Bリーグが開幕し、日本のバスケットボール界が大きく変わりつつある今、各クラブはどんな状況にあるのだろうか。それぞれのクラブが置かれた『現在』と『未来』を、クラブのキーマンに語ってもらおう。
「アルバルク東京の『夢のアリーナ』はまだ手探り」
稲葉 会社設立から半年、リーグ開幕から間もなく2カ月です。現状をどう見ていますか?
林 開幕戦からかなりメディアで露出していただいてるので、「一回行ってみようか」というお客様が随分いらしていただいたと思います。特にメディアやSNSを通じて来ていただくのは若いお客様、かつ女性の方が多いという実感です。これが来月や再来月、もしくはリーグ終盤になってきた時に、どういう人の層が多いのか。この1年は自分の目で『定点観測』していきたいと思っています。
稲葉 開幕からチームの成績も良いですし、観客動員もここまで好調です。かなりの手応えを感じているのでは?
林 去年は平均1500人しか入らなかったのが、この日曜日は前売りでソールドアウトになって、当日券を求める人が会場にいました。これは奇跡ですよ。我々は「良かった!」と喜びました。でも、これが連日満員になってチケットの争奪戦になった時、買えなかった人に「すみません、次の試合に来てください」と言うのか。違いますよね。買えなかった人をどうケアするか、もう一方で来てくれた人にどういうサービスをするのか。この意識を持ち続けて、驕ることなくやっていきたいです。
稲葉 Bリーグは『夢のアリーナ』の実現を目標として掲げていますが、アルバルク東京の『夢のアリーナ』はどんなものになるでしょうか。
林 今はまだ手探りです。まずは来ていただく人たちにストレスを与えないような観客席、リラックスできる雰囲気をどうやって作るかを考えたいです。座席の幅にしても食事しながらの観戦にしても、昔の規格で作られた体育館では窮屈なんですよね。ゆったり見ることができるシートと飲食の充実、まずはそこからかと。
稲葉 現状での強みはどこにあると考えますか?
林 選手と観客の近さが売りですね。そこは野球やサッカーと一番違う部分です。観客席を増やすと、どんどんコートから遠ざかってしまう。それが本当にお客様のためになるのか。これからは、自分の部屋のようにリラックスして試合を見られる環境を整えていきたいです。ただ単に1万人入りますとか、ビジョンがすごいですとか、それは二次的なことでしかありません。バーチャルリアリティも含め、テクノロジーは日進月歩で発展しています。アリーナの観客席で実はいろんなことが体験できる、そういった先進技術が実用化に近いところまで来ています。こういった先進技術を入れられればどんどん楽しくなります。
稲葉 やはりキーワードは『体験』ですね。新しいテクノロジーは全部Bリーグの会場でお披露目される、という形になればいいですね。
林 こういったものを行政やスポンサーと共同で作れるようなコンセプトができたら、我々のアリーナというものがより色濃く出ていいんじゃないかと思います。
「府中は『セカンドホームタウン』という位置付けです」
稲葉 開幕からここまで観客動員は好調で、おそらくお客さんの満足度も高いように思います。ただ、代々木第二体育館は来年から改修工事に入って使えなくなってしまいますよね。
林 フルキャパシティで3200人ぐらいしか入らないので、リーグの規定である5000人には届かない。丹下(健三)先生が作られた歴史的建造物なので、いたずらに改修することもできません。ただ、都心のド真ん中でやることの可能性を、実はものすごく感じています。余暇の時間を我々の試合に割いてもらう上で、代々木のあの場所というのは他に変わり得ない理想の場所です。やはりアクセスの良いところでやりたい。先日の月曜日、平日ナイトゲームにも多くのお客様に来ていただきましたが、学校が、仕事が、家事が終わってから来ていただいています。
稲葉 確かに、仕事を終えてすぐ駆け付けられるという立地はいいですよね。そうなると……来シーズン以降どこをホームアリーナにするかという問題が非常に大きいです。現状、どこまで進んでいるのですか?
林 まだ言えることはありません。東京都でBリーグの規定を満たすアリーナは数えるほどしかなくて、そこは少なからず当たっています。アプローチはしている、という状況です。
稲葉 その中で優先する点はどこでしょう?
林 目先のことだけで考えたくないので、少しお時間をください、という話ですね。我々としてはできる限り皆さんのアクセスが良いところで、そしてシートも雰囲気も良いところでやりたい。今はまだ決めあぐねています。1年か2年はいくつかの会場を借りてやることになるかもしれません。
稲葉 『都心であること』は外せない条件ですか?
林 今のところの感覚では、都心のほうがアクセスも良いし、何よりストレスがないですよね。私も都下に住んでいますが、都心に出てくるのはあまりストレスではないのですが、都心に住んでいる方が都下に行くとなると、同じ距離でもすごくストレスを感じる。これをどう考えていくか。今の代々木に来ている方はどこから来ていただいているのかの分析も必要だと思います。
稲葉 練習場として使っている府中のトヨタスポーツセンターでは改修工事が行われていますね。練習拠点は今後もあの施設を使う予定ですか?
林 トヨタ自動車の施設なので、トヨタ自動車による改修です。建ててから年数が経っていますから。アルバルク東京としては、府中には古くから応援していただいている方々もいて馴染みがあります。地域のお祭りに選手も出て行きますし。開幕前には支援者の方々を集めて決起集会もやりました。そういう意味では府中は『セカンドホームタウン』という位置付けです。府中の『郷土の森体育館』でも来年2月に試合がありますが、これは毎年続けていこうと思います。
アルバルク東京 林社長に聞く
vol.1「それぞれの専門分野での経験をどうまとめ、結束力と付加価値をつけていくか」
vol.2「我々は東京という熾烈なコンテンツ争いの中で勝っていかなければいけない」
vol.3「ただ単に1万人入りますとか、ビジョンがすごいですとか、それは二次的なこと」
vol.4「お寺を見て爆買いして東京観光が終わりでは『興奮』が足りない」