない存在
シーズン開幕から約2カ月が経過しようとしている。昨シーズンを含む計4度のリーグ制覇の実績を誇る『bj最強チーム』としてBリーグでの戦いに挑んでいる琉球ゴールデンキングスは、大きな注目を集めたアルバルク東京との開幕ゲームで連敗スタートを切ったものの、そこから持ち直し現在7勝7敗と星を五分に戻している。
11月5日と6日、大阪エヴェッサとの対戦では、ホームで痛い連敗を喫してしまったが、同じ西地区の強豪、シーホース三河、名古屋ダイヤモンドドルフィンズとはそれぞれ1勝1敗。自分たちのバスケットボールを展開できれば、どんな相手にも対抗できる。だがその一方で、少しでも気を抜いて自分たちのバスケが崩れると簡単に負けてしまう。収穫、課題の両方を身をもって体感できる、実り多き序盤戦だったと言えるだろう。
琉球が昨シーズンから取り組んでいる『ボールと人が動くバスケットボール』において、目立つ機会は少ないが欠かせない存在となっているのが金城茂之だ。ゴール下へのカットインやスクリーンなど様々な動きで味方のシュートチャンスを作り出し、粘り強いディフェンスで相手の日本人エースを抑えるなど、攻守の両面において大きな貢献を果たし、まさに縁の下の力持ちとなっている。
だが、金城が今の地位をチーム内で確立するまでには大きな苦難を乗り越える必要があった。
沖縄の古豪、北中城高校から大東文化大学を経た金城は、大卒ルーキーとして2007-08シーズンにbjリーグ参入初年度の琉球に入団する。この年はリーグ最下位に沈んだ琉球だが、翌08-09シーズンにはリーグ制覇と奇跡の大躍進を遂げる。ここで金城は、先発シューティングガードとして2桁得点をコンスタントに稼いで優勝に貢献した。さらに翌年には、エーススコアラーとして開幕から得点を量産する。
最大の武器であるスピードを生かした切れ味鋭いドライブからのレイアップやファウルを誘ってのフリースロー。そして相手がアタックを警戒して下がると間髪いれずに3ポイントシュート。このシンプルだが強力な攻撃パターンで、開幕から10試合を経過した時点で1試合平均20得点近い数字をマークしていた。
試合を通して外国籍選手を3人起用できた当時のbjリーグでは、まさに驚異的なパフォーマンスだった。だが、12月頭の練習中に右ひざの前十字靭帯断裂、半月板の損傷の重傷を負い、残りシーズンを欠場。ここから金城の『長い戦い』が始まる。
右ひざを壊した金城の『長い戦い』とスピードとの『決別』
「細かいものも入れたら4回になります」と金城自身が語るように、この時に行った最初の手術以降も、ひざの状態はなかなか良くならなかった。翌2010-11シーズンに一度は復帰したが、続く2011-12シーズンは全休するなど、ひざには何度もメスを入れることになった。この影響で、持ち味であったスピードは徐々に失われ、それに伴いベンチを温める機会が増えた。2012-13シーズンには勝敗の行方が決した後に出るだけという試合も少なくなかった。
「試合に出られず、悔しかったことは覚えています。ただ、自分の動きが100%でないから出られないことが分かっていて、それを認めることがキツかったです」と当時を振り返る金城だが、そこから大きな決断をしたことで状況が変わる。それは自身最大の持ち味であったスピードとの『決別』だった。
「3回目の手術までは速かった頃の自分に戻れると思って、リハビリやトレーニングに取り組んでいました。しかし、復帰して1年が経っても、やはりスピードは戻らない。また、戻ったとしてもチームには岸本(隆一)や山内(盛久)がいて、スピードが特徴の選手はチームに求められていない。そこで速さを取り戻すことをすっぱりあきらめました」
「違うことで勝負しよう。そこで考えたのが、このチームでは誰もやっていないことでした。とにかくその時はつなぎの役割でもどんなことでも、試合に出られるなら何でもやりますという気持ちで、そこがチーム事情とマッチしたと思います。ちょうど伊佐(勉)さんが(アシスタントから昇格し)ヘッドコーチになるのと同じタイミングで、新しい役割を与えられてからは日々の成長を感じられて、自信がついてきました」
「ケガをした後、別のチームに行くことは全く考えなかった」
冒頭で触れた金城の新たなプレースタイルを支えているのが、頭脳的なプレーだ。「スピードがなくなった代わりに得たものは、考える力やコートビジョンです。コート上での駆け引きもうまくなったと思います。コート上では、駆け引きのタイミングで、相手がオフェンスの時にしゃべることが多くなりました。これは少しでも相手に考えさせたいからですね」と語り、「葛藤して見つけたからこそ、今のスタイルになった時はブレなかったです」と続ける。
「昔はいつまでもガンガンアタックして、相手が引いたら3ポイントシュートの繰り返しで終わると思っていました」と、スピードを武器にしたプレーを引退まで続けていくものと考えていた金城。しかし、スタイルを変えた今はバスケットボールの奥深さをあらためて感じている。「駆け引きをしていると、バスケは不思議だと感じますね。必ずしも速い人が勝つスポーツではない。歩いていても点を取れる状況を見つけるのは面白いです」
ポジション的に相手の日本人エースと対峙することも多い。「Bリーグになってすごいスコアラーが日本人に多いです」と率直に言う金城だが、対策はできている。「そういう人たちにはまず良いリズムでボールを触らせない。相手に余裕を持たせない。考えさせるように守っています。どうしてもスピードでは負けるので、相手にスピードを使わせないように守ることを意識しています」
そして、今までよりも厳しい相手だからこそのやりがいも感じている。「今はとても楽しいです。1秒も気が抜けない試合ばかりで、練習でやってきたことを100%出せないと勝つのは厳しいです。だからこそ、それを出せた時は楽しいです」
苦難を見事な変化によって乗り越えた金城だが、一貫して変わらなかったことが一つある。それは琉球への愛着だ。出場機会が与えられないのであれば、新天地を求めるのはプロとして当然の選択肢。それでも「あくまでキングスでプレーしたい。良い頃に戻るまでは絶対に出たくない。自分に負けて逃げるみたいで嫌でしたし、チームに迷惑をかけた分を返したい。ケガをした後、自分から別のチームに行くことは全く考えなかったです」と自らの気持ちを強調する。
琉球が誕生した当時のメンバーで、今もチームに残っているのは金城のみ。年齢的にもベテランの域に達した。ただ、「復帰して全然うまくいかない時は、勝負する武器がなかったので、消えていくのは時間の問題と思うこともありました。ただ、今はそう思うことはないです」と、新たな武器を得たことでさらなる成長にも手応えを感じている。
シーズン中盤、琉球が飛躍できるかどうか、その鍵を握る選手として金城に注目するのも面白い。
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