今オフ、アルバルク東京は5シーズンに渡って指揮を執り、2度のリーグ優勝をもたらした名将ルカ・パヴィチェヴィッチが退任した。一つのサイクルが終わり、新しい時代の舵取り役を誰に任せるか大きな注目が集まった中、リトアニア出身で48歳のデイニアス・アドマイティスが新ヘッドコーチに就任した。現役時代はリトアニア代表として2000年のシドニー五輪で銅メダルを獲得すると、指導者としても2019年のワールドカップでは母国の代表ヘッドコーチを務めるなど実績十分だ。まだ、来日前でリトアニアにいる彼にどんなチームを作り上げていきたいかなど、今後の方針を聞いた。
「アルバルク東京は大きな可能性を持っているチームなので不安はないです」
――欧州で確固たる実績を残してきた中、A東京を新天地に選んだ理由を教えてください。また、今回オファーが来る前からBリーグについてどれくらい知っていましたか。
まず、アルバルク東京を選んだのは大きな野望を持っていて、とても評判が良いチームであるからです。Bリーグについては年々発展しているリーグと私の周りでは見られています。2年前から、私もヨーロッパの関係者たちとBリーグのことを話題にしていました。当時、ユーロリーグやユーローカップでプレーしていた選手たちと高額な契約を結び、それでより多くの人々が興味を持ち始めました。私もBリーグでプレーする何人かの選手をフォローしました。大きな可能性を持っているリーグです。
――A東京については何か知っていましたか。
A東京というチーム名、ルカ(パヴィチェヴィッチ)がヘッドコーチを務めていること。あと(ミルコ)ビエリツァなど、過去にプレーしていた選手も知っています。そしてオファーが来たことでより詳細な情報を得ることができましたが、そのすべてが素晴らしいものでした。ルカとは同世代で、現役時代に何度が試合で戦ったことがあります。また、コーチになってリトアニア代表のセカンドチームを率いている時、彼も同じように代表のセカンドチームでコーチを務めていて何度も会いました。友人というわけではないですが、面識はあります。
――ヨーロッパを離れ、今までと大きく違う環境の日本に身を置くことに不安はなかったですか。
A東京は大きな可能性を持っているチームなので不安はないです。そして、今までと違う経験を積むことで、私はより良いバスケットボールコーチ、一人の人間になれると思っています。日本にはかつて一度、1995年のユニバーシアード福岡大会で訪れたことがあります。当時はリトアニアがソビエト連邦から独立して5年くらいで、私たちはまだ若い国でした。日本は我々と大きく違っていて、いろいろなことが衝撃的でした。大会がしっかりと組織的に運営されていて、すべてが時間通りに進行していて完璧だったこと。スタッフの方たちは仕事に熱心に取り組んでいて、英語があまり話せなくても私たちを助けようとしてくれる姿勢に感銘を受けました。また、私はチームの中心選手ではなかったですが、街の人々から注目を集めました。200cm付近の選手が4、5人で行動していると、写真を撮りたいと声をかけられたりしました。リトアニアでは誰もそういうことをしないので、とても驚きました。もちろん、人々がとても親切だったことも印象に残っています。
――A東京の地元は東京です。どんなイメージを持っていますか。
リトアニアは人口280万人の国ですが、東京と周辺都市だけで3000万人もいると聞いています。数年前、東京に行ったことがある友人と話しましたが、とても大きな都市で東京とリトアニアでは全く違う場所だということは分かります。多くの素晴らしい美術館や歴史的な名所があり、「東京では何でも手に入れられる」と友人が言っていました。私は新しい土地に行ってその国や言語を学ぶのが好きです。私の仕事をする場所が体育館であることは変わりません。オフの日といってもなかなか外出できない時もありますけど、東京のように美しく大きな都市で暮らせることを楽しみにしています。
「大切なのはプレッシャーをチャレンジととらえ、自分のモチベーションにすること」
――これからA東京を率いるにあたり、チーム作りの中で大切にしていることや自身のバスケットボール哲学を教えてください。
