川辺泰三

昨シーズンのファイティングイーグルス名古屋はB2で絶大な強さを誇り、42勝8敗とリーグ最高勝率を残すと、その勢いのままプレーオフも勝ち進み、B2優勝を成し遂げてB1に昇格した。そんなチームを率いるのが、元プレーヤーの川辺泰三だ。脱サラし、再びバスケ界に戻って来た稀有な存在はB1での新たな戦いに闘志を燃やしている。

「選手やスタッフがお互いをリスペクトすることが一番大事」

──いよいよ来シーズンはB1での戦いが始まります。現在の心境はいかがでしょう?

B2優勝、B1昇格をするために集まったメンバーだったので、率直にうれしいですが、それと同時に全員がB1の厳しさも知っています。ワクワクもあれば不安もあり、チャレンジャーとしてどう臨むかという感じですね。

僕が京都ハンナリーズにいて、(浜口)炎さんがヘッドコーチとなった時に言われた言葉がすごく心に残っているんです。「ここにいる選手はJBLだったりいろいろなところで戦力外を経験した選手が集まっている。僕がこのチームに来てみんなと契約してもらったのは、みんながもっとできるし、もう一度花を咲かせられると思ったから」と。一緒に花を咲かせようと言われたことがすごくうれしくかったです。僕も今、同じ気持ちで彼らをもう一度B1で輝かせてあげたいと思っています。

──実際にB1で戦うためにはどんな準備が必要になってきますか?

これまで以上にスカウティングも必要になってきますし、インテンシティをどう上げていくかが一番の準備になると思います。僕やコーチ陣ができることは、相手にどこまで確率が低いところを選択させられるかというところなので、それを練習で選手に伝えていきます。強度を保ったまま相手にアジャストして、こちらの戦術を遂行する。これは難しいことですが、この準備は絶対に必要になってきますね。

例えば富樫(勇樹)選手など、B1はB2よりもスペシャルな選手が多く、1対1では守れない状況がこれまでよりも出てくると思います。シュートは水物ですしオフェンスはある程度仕方がない部分もありますが、ディフェンスは意識して徹底できるところだと思うので、スペシャルなものに対してどうチームとして守っていくかはしっかり準備していきたいです。

──ちなみに現役時代の川辺さんは感覚派だったと思います。

そうですね、その感覚をどう言語化していくかを今も追求しています。僕が勝手に名付けたのですが、選手出身のコーチは『アホ組』で、ビデオコーディネーター上がりは『賢組』って言っていました。僕のようなアホ組はこうしたらこうするというのが頭の中でできていますが、その感覚やイメージをどう伝えるかが分からないんです。賢組は確率など数字的なことは強いですが、絶対に通らないであろうパスのタイミングでも、そこは通るって言うんです。こうしたズレが生まれるので、アシスタントコーチやビデオコーディネーターと毎日ミーティングをしていました。その2時間は無礼講で何でもしゃべろうと。その積み重ねの甲斐もあって、精査してどう選手に正しく伝えていくかというのは、向上していきました。

──会社経営をしていたこともあって、チームビルディングがうまくできたと思うことはありますか?

3年ですが社長業をして、決断力やみんなを使うという部分で良い経験になっていたんじゃないかと思います。使うと言っても使いっぱなしはよくなくて、こちらが汲み取ってあげないといけない場面もある。ある程度の権限を与えてあげないとみんなが成長しないこともその時に学びました。やはり、選手やスタッフがお互いをリスペクトすることが一番大事で、昨日より今日をどうやって良くしていくか、そこにシンプルにフォーカスしていくことが大切なんだと思いました。

川辺泰三

「チームで勝つということに対して、どこまで向き合えられるか」

──結果的に素晴らしいシーズンとなりましたが、総じて順調に行った感じでしょうか?

信頼関係はできあがっていて毎日戦えていましたが、おそらく外から見ているよりも僕たちには常に危機感がありました。選手ってヘッドコーチに本当の事は言えないじゃないですか。今シーズンに集まった選手はB2の中ではエース級で、みんな試合に出たいし自分が中心になりたいと思うものです。ロールプレーヤーが少なかったのでチームビルドは難しくなるだろうなと思っていて、案の定「こいつとやりたくない」とか、「一緒に出たくない」とか、「なんで俺の出場時間はこれぐらいなんだ」等出てきて、オフコートで選手と話す時間は今までの5年間で一番長かったです。僕に話せないと思うから、アシスタントコーチに行かせたりということも一番やった年になりました。チームで勝つということに対して、どこまで向き合えられるかというのをよく話したシーズンでした。

──先ほど、浜口ヘッドコーチの話が出ましたが、思い入れのある方たちと同じ土俵でやれることに何か思うことはありますか?

本当に桶さん(桶谷大)も(浜口)炎さんも大野(篤史)さんのこともずっと尊敬している中、僕みたいな若造がチャレンジさせてもらうことは感謝しかないです。そういう場に立たせてくれたチーム、そして今ついてきてくれている選手、スタッフがいるから、しっかりみんなの思いも込めて、臆することなくライバルだと思って戦っていきたいです。オフコートは今まで通り、ご指導お願いしますみたいな形でやれたらいいと思います(笑)。

──B1に上がったことで、愛知県に4チームが揃います。それも踏まえ、ファンの方にメッセージをお願いします。

もちろん、それはプラスに働いてほしいですね。お客さんを取り合うのではなく、愛知ダービーとしてしっかり盛り上げて、ファンの方も一緒になって楽しんでもらえたらいいなと思います。FE名古屋のファンは愛知の4つのクラブの中で一番ファミリー感があると思っていて、選手もフロントもブースターも一つの家族のような形が応援や雰囲気、接し方で伝わってきますし、良い距離感の中で暖かく見守ってくれる方が多いなと思いますね。

目標であったB2優勝、B1昇格というダブルゴールをファンの方と一緒に達成できたこと、そして優勝の景色を一緒に共有できたことは僕のバスケットボール人生の中で素晴らしいことでした。ただ、B1という新しい舞台はチームが初めて見る世界でもあるので、ファンの方には背中を押してほしいです。チャンピオンシップ出場を目標とし、ディフェンスからのトランジションは変わらずやっていくので、同じ方向を向いてファンの方も一緒に戦ってください!