バスケットボールはシンプルであると同時に難しいものです。すべてのコーチは、自分の選手たちそれぞれの特徴を生かせるようにアジャストしないといけません。重要なことは自分たちのアドバンテージを使うこと。チームとしてそれをしっかり実践するのは簡単ではないですが、選手たちは自分が何をするべきかが分かれば楽しんでプレーできます。そして、私の哲学はコート上では規律、情熱を持ってスマートにプレーすることです。
――日本のバスケットボールについてどんな印象がありますか。
代表チームでプレーしていた時、日本代表と何度か親善試合で戦いました。よく覚えているのは3ポイントシュートを決める選手が多かったことです。当時のリトアニアはスピードがあまりないチームだったので、スピードがあり多くの3ポイントシュートを打ってくる日本と対戦した時は苦労しました。ワールドカップなどの国際大会、親善試合などを通して何人かの日本人選手を見てきました。とても才能のある選手がいて、代表はポテンシャルを持っているチームだと思います。
――A東京の大黒柱である田中大貴選手は、日本代表として長らくプレーしていました。彼のプレーを見た記憶はありますか。
どの大会だったかは正確に覚えていないですが、大貴が代表でプレーしているのを見たことはあります。彼はオールラウンダーで、的確な判断をしてシュートを決める。エナジーがありスマートにプレーできるなど、様々なことをこなせる選手です。だから彼がA東京で9年プレーしていることにも驚きはないですし、チームにとって大きな存在であると思います。もちろんすべての選手たちとしっかりコミュニケーションを取っていく必要があります。ただ、その中でもまずは長く在籍している大貴やアレックス(カーク)から、A東京がどんなチーム作りをしてきたのか、情報を得ることが大事だと思っています。
――先日、セバスチャン・サイズ選手はワールドカップ予選のWindow3にスペイン代表として出場しました。
彼のプレーは見ていました。(77-76で勝利した)ウクライナとの試合でミスもしましたが、最後のプレーでブロックを決めスペインが勝ちました。とても大きなプレーでした。彼は攻守の両方でエナジーを発揮してくれます。国際大会の経験も豊富で、フィジカルに優れており、他の選手とは異なるものをチームにもたらすことができます。
――A東京は毎シーズン、優勝候補に挙げられているビッグクラブです。就任1年目から大きな成果を期待されるチームを率いることにプレッシャーはありませんか。
これまで私は選手、コーチとして、常に優勝を狙うような大きなチャレンジをしているチームに在籍していました。私のバスケットボール人生は常に最高峰を目指す旅となっていますが、それはあるべき姿だと思います。小さい目標ではなく大きな目標を掲げる必要があり、たとえそこに到達できなくても、高みを目指した経験は次のシーズンの助けになります。シーズンは長く、時には故障者、病気の選手が出て我慢が必要な時など、多くのアップダウンがあります。それを乗り越えていくためにも、どんなビジョンを持って戦っていくかは重要です。そして、先ほども伝えましたが、私がアルバルクを選んだ理由の一つは大きな野望を持っているからです。
プレッシャーに関して言えば、プロバスケットボールが大きなプレッシャーのかかる仕事だとは思っていません。例えば病院で働く人たちなど、他にもっと大きなプレッシャーを受けている仕事はあります。ファン、オーナーなどチームに関係する方々からのリーグ優勝、カップ戦での優勝を求める重圧はありますが、これは普通のことです。大切なのはプレッシャーをチャレンジととらえ、自分のモチベーションにすることです。
――最後にファンへのメッセージをお願いします。
私だけでなく、ファンの皆さんにとっても重要なのは選手が情熱を持ってプレーすることだと思います。私は気持ちを前面に押し出してプレーするチームが好きですし、試合には強い決意を持って臨まないといけません。ファンの皆さんには40分間、自分たちの持てる力のすべてをコートの上で出し切るチームを作ることを約束します。その姿を皆さんには楽しんでいただきたいです。